細野 眞 先生の講演このページを印刷する - 細野 眞 先生の講演

2014年5月17日開催 第15回 がん診療アップデート がんの予防・早期発見 開催レポート
  がん診療アップデート会場
 開講の挨拶
 細野 眞 先生の講演
 神戸 章 先生の講演
 堀内 哲也 先生の講演
 陰山 麻美子 先生の講演
 原 千晶さんの講演(1)
  原 千晶さんの講演(2)
 原 千晶さんの講演(3)
 閉講の挨拶
 
細野 眞 先生の講演


「PETによるがん検診」 近畿大学高度先端総合医療センター 細野 眞 教授

PETを使ったがん検診についてお話させていただきます。
早速ですが、今日お越しの皆様にお聞きしますが、PETによるがん診断というものを今までに聞いたことがあるという方、挙手をしていただけませんでしょうか? [多くの方が挙手] 有り難うございます。実に多くの方がPETによるがん診断というものをご存知だということがわかり一安心でございます。
PETというのは日本語で言いますと陽電子断層撮影と言います。その中でも非常に良く使われるのがFDG(フルオロデオキシグルコース)と言いまして、ブドウ糖をアイソトープでくっつけたものでこれが体の中の糖代謝が盛んなところに集まります。多くのがんは体の中で非常に盛んに糖代謝しますので、このFDGががんの部分にあつまりそれを外から撮影することによってがんの部位やその広がり具合がわかるというものです。これがPET(陽電子断層撮影)により画像化するという比較的新しい診断法です。

スクリーン
近畿大学高度先端総合医療センター 細野 眞 教授

このPETにX線CTを加え複合させたPET/CT検査というのが今非常に盛んに行われていますが、まず体の負担が非常に低いのが特徴です。
手順は、FDGを注射→一時間待機→PETとCTで撮影、という流れになります。
がん検診をさせていただく究極の目的は、がん死亡率を減少させることです。そのために手順の有効性を確立した検診手法をとるということ、そしてその手法をしっかり精度管理をしておこなうということ、正しくおこなって正しく受けていただいて、死亡率減少につなげていくというのが、がん検診の一般であります。
がん検診を大きく二つに分けますと対策型検診と任意型検診になります。
対策型検診は住民検診の枠組み等で広く行われています。胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなどの検診というのは我々住民国民全体の死亡率を下げるために公的資金・税金を使って公共的におこなっているもので、住民国民全体の利益不利益のバランスを考えておこなっているものです。

一方、このPET検診は任意型検診に属するもので、一言で言いますと、受診される方とサービスを提供する医療機関の間でしっかり相談して納得していただいた上、受診される方がご自身でプラスになると判断された上でおこなう仕組みになっているということです。そういう性質上、まず対策型検診を受けていただいてからPETを受けていただくかどうかを考えていただければと思います。実はPETのがん検診だけで本当にがん死亡率が減少するという証拠はまだ確立していないのが現状なのです。ではどうやってこのPETの有用性を説明するかですが、まずはしっかりと対策型検診を受けていただいて、より一層の安心感を得るためにPETを受けていただくという風にご理解いただければと思います。

スクリーン
スクリーン

ここである受診者の例をあげます。この方はご自身でPET/CT検診に来られ胃がんが見つかりました。ただ少し受けられたタイミングが遅かったのです。というのは肝臓とかに広がりがあったのです。この例でわかるのは、まず対策型検診をきちんと受けておられなかったということが非常に注意すべき点ではないかと思います。時々私どものところに来られる方で、症状があったからPETを受けに来られたということを仰る方がおられますが、診療の手順できちんとした病院で診断を受けて頂く方が本筋だと思います。受けるべき診療の代わりにPETということはあり得ないのです。

PETによるがん検診の実態がどのようになっているかと申し上げます。核医学会を通じてPET施設のネットワークがあり、これで国内のがん検診の実態を把握しております。大体100人に1人ぐらいの割合でPET検診でがんが見つかっているということです。PETの役立て方というのは必ずしもがんを見つけたり病巣から良性か悪性か判定するということでもないのです。
このような例があります。背中にPETで光っている部分がありますがこれはがんではなくて結核性の膿瘍だったり、乳がんの既往歴のある方の血管炎症であったりということがある一方、がんであってもPETで光らないものもあるのが事実です。PETの一番の役立たせ方は、がんが分かってからの広がり診断やがん治療方針の決定ということです。今世界的にいろんなデータを集積して、がん診療の中で20~40%の患者さんでPET検査をすることによって治療方針が変わるということです。今がん診療の中ではPETは欠かせないということです。

そこでPET研修セミナーというものを開催しまして、若い先生方に集まっていただいて研修をおこないました。PET診療の中身を高める努力を日々積み重ねているということをご理解頂ければと思います。
PETによるがん検診は、PET検査自体は体に負担が少ないし安全な検査でありますが、検診ということならば、やはりきちんと住民検診などの対策型検診を受けて頂いてから、より一層の安心・確認のためにPET検診をご利用頂くのが良いと思います。それと、万が一がんが見つかった後においては、PET検査は大変役に立つということであります。