実験動物に施される科学的処置の苦痛評価とコントロールこのページを印刷する - 実験動物に施される科学的処置の苦痛評価とコントロール

 

英国実験動物学会「苦痛の評価とコントロール」調査委員会報告書
 

 

The Assessment and Contro1 of the Severity of Scientific Proeedures on Laboratory Animals:Report of the Laboratory Animal Science Assoeiation
 

 

Working Party(Assessment and Control of Severity)*

(*J.Wallace(委員長),J.Sanford,M.W.Smith,K.Ⅴ.Spencer)
 

 

緒   言

近年,科学研究のために使用される動物の福祉に対する関心が高まってきている。社会の多くの人々は,実験動物の福祉のための配慮が適正になされること,そして科学者が動物実験を注意深く,あわれみ深く行なうことにとくに関心をもっている。
 

この社会の動物福祉に対する関心は,動物(科学的処置)法1986の規定に反映されている。本法は,免許および認定証を発行することにより,実験用脊椎動物の繁殖,飼育および使用をコントロールしている。
 

プロジェクト免許および個人免許に詳細に記載されている条件により,動物に施される処置の苦痛(severity:全訳14-1の訳例に従った)がコントロールされている。プロジェクト免許および個人免許の保有者は,当該プロジェクトにおいて使用される動物種の痛み(pain)および苦しみ(discomfort)の徴候を熟知していなければならず,動物に施される処置の苦痛をコントロールしなければならない。動物に施される処置の苦痛は,実験結果に影響を及ぼさない範囲において,最小にしなければならない。また,人道的殺処分の条項が適用される。
 

そのためには,科学的処置のために動物を飼育あるいは使用しようとする者は,実験動物に与えられる科学的処置の有害な影響の程度をコントロールするための方法を考案し,かつ実行しなければならない。
 

動物に施される科学的処置の有害な影響を評価,識別,そしてコントロールすることに関する問題は複雑であり,その問題に対する解答は容易には得られない。現在までのところ,ヒトあるいは動物における痛みあるいは苦しみを客観的に定量化するための尺度は存在しない。この問題は,実験用げっ歯類あるいはウサギのような小型動物を用いる場合には,さらに困難なものになる。
 

実験動物における痛みの徴候の分類に関するアンケートが実験動物学会により配布された。このアンケートの結果によると,実験動物の分野において働いている多くの人々は,臨床所見のみで小型げっ歯類における痛みあるいは苦しみを識別,評価するのは困難であると感じている。
 

本調査委員会は,実験動物における痛みおよび苦しみの識別,評価に関する問題を考え,そしてそのような問題をどのように取り扱うのがよいかを検討するために,実験動物学会によって召集された。
 

MortonおよびGriffiths(1985)の論文および「獣医学教官および獣医学研究者協会」の報告書にも,実験動物および他の動物の痛みおよび苦しみに関する問題が記載されているが,これらは主に臨床的な観点から記載されている。Barclayら(1988)は,科学的処置がラットおよびマウスの行動に及ばす影響の指標について記載した。
 

実験用げっ歯類およびウサギにおける痛みおよび苦しみの徴侯に関するガイダソスを提供するのみならず,私たちは,小型実験動物に施される科学的処置の有害な影響を評価,コントロールするための方法も記載した。もし科学者が苦痛の原因,そして苦痛を評価,コソトロールするための方法を知っていれば,実験動物に与えられる痛みおよび苦しみをコソトロールすることができるようになる。
 

本報告書は,主に個人免許およびプロジェクト免許保有者のために記載されており,動物(科学的処置)法1986の規定を理解するために役立つであろう。
 

実験動物の福祉は,多くの人々の関心事であり,本報告書がこの分野において貢献することを期待する。
 

                                                      委員長 JamesWallace
 

                                                           1989年12月

 

第1章 科学的処置の苦痛の評価
 

動物(科学的処置)法1986により,科学的処置の有害な影響は3つのカテゴリー,すなわち弱,中,強に分類されている。動物(科学的処置)法1986 の施行に関する内務省の指導要綱(内務省,1986)に,上記3つのカテゴリーの定義,およびそれぞれのカテゴリーに属する科学的処置の例が示されている。
 

上記の3つのカテゴリーは,「弱」,「中」,「強」の順に苦痛(severity)が強くなることを示しているが,その分類は主観的であり,ヒトにおける臨床的痛みを評価する際に使用される言語尺度法Verbal Rating Scale(VRS)に基づいて行なわれる。VRSとは,言語記載により,痛みの性質,強さ,持続期間を評価する方法である。動物に施される科学的処置の苦痛を評価する際には,その尺度を決めないと,上記3つのカテゴリーはあまり実際的なものにはならない。
 

もし動物実験において,動物に施される科学的処置の苦痛を一定の方法で評価,コントロールしようとするならば,苦痛を客観的に評価する方法について検討する必要がある。
 

 

苦痛の定義
 

動物(科学的処置)法1986においては,「痛み(pain)」,「苦しみ(sufrering,distress)」.「持続する傷害(1astingbarm)」という語句は,もっとも広い意味において使用されており,それらは死,疾病,傷害,生理学的あるいは心理学的ストレス,著しい不快感,その他の健康障害を意味する(急性のものも慢性のものも含まれる)。
 

この定義によると,痛みとは科学的処置により引き起こされる多くの有害な影響の1つに過ぎないことは明らかである。また,動物(科学的処置)法1986によると,科学的処置の苦痛は,動物の安寧を妨げるものの性質,強さ,持続期間によって決まるものである。
 

「安寧」という語句は,動物が正常で健康であり,脅威のない環境に住み,かつ必要なものはすべて存在している状態を意味する。科学的処置の苦痛を評価する際には,安寧という語句は,健康,満足,社会的および動物行動学的必要条件の充足という意味を含む。
 

同様に,痛み,苦しみ(discomfort),健康障害,恐怖(fear),不快(discomfort deprivation),隔離,その他の不愉快な状態,感覚は,「安寧」を妨げるものとみなされる。
 

科学的処置の有害な影響(苦痛)は,以下のことがらと関連している。
 

(i)処置(challenge)の性質,持続期間,強さ,および頻度
 

(ii)使用される生物学的システム,および動物に与えられる,短期間および長期間にわ  たる痛み,苦しみ,不快
 

(iii)それぞれの動物あるいは動物種がとくに必要とすることに対する妨害
 

(iv)処置が与えられるときの環境条件
 

科学的処置の苦痛を評価する際には,ある特定の処置の累積効果を考慮に入れなければならない。処置を繰り返し与えることは,苦痛が強くなることを意味する。
 

それぞれの動物あるいは動物種が必要とするものをすべて熟知することはできないが,それらのうちのあるものは,ヒトおよび多くの動物の生存および安寧のために必要のものであることは明らかである。基本的な生理学的機能を妨害することは,行動学的必要条件を妨害することに比し,動物の生存および安寧がより大きな危険を被ることを意味する(Maslow,1970;Curtis,1985)。
 

 

苦痛の評価
 

ヒトから隔たった動物において,科学的処置の有害な影響(痛み,苦しみ,不快)の程度を評価することはむずかしい。
 

ヒトにおいては,個人的な経験および痛み,苦しみ,不快を言語によって記載することができる能力のおかげで,苦痛を評価することができる。幼児(E1andとAnderson,1977;McGrathら,1985)あるいは動物のように,言語によるコミュニケーションができない場合,あるいは認識能力が限られている場合には,苦痛を評価することはむずかしい。動物における痛み,苦しみ,不快の存在は,観察により推測するしかない。擬人法を用いても,この問題の解決には役立たない。動物における苦痛,不快の性質を判定するためには,適当な知識および経験を得なければならない。
 

痛みの刺激あるいは苦しみを与えるものに対する動物の行動学的,生理学的反応は一定ではなく,個体により,あるいは動物種により異なる。その反応は,進化の過程,遺伝子の構成により決定され,そして個体の経験により変化する。
 

ヒトにおいて痛みあるいは苦しみを引き起こす刺激あるいは経験は,もしそれらが動物には痛みあるいは苦しみを引き起こさないという証拠がない場合には,動物にも同様に痛みあるいは苦しみを引き起こすものと考えるべきである。このような考えかたは,ある特定の動物種の安寧に影響を及ぼすことが知られているものについて検討する場合にも適用されなければならない。
 

 

苦痛の構成要素
 

科学的処置の有害な影響は,2つの大きな要素から構成される。
 

1.科学的要素:科学的処置そのものによるもの。化合物の毒性,薬剤あるいは感染性因子の作用,行動の変更などが科学的要素の例である。
 

2.技術的要素:科学的処置を施すために動物に適用される技術によるもの。生物学的なプロセスを変更,コントロール,モニタすること,あるいは科学的処置を施すために使用される技術が技術的要素の例である。
 

 

科学的要素
 

有害な影響の科学的要素を評価するためには,当該研究分野におけるプロジェクト免許保有者の専門知識およびそれぞれの処置の性質に関する専門知識が必要である。
 

 

技術的要素
 

場合によっては,有害な影響の技術的要素のはうが科学的要素よりも大きいことがある。たとえば,外科的処置そのもの,あるいは外科的処置後の痛み,苦しみ,不快は,いかなる科学的要素よりも大きな危険を動物の生命にもたらすことがある。逆に,注射された薬剤(科学的要素)が技術的要素よりも大きな有害な影響を及ぼすこともある。
 

 

苦痛の指標
 

科学的処置の苦痛の指標(index of severity:SI)を定めるためのシステムを以下に記す。このシステムにおいては,多くの科学的処置に共通な苦痛の構成要素を苦痛によって分類し,それらに数字(スケール)を付けて苦痛度の範囲を示す。
 

科学的処置の苦痛の構成要素を分類し,動物に与えられる有害な影響(苦痛)に基づいて,それらに数字(スコア)を付ける。もし,動物を保定することが科学的処置の苦痛に影響を及ぼしていると考えられ,そしてスケール4という数値を与えられている場合には,ごく短時間で保定することのスコアは1または0であり,持続的に動物の体全体を保定することのスコアは4である。
 

科学的処置の苦痛の構成要素すべてのスコアを合計して,当該処置の苦痛の指標(SI)が得られる。合計した数値(SI)が大きければ大きいほど苦痛は大きい。
 

科学的処置の苦痛の構成要素のスコアおよび科学的処置の苦痛の指標(SI)は数字で示されるが,これらの数値は絶対的なものではない。たとえば,スケール5の要素の場合には,スコア0は正常な状態を示し,スコア1は最小の苦痛を示す。スコア5はスコア1よりも苦痛が大きいことを示すが,必ずしもスコア5 の苦痛がスコア1の苦痛の5倍であるというわけではない。
 

一般的に,SIは以下の3つの段階に分類されている。
 

<8    弱
 

8~20   中
 

>20    強
 

上記3つの段階の境界の数値が重なっているが,これはこれらの数値が絶対的なものではないことを示している。
 

 

科学的処置の苦痛の構成要素の分類およびスコア 以下のリストは,すべての科学的処置の苦痛の構成要素を示すものではないが,多くの科学的処置に共通な要素を示している。
 

 

意識(スケール1)
 

科学的処置が施されている間,動物の意識がある。動物に与えられる苦痛に基づいてスコアを定める。
 

 

麻酔(スケール4)
 

この技術には,保定,鎖痛,あるいは筋弛緩のために施される全身麻酔が含まれる。麻酔薬は,科学的処置が施されている間苦痛を除去するが,麻酔薬の使用は生命の危険に多少の影響を及ぼし,また麻酔からの回復期には不快感を伴う。麻酔の持続時間,麻酔方法および動物に対する危険性に基づいてスコアを定める。
 

 

準備(スケール2)
 

この処置あるいは技術には,準備のための処置,たとえば,意識のある動物を剃毛する,絶食させる,あるいはトレーニングさせることなどが含まれる。これらの処置自体は痛みを伴わないが,ストレスを与える。
 

 

保定(スケール4)
 

大部分の実験動物は,保定(手による保定,保定器による保定にかかわらず)されることを嫌がる。ごく短時間で保定することのスコアは1または0であり,持続的に動物のからだ全体を保定することのスコアは4である。
 

 

持統期間(スケール2)
 

一時的な苦痛は,動物あるいは生理にほとんど影響を及ばさない。しかし,長時間持続する苦痛は,動物に対する危険性を増大させることが考えられる。科学的処置の有害な影響(苦痛)は,しばしば苦痛の強さおよび持続時間と密接な関連がある。
 

 

組織の感受性(スケール2)
 

科学的処置の苦痛を評価する場合には,有害な刺激に対する組織の感受性の差を考慮に入れなければならない。気道はとくに外傷あるいは化学的刺激に対して敏感であり,腸管を膨満させることは痛みを伴う。
 

哺乳類および鳥類においては,眼の表面はほとんどすべての刺激に対して敏感である。組織の感受性に関しては,第3章において詳述されている。
 

 

器官の危険性(スケール2)
 

この処置は,ある特定の組織あるいは器官系に対する害作用の危険性を意味する。眼窩静脈叢から採血することは,眼に永続する損傷を与える危険を伴う。胃管挿入は,気管内に誤って異物を挿入する危険を伴う。
 

 

死亡率(スケール4)
 

この処置は,動物の生存に対する危険性を意味する。胸腔内あるいは腹腔内の外科的処置の大部分は,動物の生命に対する危険を伴う。心臓穿刺を施し,その後動物を生存させる場合には,動物の生命に対する危険を伴う。
 

痛み,苦しみ,および正常な生理学的機能および活動の剥奪のスコアは2度算定される。1度目は,科学的処置が施されている間に動物に与えられるものであり,2度目は,科学的処置が施された後に結果として生じるものである。
 

 

痛み(スケール5)
 

科学的処置の痛みは,以下の基準を用いて評価される。
 

(i)意識のあるヒトに与えたときに,痛みを引き起こすと考えられる刺激
 

(ii)組織の損傷,拡張,炎症を引き起こす刺激
 

(iii)意識のある動物に与えたときに,通常痛みを伴う生理学的および行動学的反応を    引き起こす刺激
 

痛みの評価は,痛みの性質,強さ,および持続期間に基づいてなされる。たとえば,浅い組織内に1回注射をして,一時的に弱い不快感を引き起こす場合のスコアは最小である。強い,そして(あるいは)持続する痛みを引き起こす処置のスコアは大きい。痛みの知覚,強さ,あるいは持続期間を縮小させる要素,たとえば,麻酔薬あるいは鎮痛剤などの使用も考慮に入れなければならない。
 

 

苦しみ(スケール5)
 

動物に施される技術には,動物に苦しみを引き起こすもの,痛みを引き起こすもの,そして痛みおよび苦しみを引き起こすものがあるが,これらを区別することは重要である。
 

動物実験を行なった経験の少ない者にとって,動物の感情が損われたときの徴候と痛み,あるいは苦しみの徴侯とを見分けることはむずかしい。動物は、保定あるいは他の処置に対して,鳴いたり,あるいは激しく抵抗したりするが,これらの徴候は,必ずしも動物が痛みあるいは苦しみを被っていることを示しているわけではない。
 

葛藤,欲求不満,恐怖,あるいは不安を引き起こす処置は苦しみを伴う可能性はあるが,痛みを伴うものではない。あるレベルの音,温度刺激,電気刺激,化学的刺激は,刺激の性質,持続期間および強さによって,苦しみのみを引き起こす場合,あるいは痛みおよび苦しみを引き起こす場合がある。飼料あるいは飲水の摂取を制限することは,苦しみを伴う。意識のある動物において,眼,四肢,鼻腔,呼吸器系を処置すること,胃管挿入を行なうことは,痛みは伴わない場合でも,苦しみを伴うことが多い。
 

 

剥奪(スケール5)
 

剥奪とは,短期間あるいは永続的に,動物の正常な生理学的機能あるいは活動を剥奪することに繋がるような処置を意味する。多くの外科的処置は,動物の生理学的機能,行動,あるいは活動に影響を及ばす。
 

動物の感覚器官に処置を施すと,動物の行動あるいは活動のレパートリーが減少する。動物の活動を制限するため,あるいは動物のからだを保護するために,首輪,つり包帯を使用すること,あるいは衣服を着用させること,隔離すること,正常な動きを制限することなどは,すべて生理学的行動の剥奪である。
 

 

表1.科学的処置の苦痛の評価の例                   
             

構成要素のスケール                    科学的処置の結果
 

として生じる
 

意識 麻酔 準備 保定 持続 組織の 器官の 死亡率 痛み 苦しみ 剥奪 痛み 苦しみ 剥奪 苦痛程度
 

期間 感受性 危険性                     の指標
 

                           
処  置 1   4   2   4   2   1   1   4   5   5   5   5   5   5   の指標  
皮膚への局所的投与 1    -    1    1    -   -   -   -   -   -   -   -   -   -   3
腹腔内注射 1   -   -   1   -   -   1   -   1   -   -   -   -   -   4
眼窩静脈叢からの採血
意識のある動物 1   -   -   2   -   1   1   -   2   2    -   1    1   -   11
麻酔された動物 -   1   -   -   -   -   1   -   -   -   -   1    1   -    4
パラビオーシス -   3   -   3   2   1    -   2   -   -   -    4    4   5   24
保  定
ひもを用いて台に保定
非持続的  1   1   3   1   -   -   -   -   3   3   -   -     -   12
持続的(24時間) 1   -   1   3   2   -   -   -   -   3   3   -   -   -   13
心臓穿刺 -   2   -   -   -   -   1   2   -   -   -   -   -   6
副腎摘出 -   2   -   -   1   -   一   一   -   -   -   2   -   3   8

 

 

回数および頻度
 

上記の数値および以下の表に示す数値は,ある処置が1回施されたときの値である。ある処置が短い間隔をおいて繰り返されるときは,SIが大きくなる。処置が頻回与えられると,総体的な苦痛が増大する。通常は軽微な痛みあるいは不快感しか引き起こさないような処置でも,頻繁に繰り返され,かつ苦痛から回復するための時間が与えられない場合には,苦痛が有意に増大する。無害の物質を1回注射しても,軽微な不快感を引き起こすだけであるが,無害の物質を同じ部位に頻回注射すると,局所の組織に苦痛を及ぼす。その結果動物に与えられる痛みあるいは不快感は増大する。もし処置を与える間隔が長い場合には,処置が繰り返し施されても,苦痛はあまり増大しない。 上述のシステムに基づいて,実験用げっ歯類およびウサギにおいてよく施される処置の苦痛の分類を行なった。いくつかの処置の例を表1に示す。さらに詳細な苦痛の分類およびSIの表を本報告書の追記に示す。
 

ある物質を局所的に皮膚に投与すること,あるいは腹腔内注射を1回施すことは,最小の苦痛の例である。これら2つの処置のSIは同等であるが,個々の苦痛の構成要素は異なる。意識のある動物と麻酔された動物の眼窩静脈叢から採血する場合のSIを比較することにより,麻酔が科学的処置の苦痛に及ぼす影響を示した。処置後に強い痛み,苦しみ,および不快感を引き起こす科学的処置の例として,パラビオーシスを示す。実際には,パラビオーシスには2匹の動物が関与するので,SIはさらに大きくなる。非侵襲性の科学的処置の有害な影響の例として,保定を示す。心臓穿刺のSIは小さいが,生命に対する危険を伴う。副腎摘出は,処置終了後に初めて有意で有害で影響が現れる。
 

 

まとめ
 

科学的処置の苦痛の指標(SI)を定めることは,実際に処置を施す際に,苦痛を評価するために役立つ。また,SIを定めることにより,処置後に現れる有害な影響,動物が必要とするものを知ることができる。
 

動物に施される科学的処置の苦痛を,数字で表わした指標のみで示すことが可能であるというつもりはないし,またそうすることが望ましいというつもりもない。科学的処置の苦痛の最終的な評価は複雑であり,動物(科学的処置)査察官およびプロジェクト免許保有者に委ねるべきものである。しかし,苦痛を評価するための標準的な方法を定め,苦痛の評価を客観的で判かりやすい言葉で表現することは,実験動物の使用および福祉に関わる人々がコミュニケーショソする際に役に立つであろう。
 

現在のところ,ここに示したシステムは,科学的処置のうち技術的要素の苦痛の評価のためだけのものである。しかし,多くの研究領域,たとえば毒性学,免疫学,あるいは腫瘍の研究においては,標準的な処置法が行なわれている。このシステムは,他の多くの標準的な処置法の苦痛を評価する際にも役立つであろう。
 

 

第2章 科学的処置の苦痛のコントロール
 

実験動物の中には,科学的処置の結果として不快感を被る動物がいる。また場合によっては,科学的処置の有害な影響が研究の結果に必要のこともある。しかし,大部分の科学的処置においては,痛みあるいは不快感は不必要なものであることを強調しなければならない。動物に施される科学的処置の苦痛の原因を明らかにし,科学的処置の有害な影響をコントロールするために,あらゆる努力をしなければならない。
 

動物種および科学的処置の種類はさまざまであるので,研究者および動物福祉に関わる人々が上記の目的を達成することは容易なことではない。それにもかかわらず,この問題に系統的に取り組むことは,十分に価値のあることである。
 

科学研究においては,得られた実験結果が実験処置によるものか,あるいはその他の原因によるものかを確証するために,動物福祉に配慮することが必須である。動物の飼育および実験処置に関する方法は,それぞれの分野の発展に伴って,たえず吟味しなければならない。
 

動物のすべての処置法は,苦痛という観点から再調査しなければならない。本章に記載したことがらにより,動物処置プログラムを確立することができるであろう。
 

 

苦痛のコントロールのための動物処置プログラムの確立
 

科学的処置により直接引き起こされる苦痛の他に,実験動物の福祉あるいは苦痛に影響を及ぼす要因がある。
 

それらの要因は,
 

(i)管理方法
 

(ii)動物の飼育方法
 

(iii)研究プロジェクトの計画
 

(iv)心理的,社会的影響
 

(v)伝染病
 

(d)安楽死の方法
 

である。これらの要因が動物の安寧に及ぼす影響は,それぞれが独立している場合もあり,あるいは互いに相加的な場合もある。
 

 

管理方法
 

動物福祉に配慮した実験処置を施すために,規則および標準処置法を確立しなければならない。動物の飼育管理および科学的使用に関わる者が自分の責任をどのように果たすべきかを知っていれば,動物が痛みあるいは不快感を被る可能性は減少する。
 

動物の飼育管理および使用に責任をもつ人々の間での効果的なコミュニケーションが必須である。
 

このコミュニケーションには,動物の飼育管理および研究プロジェクト遂行に関する情報の伝達が含まれる。言葉による情報の伝達は,誤解されたり,忘れられたりしやすいので,書面を付して情報の伝達を行なうべきである。記録の方法,動物の状態の変化の報告方法は,研究プロジェクトによって異なるが,明確に規定しなければならない。そのためには,標準標作手順書Standard Operatimg Procedures(SOP)を策定することが必要である。
 

SOPには,以下の情報を記載しなければならない。
 

(i)施される処置および技術,そして動物に与えられる有害な影響
 

(ii)有害な処置に対する反応
 

(iii)記録の方法,および動物の状態に関する観察の報告方法
 

さらに必要に応じて,以下の情報も記載しなければならない。
 

(i)年齢,性別,および系統
 

(ii)飼料,飲水の摂取量
 

(iii)処置の詳細(投与経路および処置の頻度を含む)
 

(iv)処置に対する観察可能な反応
 

(v)体重表
 

(vi)疾病,死亡率,あるいは検査報告
 

(vii)動物の状態の有害な変化
 

(viii)死後の所見
 

動物の状態の変化を観察することの重要性は,いくら強調しても強調しすぎることはない。
 

 

緊急の場合の対応
 

緊急の場合に,効果的に対応することができれば,動物に与えられる痛みあるいは不快感を軽減することができる。さらに,人道的な根拠により緊急に動物を処分することも減少するので,貴重な実験データを失うことも避けることができる。
 

緊急の場合の対応には,指定獣医師への連絡から動物のデータあるいは材料の収集および保存に至るまでさまざまなものが含まれる。動物に関わりのある者はすべて,とくに時間外担当の者は,緊急の場合の対応方法を熟知していなければならない。
 

 

訓   練
 

各施設は,実験動物の飼育および使用に携わるすべての者が,それぞれの責務においてふさわしい訓練を受けるようにしなければならない。
 

各施設のプロジェクト免許および個人免許保有者,および指定軟医師,指定飼育者は,動物(科学的処置)法1986の規定に精通していなければならない。動物の飼育および使用に関わる者は,自分が担当する動物種の取り扱い方,飼育方法,正常な外観および行動を熟知していなければならない。
 

動物の取り扱い方は,経験を積んだ取り扱い者から学ばなければならない。めったに触られない動物,あるいは乱暴に取り扱われた動物は,不安を感じて攻撃的な行動を示すことがある。科学的処置が施されるとき以外に,頻繁にやさしく動物を取り扱うことは,動物のストレスおよび不安を軽減することに繋がる。
 

個人免許保有者は,上記のことがらに加えて,適当な科学的処置および技術を遂行する能力を有していなければならない。訓練は,インストラクターによって行なわなければならない。個人免許保有者は.自分が取り扱う動物の痛みおよび不快感の徴侯を熟知している必要がある。
 

特別な例外を除いて,動物(科学的処置)法1986のもとでは,科学的処置の訓練のために生きた脊椎動物を使用することは許されない。屍体を用いて,多くのことを学ぶことができる。
 

動物を処置する方法を個人で修得することができない場合には,適切な免許をもち,かつ経験を積んだ者が訓練を行なうべきである。多くの場合に,適切な免許をもつ動物飼育技術者が技術的な援助を与えることができる。
 

 

動物の飼育
 

動物の飼育とは,動物の要求を満たす適当な飼料,飲水,飼育器,および環境を供給することを意味する。これらの事項は,標準操作手順書(SOP)において規定されなければならない。
 

動物の飼育方法を変更すると,生物学的プロセスおよび実験処置に対する動物の反応が影響を受ける。可能なかぎり,動物の飼育は動物の要求を満たすように行なわれるべきである。
 

動物には,新環境に順化するための期間を与え,科学的処置を施す前には動物を検査しなければならない。輸送あるいは新しい環境は,動物にストレスを与える可能性があり,その結果,行動および生物学的反応が一時的に変化することがある。
 

動物をあまりにも密集させて飼育すること,あるいは逆に,動物を隔離して飼育することは,ストレスの原因になるので,避けるべきである。動物の飼育密度,ケージ,飼育方法の基準に関しては,「科学的処置において使用される動物の飼育器具および飼育に閑する内務省の規約」(内務省,1989)を参照されたい。
 

 

動物実験の計画および遂行
 

臨床の場合には,患者(患畜)に事前に生じたことによって引き起こされる痛み,あるいは苦しみを観察することができるだけである。研究の場合には,科学的処置の有害な影響の原因を同定し,動物に対する苦痛を予測することができる。新しい観念の研究においてさえ,使用される技術は既存のものであることが多いし,使用される組織あるいは生物学的プロセスも特定のものであることが多い。
 

したがって,研究の場合には,動物における苦痛の評価およびコントロールのための短期的および長期的方針を確立することができる。実験を計画する際の決定が,動物の福祉に甚大な影響を及ばす。
 

研究を始める前に,正常な動物の行動,外観および生理学的パラメータを調べなければならない。その際には,研究に使用する動物と同じ種,系統および性の動物を使用しなければならない。実験処置によって影響を受けることが考えられる生物学的プロセスにはとくに注意しなければならない。
 

処置後に動物を生存させる研究においては,成長率,飼料および飲水の摂取量に関するデータも必要である。なぜなら,これらは,動物の状態の変化の中では,通常もっとも早く現れ,かつもっとも信頼できるものだからである。
 

処置の性質,および処置によって引き起こされ可能性のある有害な影響について調査しなければならない。生じる可能性のある問題を指摘し,その解決方法を考えなければならない。その際には,その問題に詳しい人の助言を求めるべきである。たとえば,指定飼育者あるいは指定獣医師の助言は有益である。
 

動物を用いた実験処置および検査を施すために要する時間の見積りを行なうべきである。なぜなら,ひとたび研究プログラムが始まると,研究計画を調整することは困難だからである。動物の検査を慌てて実施したり,省略してはならない。つまり,実験を計画する際には,必要な人がいるときに大事なことを行なうことができるように計画すべきである。
 

動物の飼料あるいは飲水の摂取を制限あるいは変更する場合には,十分に注意しなければならない。新鮮で清潔な飲水の摂取をわずかに制限するだけでも,動物に苦しみを与えることがある。
 

飲水に化学物質を加えると,その飲水は動物の嗜好に合わなくなり,摂水量が低下することがある。固型飼料を与えられている動物(とくに雄動物)には,十分量の飲水を与えなければならない。さもないと,摂餌量は減少し,尿路疾患が引き起こされるであろう。飼料の摂取を制限あるいは変更する場合には,体重の減少が指定範囲内にあるようにコントロールし,摂餌量を注意深く監視しなければならない。
 

 

外科的処置
 

外科的処置は.通常の施設において,通常の道具を用いて,げっ歯類に施されることが多い。適切な外科学的および麻酔学的処置を施し,そして適切な術前,術後管理を行なう限り,問題は起こらない。
 

複雑で危険を伴う外科的処置を施す場合には,術後,適切な管理者による管理をたえず行なわなければならない。
 

小型げっ歯類の体表面積は,体重の割には比較的大きい。したがって,小型げっ歯類が麻酔され,長時間保定されているときには,体温が低下したり,あるいは脱水症状に陥ち入りやすい。外科的処置を施している間,および手術直後の回復期においては,動物のからだを暖め,また必要によっては水分を補給しなければならない。また術後には,適切な栄養を補給しなければならない。
 

小型げっ歯類を用いて外科的処置を施す場合には,以下が基本である。
 

(i)解剖学および外科学的技術に関する知識
 

(ii)無菌的技術に関する知識
 

(iii)適切かつ安全な麻酔
 

(iv)術後の鎮痛および管理
 

Waynforth(1980)は,ラットにおける実験外科学的技術に関する総論を著わしている。
 

生命に対する危険,あるいは持続的な苦痛を与えることが認められている。臨床的あるいは実験的な基準を定め,生命に対する危険,あるいは持続的な苦痛を与える以前に,実験を終了しなければならない。
 

内分泌腺の摘除,ある種の物理的刺激の付与,腫瘍細胞の移植,あるいは化学物質の投与は,動物の行動,外観あるいは機能の変化を引き起こす。このような処置が動物に及ばす影響は,たいてい予測可能であり,また持続期間も限られている。 発表された論文を参照することにより,研究の目的を損なうことなく,早い時期に実験処置を終了する方法を知ることができる。
 

動物が著しい苦しみ,あるいは障害を被る研究においては,人道的殺処分および実験的殺処分の条件をとくに注意深く検討しなければならない。癌の研究においては,「実験的腫瘍のために使用される動物の福祉に関するUKCCCR(英国癌研究調整委員会)の指針(1988)」に従って,殺処分の時期を決定しなければならない。
 

 

科学的処置の有害な影響の評価
 

MortonとGriffiths(1985)は,動物の行動,外観,およびその他の臨床的徴侯の変化に基づいて,実験動物における痛み,苦しみ,および不快感の識別に関するガイドラインを提唱した。本報告書の第4章は,実験用げっ歯類およびウサギにおける痛みおよび苦しみの徴侯の識別に関するものである。しかし,科学的処置の有害な影響を正確に評価するためには,臨床的な評価方法のみならず,その他のさまざまな方法も必要である。
 

急性の痛みあるいは苦しみは,動物の行動に変化を引き起こすが,それらの変化は,動物を直接観察することにより,識別することができる。しかし,臨床的な評価方法は主観的であり,そして観察者の熟練程度,経験および動物への接し方に依存している。
 

慢性の痛みあるいは不快感,および特定の生物学的システムに影響を及ばす処置は,微妙な変化を引き起こすが,それらの変化は,特定のテストあるいはスクリーニソグによってのみ検出することができる。Beynenら(1987)は,胆石をもっているマウスにおける不快感の程度を,マウスの行動および外観の変化により評価した。9つのパラメータのうち,姿勢の観察および右側季肋部の触診によってのみ,胆石をもっているマウスと胆石をもっていないマウスとを確信をもって識別することができた。この研究における不快感のパラメータの評価には,評価を行なう獣医師により,有意の差が認められた。
 

 

行動の変化
 

摂餌,飲水,飼料を捜し回ること,毛づくろい,あるいは睡眠などの行動の頻度,範囲,持続期間,前後関係の変化は,慢性の痛みあるいは炎症と関連している。実験的に関節炎を誘発したラットにおいては,行動および運動の変化がみられる。すなわち,歩き回ること,後肢で立つこと,摂餌,飲水などは減少し,休むこと,じっと動かなくなること,ひっかくことなどは増加する(CoIpaert,1987)。炎症を引き起こす処置および外科的処置は,サーカディアンリズムを変化させる(Landisら,1988;Farrら,1988)。
 

臨床的な観察は,できるかぎり,特定の生物学的システムあるいは行動のレパートリーの障害を検出するために考案された特定のテストおよびスクリーニングにより確認しなければならない(Barclayら,1988)。
 

薬学の研究においては,実験的に化学物質を投与した動物の行動および機能の変化を検出するための特定のスクリーニングが使われる(Silverman, 1978)。他の多くの処置によって引き起こされる有害な影響の始まりと進行を検出するためのスクリーニングおよびテストを考案することも可能である。
 

たとえば,採血をすることにより,動物の血液学的性状の変化を容易に監視することができるので,臨床的な貧血を防ぐことができる。簡単な神経支配テストにより,中枢神経系の機能不全を検出することができる。飼料および飲水の摂取量,
 

 

麻酔と鎮痛
 

麻酔薬,鎮静剤および鎮痛剤は,科学的処置を施されている動物の痛みあるいは不安を除去するために有用である。
 

どのような麻酔薬あるいは鎮痛剤を選択するかということは,科学的処置および動物の種類により決めなければならない。あらゆる場合に適用される薬剤あるいは技術は存在しない。動物の種類,系統,年齢および性別により,麻酔薬に対する感受性は有意に異なる。
 

適切な麻酔薬の選択および使用に関しては,獣医師の助言を受けなければならない。不適切な麻酔薬を使用することは,効果がないばかりではなく,有害な影響を及ぼすこともある。
 

 

多くのげっ歯類は,からだの大きさが小さく,また体表の血管が少ないので,ヴァイタルサイン(生命徴侯)を調べることがむずかしい。麻酔された動物を用いて科学的処置を施す者は,ヴァイタルサイン,たとえは心拍数,呼吸,体温について熟知していなければならない。これらのヴァイタルサインは,動物の生理学的状態の指標になる。
 

小型げっ歯類においては,緊急の蘇生法を行なうことはむずかしいので,麻酔からの覚醒の容易な単純な麻酔方法を用いるべきである。
 

鎮痛剤および抗炎症剤は,獣医学の領域において広く使用されているが,これらの薬剤は,実験用小型げっ歯類にも適用することができる。実験の目的により鎮痛剤を使用することができない場合以外には,すべての動物に,術後,鎮痛剤を投与しなければならない。鎮痛剤を飲水に混ぜて投与すれば,鎮痛剤を投与するたびに注射をすることが避けられるので,苦痛を軽減することができる。
 

複雑で長時間にわたる科学的処置を施す場合に鎮静剤を投与することは,動物の苦しみを軽減するうえに役に立つばかりでなく,実験者にとっても有益である。鎮静剤のみが必要な科学的処置と鎮静剤および鎮痛剤の両者が必要な科学的処置とを区別しなければならない。薬剤の中には,強い簾静作用をもつが,鎮痛作用をほとんど,あるいはまったくもたないものがある。
 

実験動物の麻酔の総論としては,Green(1979)およびFlecknell(1988)を参照されたい。
 

 

評価および洗練
 

実験期間中は,実験結果を頻繁に評価(review)し,動物に与えられる苦痛の頻度,強さ,あるいは持続期間を軽減するようにしなければならない。
 

実験の洗練(refinement)ということは.あらゆる段階で考慮されなければならない。ある物質を筋肉内に注射することは,多くの動物種において痛みを引き起こす。また,動物に与えられる不快感の程度は,薬剤の性質,用量および注射の頻度によって変化する。採血する場合には,採血量は,実験目的を満たす範囲内において最少にしなければならない。動物体内の全血液量の10%までなら,その動物の生理学的状態に有意な影響を及ぼすことなく,1度に採血することができる。繰り返して採血する場合には,採血許容量および採血頻度は,採血手技および血液学的値の変化により,定められなければならない。
 

死亡した動物あるいは殺処分した動物は,すべて剖検すべきである。剖検により,実験処置によって引き起こされた病理学的変化と実験処置以外の原因によって引き起こされた病理学的変化を識別することができる。
 

 

人道的および実験的殺処分
 

すべての処置に関して,人道的および実験的殺処分の条件を確立しなければならない。それらの条件の中には,苦しみの一般的な指標,およびある特定の処置に伴う有害な影響を明記しなければならない。動物(科学的処置)法1986には,動物に与えることのできる苦痛の限界が記載されている。
 

人道的殺処分:動物の健康状態が持続的かつ不可逆的に悪化している場合には,実験処置を中断し,適当な人道的方法により殺処分しなければならない。
 

実験的殺処分:例外的な処置を行なう場合の体重は,多くの急性および慢性の障害により変化する。
 

正常の機能あるいは行動からの偏差の程度により,科学的処置の苦痛の程度を評価することができる。また,この偏差の程度を知ることにより,技術を洗練させたり,人道的あるいは実験的殺処分の時期をより早期に決定することができる。
 

正常な機能の変化を検出するためのスクリーニング法のいくつかを以下に列挙する。
 

(i)体重あるいは成長の変化
 

(ii)飼料および飲水の摂取量
 

(iii)行動の変化-睡眠,毛づくろいなど組織の触診,外観の変化
 

(iv)運動-体勢立て直し反射,よじ登りおよび握り
 

(v)特定の反射-筋肉の緊張,瞳孔反射,体温
 

(vi)神経節反応,自律神経系の反応
 

(vii)血液学的あるいは生化学的パラメータの検査
 

(viii)診断的Ⅹ線
 

これらのテスト法は,簡便かつ迅速であり,そして信頼性のあるものでなければならない。また,動物に与える障害は最小でなけれはならない。
 

 

検   査
 

科学的処置の苦痛をコントロールするためには,動物を定期的に検査することが必要である。通常の検査は毎日行なわなければならない。精密な検査を行なう頻度は,科学的処置の種類により決められるが,痛みあるいは苦しみの徴侯が現れたときには,精密な検査を行なわなければならない。
 

急性毒性の研究,あるいは手術後においては,数分あるいは数時間以内に精密な換査を行なわなければならない。一方,長期間にわたる研究においては,科学的処置の有害な影響が現われるまでには,数週間あるいは数か月間を要することもある。
 

動物の検査,あるいは動物の行動の観察を行なう場合には,動物が研究室の統御された環境に適応しているようにみえても,動物の生来の行動,反応および機能は,野生状態の影響を受けていることを忘れてはならない。実験動物は,研究室において数千世代を経た後でも,野生の近縁種にきわめて類似した性質をもっている。たとえば,多くの実験用げっ歯類は,野生状態のままの夜行性の性質を保持している。
 

不安あるいは痛みを引き起こす処置に対する実験動物の行動および反応は,たいてい食肉動物あるいは被捕食動物の行動および反応に類似している。ある動物種は,明らかに痛みを伴う刺激に対してもほとんど反応を示さないが,他の動物種は,きわめて軽微な処置に対してさえ,はげしく鳴き声を立てて抵抗することがある。これはそれぞれの動物種の野生における生存と関係があり,必ずしも科学的処置によって引き起こされる痛みあるいは苦しみの程度と相関しているわけではない。
 

ウサギあるいは家禽などの動物種は,驚いたときには動かなくなり,明らかに痛みを伴う刺激に対しても目に見える反応を示さないことがある。研究に使用する動物種の生物学を理解することが有益であろう(Barnett,1963)。
 

 

心理社会的影響
 

実験動物学の発展に伴ない,実験動物の疾病,栄養不良あるいは不適切な飼育管理は減少してきた。その結果,心理社会的要因の影響が重要なものになってきた。有害な社会的影響,あるいは環境,飼育に関する有害な影響は,動物にとっては重要な問題である。これらは,科学的処置の有害な影響(苦痛)の中に含まれるものと考えられる。
 

同種の動物間,あるいは同性の動物間の社会的交流に注意しなければならない。ある種の実験用げっ歯類の雄は,群飼すると,社会的順位を決めるためにけんかをすることがある。その過程において,動物がはげしい傷害を被ることがある。社会的順位づけの確立した群から動物を取り出したり,群に動物を加えたり,あるいは群を再編成したりすると,さらに新たなけんかが始まる可能性がある。ある動物種においては,環境条件を変えることにより,社会的闘争を軽減することができる(HofrmanとHabeeb,1988)。
 

過密状態で動物を群飼することは避けなければならないが,群居性の動物種を社会的に隔離した状態で飼育すると,その動物にはストレスが加わる可能性がある。もし動物が社会的に隔離されている場合には,動物飼育管理者は,頻繁にそしてとくに注意深くその動物に接するようにしなければならない。
 

恐怖と感じられる状況,あるいは不安,葛藤を引き起こす状況は,動物およびヒトにストレスを引き起こす可能性がある(Canon,1929; Cassell,1970)。長期にわたるストレスは,動物の病理,生理学的に変化を引き起こすことがある。科学的処置は,たいてい動物に不快感あるいは苦しみを引き起こす状況と関連している。
 

意識のある動物に,複雑なあるいは新しい状況を付与するような処置を施す場合には,あらかじめ馴化あるいは訓練のための期間を設けなければならない。動物保定者,環境,および処置に慣れると,動物の不安は有意に減少する。飼料などの褒美を用いる馴化により,動物が不安を感じずに簡単な処置を容認するように条件づけすることも可能である。
 

ある期間物理的に保定される動物には,特別の配慮が必要である。小型げっ歯類を完全に動けないように保定すると,動物にストレスが加わり,生理学的なパラメータも影響を受ける(Rasmussenら,1957)。可能なかぎり,全身の保定に代わる方法を考慮すべきである。
 

やむを得ず動物を完全に動けないように保定する場合には,保定装置のデザインを十分に注意深く考慮しなければならない。ひもを用いて台に保定する方法が,筒形の保定装置を用いる方法よりも好ましい。保定装置は,使用する前に検査しておかなければならない。動物をあらかじめ訓練して,保定装置に慣れさせるための期間が必要である。保定中の動物は傷つきやすいので,静かな環境に置いて,頻繁に観察しなければならない。また,保定中の動物は,自由に動き回ることのできる動物に比べ,高い温度の環境に置くことが必要である。
 

 

伝染病
 

実験動物のコロニーに伝染病が存在する場合には,実験処置に対する動物の反応は大きな影響を受ける。伝染病は,潜在感染であれ顕性感染であれ,動物に病理,生理学的変化を引き起こすので,実験プログラムを崩壊させ,あるいは実験データを歪曲させる。動物が死亡したり,あるいは動物が病気になった場合には,実験を早期に終了しなければならない。
 

実験用げっ歯類の伝染病を治療することはきわめて困難であり,生き残った動物はキャリアになる。可髄なかぎりSPF動物を入手して,適切な飼育管理のもとで動物の健康を維持しなければならない。
 

伝染病は,感染動物および他の汚染物質を介して伝染する。感染動物の組織および体液も汚染の原因になる。研究を始める前に,動物の由来および微生物学的性質,あるいは動物とともに使用する生物製剤の低質を確認しなければならない。
 

 

安楽死
 

安楽死とは,単に苦痛を最少限にして動物を殺処分することを意味するのみならず,安楽死の直前の過程をも包含するものである。安楽死の前に動物を移動したり,あるいは動物を準備したりする場合には,動物に恐怖あるいは苦しみを与えないようにしなければならない。
 

動物は,鳴き声を立てたり,フェロモンを放出したり,あるいは行動を変化させたりすることにより,恐怖あるいは苦しみを他の動物に伝達することができる。動物が群から隔離されて安楽死を施されるまでの期間,および意識を消失するまでの期間は,できるかぎり短くしなければならない。動物を解剖あるいは廃棄する前には,臨床的な方法により動物の死を確認しなければならない。
 

安楽死は,動物(科学的処置)法1986付則1に記載されている方法,あるいはプロジェクト免許に記載されている方法により,実行しなければならない。
 

安楽死の方法の詳細な技術に関する総論が,AVMA(米国獣医師会)の安楽死に関する委員会の報告書に記載されている。
 

 

第3章 処置に対する組織および器官の感受性

 

本章においては,種々の有害な刺激に対する組織の相対的な感受性,および痛みの性質について記載する。当然,動物に与えられる痛みの性質あるいは強さに関する情報の多くは,人々の経験に基づいている。高等哺乳動物における観察および実験的根拠により,痛みの知覚と外観上の表貌とは相関していることが示されている。
 

一般的に,組織を引き伸ばすこと,強い圧力を負荷すること,極端な高温あるいは低温,あるいは細胞の傷害に繋がるような処置は,痛みあるいは苦しみを引き起こすものとみなされる。炎症性の反応は,その原因がどのようなものであれ,炎症部位に限局された痛みを引き起こすのみならず,炎症部周囲の組織の刺激に対する反応性をも亢進させる。したがって,処置を施す場合には,創傷は最小限にとどめ,そしてできるかぎり組織,とくに内臓を引き伸ばさないようにしなければならない。
 

 

皮   膚
 

皮膚の受容体は,温熱,寒冷,圧力およびその他の刺激に対して感受性であり,それらの刺激は痛みを引き起こすことがある。体表のすべての皮膚は,そのような受容体をもっているが,受容体の密度は,からだの部位により著しく異なる。とくに敏感な部位は,眼,耳,口唇および鼻鏡の周囲,四肢の指の先端および会陰部である。
 

動物は,急性の皮膚の痛みに対して反射的に反応する。たとえば,皮膚をぴくぴく動かしたりする。あるいは,動物は,痛みのある部位を噛んだり,なめたりする。そうすることにより,さらに新しい傷が形成され,そして創傷と痛みの循環が形成される。
 

痛みの強さは,有害な刺激の性質および範囲により決まるものである。鋭利な道具を用いた切開あるいは穿刺は,ごく短期間持続する痛みを引き起こすだけであるが,もし創傷の周囲に炎症が起こると,痛みの魂さは増大する。
 

擦傷あるいは刺激物質の塗布は,中程度の痛みあるいは強い痛みを引き起こす。皮膚表層の火傷も,中程度の痛みあるいは強い痛みを引き起こすが,火傷が皮膚深層にまで及ぶ場合には神経終末が破壊されるので,痛みの程度は弱いことがある。
 

保定装置を適正に使用しない場合,あるいは縫合糸やカニューレに必要以上の張力が加えられる場合には,擦傷が生じ,その結果,皮膚の刺激,感染,炎症が生じることがある。そのようなことが起こると,もとの外科的処置による痛みよりもさらに強い痛みが引き起こされる。
 

 

歯及び口腔
 

特殊な例外を除いて,動物の歯および口腔の痛みに対する感受性は,ヒトの感受性と同様であると思われる。たとえば,げっ歯類あるいはウサギの切歯は,大きな苦痛を与えることなく切り取ることができる。また一般的に,草食動物の口腔粘膜は,他の動物種の口腔粘膜に比し,痛みに対する感受性は低い。
 

歯および歯齦は,とくに圧力,温熱および寒冷に対して感受性が高い。歯髄を電気的に刺激すると痛みが生じる。この方法は,ヒトにおいて,鎮痛剤をテストするために使われている。痛みの強さは,刺激の強さによって決まるものである。
 

う歯は,侵蝕された歯の場所および侵蝕の程度により,中程度の痛みあるいは強い痛みを引き起こす。
 

口腔あるいは歯に起因する痛みは,通常,摂餌あるいは飲水の変化により識別することができる。動物は食べたり,飲んだりすることを嫌うようになり,咀嚼運動に変化が起こることもある。もし動物飼育管理者が,そのような変化に気がつかない場合には,動物の健康は損われる。
 

口腔の痛みのその他の徴候は,唾液の過剰分泌,頭部を床,ケージなどにこすりつけること,あるいは前肢で痛みのある部位をこすることなどである。炎症性の反応が起こっている部位は腫脹しているので,容易に識別できることがある。
 

もし動物の摂餌に異常がみられる場合には,口腔に痛みが生じていることを疑い,適切な検査を行なうべきである。
 

 


 

外科的処置,刺激物質の投与,あるいは感染などにより結膜に傷害が生じると,弱い痛み,中程度の痛み,あるいは強い痛みが引き起こされる。大部分の動物において,眼に対する刺激は苦痛を引き起こすので,動物は眼を刺激されることを嫌う。
 

動物は,眼に対する刺激に対しては,眼瞼を閉じることにより反応する。また,眼をこすることによって,傷害は悪化する。その結果,炎症が生じ,痛みの強さと持続期間は増加する。
 

涙の分泌が減少あるいは停止すると,いわゆる“ドライアイ”の状態になり,角膜および結膜は傷害を受けやすくなる。揮発性の麻酔薬を用いて,長時間にわたる外科的処置を施す場合には,眼が障害されないように注意しなけれはならない。
 

眼の表面の刺激のみならず,緑内障のように,眼内圧が増加すると痛みが生じることも忘れてはならない。
 

 


 

大部分の動物は耳介に触られることを嫌うが,耳介が痛みの刺激に対してとくに感受性が高いとは思われない。しかし,耳道あるいは中耳における外科的処置,刺激の付与あるいは炎症は,急性の痛みを引き起こす。動物は痛みのある部位に触られることを嫌がり,耳にかかる圧力を軽減させるために,頭を片側に傾けるということがある。そのような異常姿勢は,耳に痛みがあることを識別するために役立つが,両側の耳が傷害を受けていることもあるので,注意しなければならない。 きわめて大きな音は,周波数に関係なく痛みを引き起こす。ある動物種は,ある周波数の範囲の音に対してとくに感受性が高い。大きな音により引き起こされる痛みと苦しみを識別することはむずかしいが,人間の経験を外挿すると,ある強さ以上の音は痛みと感じられることが示唆される。エウスタキオ管がつまって鼓膜の両側の圧に差が生じると,痛みが引き起こされる。
 

 


 

筋繊維を引き伸ばすこと,膨満させること,あるいは切断させることにつながる処置は,痛みを引き起こす。外科的処置,保定あるいは筋肉内移植などの処置を施す場合には,上記の傷害を起こさないように注意しなければならない。
 

おそらく,筋の存在部位によって痛みに対する感受性に差があることはないと思われるが,常時使用する筋,たとえば呼吸筋,あるいは運動に関係する筋などにおいては,痛みはより強いものと考えられる。刺激性の溶液を筋肉内に注射すると,局部は傷害を受け,炎症を起こして,痛みが引き起こされる。炎症がはげしくないときには,外見的に筋の腫脹を見つけることはできないので,痛みの原因を見落すことがある。そのような場合は,触診により,痛みの原因を見つけることができる。化学物質あるいは溶液を筋肉内に注射する場合には,痛みを引き起こさないようにするために,投与量および溶液の浸透圧に注意しなければならない。
 

筋肉に痛みをもつ動物は,通常痛みのある部位を動かそうとしない。痛みのある部位を無理に動かそうとしたり,痛みのある部位に触ろうとすると,動物は抵抗する。一般的に,痛みの程度は,傷害の程度および範囲に相関しており,きわめて弱いものからきわめて強いものに至るまでさまざまである。
 

 

神  経
 

一般的に,神経組織は,痛みの刺激に対する受容体をもっていないものと考えられている。このことは,末梢の痛みの刺激に対する受容体にはあてはまらないが,一般的に,中枢神経系に関しては真実である。切断されたあるいは傷害された神経線維に神経腫が形成されると,知覚不全あるいは痛みが引き起こされる。
 

動物においては,除神経された部位を自ら切断することがあるが,これは神経腫が形成され,知覚不全に陥ることと関係がある。
 

中枢神経系を電気で刺激すると,刺激された部位および刺激の魂さにより,痛みあるいは鎮痛が引き起こされる。
 

 

腹部臓器
 

腹部臓器は,牽引および膨満させることに対してはとくに感受性が高い。腹部の手術を施すときには,腹部臓器を牽引することは避けられない。ヒトに比べて動物においては,手術後の痛みの徴侯が少ないように思われる。このヒトと動物の相違に関する研究がいくつか行なわれた結果,動物においてもある程度の痛みは存在することが認められた。したがって,動物に対して適切な手段をとらなければならない。
 

ヒトにおいては,胃粘膜あるいは十二指腸粘膜の潰瘍は,きわめて強い痛みを引き起こす。動物においても,胃潰瘍の場合には,痛みが引き起こされることが証明されている。
 

胃,腸あるいはその他の腹部臓器(たとえば胆嚢,膀胱など)を膨満させると,痛みが引き起こされる。腸管内でバルーンをふくらませる方法は,疝痛の鎮痛剤を実験的に評価するための方法として使われている。
 

腹部の痛みは,弱いものからきわめて強いものに至るまでさまざまである。もし腹部の痛みが長期間にわたって持続する場合には,動物は著しく衰弱する。動物における腹部の痛みの徴侯は,動かなくなること,四肢を伸ばして横臥すること,背を丸める姿勢をとること,苦悶して転がり回ること,および腹部を蹴ったり,噛んだりしようとすることなどである。
 

腹部の臓器に実験的にカニューレを挿入しても,粘膜の炎症あるいはび爛が生じない場合には,通常あまり強い苦痛を引き起こすことはない。腹部の臓器の閉塞,あるいは腹部の臓器の著しい膨満を引き起こすような処置は,きわめて強い痛みおよび苦しみを伴うので,効果的な鎮痛法を施さなければならない。内臓の痛みは,通常膨満,閉塞,あるいは炎症によって引き起こされる。
 

 

呼吸器系
 

気道は,粒子状物質,気体および蒸気などの刺激に対してとくに感受性が高い。気道に対する刺激は,咳喇を引き起こす。また,分泌が増加することにより苦痛はさらに増大する。胸膜に対する刺激も痛みを引き起こす。呼吸器系が傷害を受けた動物の呼吸は速く,そして浅い。また,呼吸器系が傷害を受けた動物は,胸部の圧力を減少させるために犬座姿勢をとることがある。重篤な呼吸困難は強い苦しみを引き起こすが,必ずしも痛みは伴わない。
 

気管および気管支は,物理的な創傷に対して感受性が高いので,上部気道に挿管する場合には,注意しなければならない。多くの動物種において,気道を閉塞することは痛みは伴わないが,苦しみを引き起こす。鼻呼吸のみを行なう小型げっ歯類においては,特別に注意しなければならない。
 

心血管系
 

冠状動脈および動脈の塞栓症の研究において,実験的血栓症および実験的梗塞が利用されている。そのような梗塞は,ヒトと同じように,動物においても痛みを引き起こすと考えられるので,梗塞形成後は,効果的な鎮痛剤を用いなければならない。
 

局所的な虚血は,虚血の起こった部位の動きを部分的あるいは完全に喪失させる。虚血が長期間にわたって持続すると,虚血部位の感覚は次第に失われていく。感覚が残っているかぎり,虚血の起こった四肢あるいはその他の部位には,痛みがあると考えるべきである。静脈への血流が制限されると局所は腫脹し,痛みが引き起こされる。その場合の痛みの程度は,弱いものから強いものに至るまでさまざまである。
 

高血圧動物は,外科的に作られたものであれ,遺伝的に得られたものであれ,苦痛を被っているようには思われない。しかし,高血圧動物は活動亢進進状態にあるので,静かな環境において注意深く取り扱わなければならない。
 

持続する頻脈は,動物に苦しみを与えるものと考えるべきである。
 

 


 

骨膜には痛みの刺激に対する多数の受容体が存在するので,骨に対する傷害は痛みを引き起こす。事故で肢を骨折した動物が骨折した肢をいやがらずに使い続けようとすることから判断すると,骨折動物が被る苦痛は,骨折したヒトが被る苦痛に比べて弱いのかもしれない。しかし,この分野は十分に研究されていないので,動物の福祉を守るために,骨折した動物も痛みを被っていると考え,適当な処置を施すべきである。
 

 

関節
 

関節に対する傷害は,とくに炎症が起こっている場合には,痛みおよび不快感を引き起こす。関節内注射は,もし関節嚢内の圧力が冗進したり,あるいは注射物質が痛みを引き起こしたりしなければ,それ自体は痛みを伴うものではない。
 

 

第4章 実験用げっ歯類およびウサギにおける痛みおよび苦しみの徴候の識別と評価
 

 

家畜,コンパニオンアニマル(伴侶動物)を含む動物の痛みや苦しみの識別と評価については他のガイドラインに述べられている(Mortonと Grirfiths,1985;獣医学教師および研究者協会,1989)。われわれは伝統的に実験動物の主体をなしている小型哺乳類に的を絞って論じてみたい。
 

痛みや苦しみを識別し評価するうえで大きな問題となるのは,研究に使用している動物の多くが小型であることである。そのような動物の痛みや苦しみの評価を確かなものとするためには,肉眼で観察できること,および通常は群としての環境下にある動物群のなかにあって個体として測定できる観察項目に基礎を置く必要がある。
 

MortonとGrirfitbs(1980)は,動物の痛みや苦しみに対する反応だけでなく,その反応の程度についても述べている。現時点で,反応の程度まで明らかにすることは困難であることは判っているが,小見出しを基本にしてできる限り試みてみたい。動物の痛みや苦しみに対する反応には生来のバラツキがあり,また,すべての実験に共通する評価法を確立することが求められるため,動物の反応の程度を測定する試みはまだ行なわれていない。
 

急性の痛みの徴侯は,通常有害な刺激の負荷と同時に,あるいは負荷のすぐ後に表われる。それらの徴侯は行動においては単純で反射的なもので,鳴き声を上げたり,なめたり,体を震わせたり,患部を引っかいたりして刺激から逃れようとする。急性の痛みに対する第2段階の反応は,創傷の治癒や有害な刺激の反復負荷に伴って観察される。この第2段階には,ある種の行動の変化や動くことをいやがるといった徴候が,鳴き叫び,興奮状態,短期間の食欲不振および異常姿勢などとともに観察される。この様な徴候がみえたら,麻酔を施すか,あるいは刺激負荷をやめるべきであろう。
 

慢性の痛みや苦しみの徴候は,普通その初期には顕在化しない。したがって,機能低下が起こっていることを示す動物の表情や行動の変化を見つけだすためには,しばしば注意深い観察が必要となる。
 

経験に乏しい観察者の役に立つよう忠告するとしたら,小動物の場合には,発見するのが困難であったり,すばやく数量化することが困難であるような反応は観察項目から除外することである。たとえば血圧あるいは顔貌(表情)などの小動物では容易には観察できないような項目である。
 

動物の安寧を評価するうえでの第1段階は,それぞれの動物種の通常の行動,表情ならびに生理学的および解剖学的特徴を熟知することである。
 

観察結果を確かなものにするために,観察は数多くの動物について行なうべきである。年齢差,系統差,性差および個体差などを考慮すべきである。夜行性および昼行性の動物種の行動や反応は,その日の一定の時間帯によっても異なるであろう。ある種の動物では,生理学的パラメータの季節的変化も観察される。ラットのケージを棚から移動させると,それだけでラットの心拍数は上昇する。
 

小型げっ歯類やウサギを生理学的に詳細に検査しようとすれば,動物を手で保定する必要がある。動物を調べるには,標準的な方法が適用されるべきで,その標準的な観察項目が記録用紙に記載されていれば,より有用であろう。一般的な検査と同様,特定の反応試験あるいは観察も,それらの手法の進歩とあいまって,実施されるべきである。また,動物で,様子,運動性,もしくは協同性,もしくは意識に変化がみられた場合には,いくつかの簡単なテストを行なうべきである。
 

一般に,たいていの健康な実験用げっ歯類は,近づくと活発に行動し,敏しょうで,旺盛な好奇心を示す。ラット,マウスおよびハムスターのような夜行性の動物種は,昼間はしばしば寝ているので,あらかじめそのことを考慮に入れておく必要がある。しかし,なんらかの障害があると,おそらくそれらは反応を引き起こすであろう。たとえば,睡眠パターンの中断や延長は,しばしばその個体に痛みや苦しみがある場合にみられる。
 

動物に触れると暖かいのは,動物の筋肉が緊張している証拠である。健康な動物の毛並は美しく,よく毛づくろいされている。ただし,ウサギの場合には,毛が抜け換るが,その際,体表は一様につややかで,はげた個所などはみられない。保護毛が生えている部位の立毛もしくは逆毛は,小型実験動物ではその個体が不健康である典型的な徴候である。毛づくろいの減少,過剰な引っかき行動,あるいは,とくに生殖器周辺の体毛の汚れは,健康状態が悪いことを示す確かな徴侯である。
 

健康な動物の体表は筋肉の張りがあり,またきれいな体毛におおわれていて,浮腫やたるみがなく,炎症性の変化や目や鼻からの分泌物もみられない。体表の特定の部位を繰り返してなめたり,引っかいたり,あるいは噛んだりする状態は,その部位になんらかの刺激もしくは痛みがある証拠である。ラットとマウスでは,寄生体の寄生したときだけでなく,ある種の状態,たとえば慢性の痛みを伴うようなアジュバント誘発関節炎などの場合にも体表をひっかく回数が増加する。健康な動物の動作には,特定の肢に負重をかけたひきづるような歩行やよろめき,回転あるいは運動失調などは認められない。
 

正常な動物は,規則的に食べ,飲みそして排泄する。24時間以上にわたって摂餌,飲水および排泄を行なわない動物は,病的な状態にあるといえるだろう。ラットやマウスは容易に脱水を起こし,それは,背中のたるんだ部分の表皮をかるくつまむことで容易に判断できる。正常な動物の表皮はすぐに元に戻るが,脱水した動物ではつままれたままの状態で元に戻らない。
 

動物の摂餌あるいは飲水行動を観察する際には,嚥下や咀嚼に困難を伴っていないかどうかに注意すべきであろう。実験用げっ歯類やウサギは,突出した切歯を永久歯としてもっており,それが損傷したり不揃いであると摂餌難となり,その結果体重が減少する。体重の減少を発見するためには,動物の成長率をつねに注意深く監視すべきである。
 

健康な動物の呼吸は主に腹式呼吸で,規則正しく均質で,また動物種によって固有の正常な呼吸数を保っている。呼吸時に“雑音,泡音,もしくは濁音”’などの異常音は聞こえない。動物の処置(接触),不安もしくは,動物周囲の高温などは呼吸数に影響を及ばすことを考慮に入れておく必要がある。動物に触れることなく観察することにより,呼吸数に影響を及ぼすことを避けることができる。
 

 

行  動
 

群飼育されている動物は一般に群居性動物であって,群から1匹だけ離れているような場合,その個体はどこかに異常があると考えられる。たいていの実験動物はヒトに対して攻撃的ではないが,保定や処置から逃れようとする。処置に対して予期せぬ攻撃性を示す場合は,なんらかの外見からは判らない苦痛を抱えていることが予想される。一方,処置に対してまったく反応を示さない個体は,頻死の状態であることを示唆している。
 

動物を保定したとき,急性の痛みに伴ってしばしばみられるような徴候,つまり攻撃的になる,ひっかく,鳴く,排尿,排便する等の行動を示すことがある。このような状態下では,そのような徴候は痛みよりもむしろ恐怖あるいは捕獲や保定に対する自然の反応であるかもしれない。
 

また,痛みや苦しみの表現は個体によって一定ではないので,しばしば多くの動物について観察を行なう必要がある。
 

 

動物の示し得る反応
 

動物の示し得る反応を下記の具体的な見出しに従って表示する。
 

 

生理学的特徴
 

眼の外観と反応
 

呼吸数
 

増加,困難,濁音,くしゃみ,あえぎ
 

外 観
 

被毛の汚れ,脱毛,立毛,粗毛,脱水,潰瘍
 

形成
 

排便,排尿
 

増加,停止,下痢
 

行 動
 

過敏,無反応,臆病,元気消失,興奮,錯乱
 

いらだち,無関心,おびえ,緩慢,攻撃的
 

反 射
 

瞳孔反射,収縮,拡張,停止,痛覚,無反応
 

活動性
 

睡眠/覚醒パターン,探索行動,逃避行動摂餌/飲水パターン,毛づくろい欠損,毛づくろい過剰,ひっかく,なめる,自己損傷,かむ
 

姿 勢
 

背を丸める,首を延ばす,腹部の緊縮,全身の伸展,体重のかけ方の異常(前傾,後傾等)
 

運 動
 

運動への抵抗,跛行,よろめき歩き,歩行失調,旋回運動,四肢の異常な配置あるいは体重のかけ方の異常
 

鳴き声
 

不安な鳴き声,やかましい鳴き声
 

一般的な徴候
 

低体温,皮膚の色,身震い,痙攣,振顫,正
 

向反射
 

これらの判断基準を用い,表の形式で,ラット,マウス,モルモット,ハムスター,スナネズミおよびウサギの6種類の実験動物について検討することが可能である。異常な状態を識別するには,各動物種の正常時の状態を観察し,把握しておくことが必要である。同時に,また一方では,観察者の過去の経験,自覚,そして進んで観察しようとする積極的な気持も必要である。
 

 

マウス
 

実験用マウスは,数百世代にもわたって,それぞれに異なる特徴を指標にして選抜育種されてきた。その結果,系統が異なると刺激に対する行動や反応に有意な差がみられる。痛みを生じさせる処置を加えたあと,マウスでは睡眠時間の増加が認められ,また,一定期間体重の減少も認めちれるだろうが,それはすぐに回復する。立毛や背を丸める姿勢も,痛みや苦しみを示す反応として認められるだろう。病気のマウスは,しばしば群から離れてうずくまっている。
 

反  応
 

痛みやストレスに富む刺激により反応の強さが増加する。
 

生理学的徴候
 

(眼)眼球反射の存在,眼険の全開,半開もしくは閉鎖。状態が悪くなるに従がい目は落ちくぼみ,目からの分泌物も認められる。
 

(呼吸)呼吸器系が冒されると,呼吸数が増加し,切迫呼吸や呼吸困難が認められる。呼吸時の雑音や鼻からの分泌物がある。
 

(外観)状態が悪くなるにつれ,立毛,逆毛が生じ 体重の減少,脱水,背筋の削痩,摂餌の停止による腹部の陥没および糞便による被毛の汚染が認められる。動物は,触れると冷たく感じられる。
 

(排便,排尿)両方ともマウスではストレスに対する即時反応としてみられ,ストレスが亢進すると増加したり,あるいは減少したりする。
 

(震毛)痛みやストレスが続くと震毛の動きは少なくなる。
 

(行動)痛みやストレスの増加に伴って,マウスは次第に臆病になり,不安げな様子を示し,攻撃的になって咬もうとしたりする。状態が悪化するに従い,マウスはおとなしく無反応となり,群から離れてうずくまるようになる。ついには,周囲に対してまったく無反応となる。
 

(異常な活動)反射の減退,もがき,咬みつき,おそらくは痛みや刺激を受けた部位を噛むなど,活動性が増加する。正常な摂餌や飲水行動は停止し,睡眠をとれず,毛づくろいもできなくなり,体表をひっかく行動が増加する。痛みが腹部にある場合は刺激部位を取り除こうとしてもがき苦しむ。
 

(姿勢)徐々に背を丸めるようになり,光を避けるようにして睡眠姿勢をとるようになる。
 

(運動)痛みのある四肢に運動障害が出てくる。姿勢を維持することが次第に困難となるため,それから逃れようとして突然走り出したりする。平衝機能が障害を受けると,旋回運動をするようになる。腹水が増加した場合などに,横揺れ歩行を示す。
 

(鳴き声)早期には攻撃的な声を出すが,痛みや苦しみにより,運動能や応答能が低下するに従い,鳴き声は減少する。その後,いく種類かの鳴き声による応答がみられる。
 

(一般的な徴侯)状態の悪化に従い,体温低下がみられる。
 

主要徴候
 

反射減退,咬む反応,立毛,背を丸める姿勢,目や腹部をくばませる姿勢,脱水,体重減少。
 

 

ラット
 

ラットは一般におとなしく,マウスに比べ,同種動物やヒトに対して攻撃的でない。急性の痛みや苦しみは,通常絶え間ない鳴き声やもがきを伴う。ラットはしばしば痛みのある部位をなめたり庇護したりする。体表をひっかくようになるときは,慢性の痛みがある場合である。痛みや苦しみがあると,ラットは腹部に頚を入れてまるまり,睡眠は中断され,また長くなる。被毛は粗となり,体重の減少がみられる。痛みや苦しみが繰り返し与えられると,より攻撃的になり,手で触れようとすると抵抗するようになる。
 

反  応
 

痛みや苦しみが増加するにつれ,反応の強さが増加する。
 

生理学的徴候
 

(眼)眼瞼は,すぐに半開きか,ほとんど閉じた状態になり,目は落ちくぼむ。眼からの分泌はよく見掛けられ,分泌物はしばしばへマトポルフィリンで赤く染まり,それが目の周囲に付着し,あたかもメガネを掛けたようになることがある。(呼吸)呼吸器系が冒されると,くしゃみを伴う呼吸数の増加がみられる。鼻からの分泌物はときとして血液を含んでいることもある。
 

(外観)立毛が増加し,逆毛だってくる。被毛は段々と粗剛になり,脱毛も生じる。皮膚の張りが悪いのは,背筋の萎縮や脱水,体重の減少の表われである。アルビノ動物では,貧血すると耳介が蒼白になる。
 

(排便,排尿)両方とも恐怖を覚えるとすぐに起こり,痛みや苦しみが持続すると減少する。侵襲を受けた器官系によっては,便秘もしくは下痢を生ずることがある。排尿は飲水量の減少により少なくなるが,尿路感染あるいは内分泌障害があると排尿回数が増加することがある。
 

(行動)動物ははじめは攻撃的な反応を示し,咬みつくような傾向を示すが,結局は元気を消失し,無反応になる。手で触れたりすることで突然不快感が増強するような場合に示す反応もある。(異常な活動)睡眠パターンが段々と妨げられていき,正常に摂餌,飲水することができなくなる。探索行動が減少し,他の動物を避けるようになる。末期においては,痛みのある部位を自ら傷つけようとする。
 

(姿勢)腹部に頭を入れ,背をまるめて横になることが多い。腹部に痛みがあるときは,腹部を縮める姿勢をとる。
 

(運動)動くと痛みが増加する。片方の肢をひきずったり,あるいはよちよち歩きをしたりする。腹部に痛みがあるときは,ぎこちない不自然な動きをする。閉塞あるいは腹水により腹部が膨満している場合には,“よたよた歩き”になる。平衝感覚が障害されると,旋回運動をする。
 

(鳴き声)早期には,とくに手で触れようとすると,怒ったような攻撃的な鳴き声が増加するが,痛みやストレスが続くに従い,鳴き声は徐々に減少する。そして,急に痛みを伴う刺激を加えないかぎり,動かなくなる。
 

(一般的な徴侯)体温の低下は,重篤な状態の悪化を意味している。顔面が蒼白になるのは,貧血や失血があることを意味している。
 

主要徴侯
 

鳴き叫び,もがき,なめる動作,防御姿勢,体重減少,立毛、背を丸めた姿勢,体温低下
 

 

モルモット    
 

モルモットは敏捷で神経質な動物で,捕獲や保定から逃れようとする。この動物が捕獲や保定を容認することは,この動物の健康がすぐれていないことを示している。ほんのわずかな一時的な痛みがあっても,大きな鳴き声を出す。痛みがあると,モルモットはしばしばねむそうにみえることがある。
 

反  応
 

痛みやストレスに富む刺激があると,反応の強 さが増加する。
 

生理学的徴侯
 

(眼)最初は眼に不安を浮かべ,徐々におびえた表情が顕著になる。苦痛を加えられると目は落ちくばみ,動きがにぶくなる。
 

(呼吸)痛みや苦しみをもたらす刺激が増強したり継続したりすると,それに伴い呼吸数は増加する。呼吸器系が冒された場合には,しだいに切迫呼吸や呼吸困難に陥る。
 

(外観)しはしば体重の減少がみられ,また,脱毛の増加,痴皮様皮膚および脱水の観察はまれでない。
 

(排便,排尿)腸管に障害がある場合,下痢が生ずる。膀胱や腎臓の感染症があると,頻尿となる。
 

(行動)モルモットは通常,小心で臆病であり,痛みやストレスを与えると,一層その傾向が強まり,ついには無反応になる。攻撃的になることはまれである。
 

(異常な活動)食餌上のストレスが加わったり,摂餌や飲水ができなくなると,“毛をむしる”傾向がある。群内での攻撃やけんかにより,背中の皮膚に損傷を生ずることがある。歯の異常によって摂餌行動が困難になると,過剰の流涎が観察される。
 

(姿勢)腹部に痛みがあるときには,背中をまるめる傾向がある。正向反射がない場合には,動物はかなり悪い状態にあることを意味している。
 

(運動)痛みは運動と関連し,年をとった動物では,四肢に潰瘍ができると,跛行したり,よろめき歩きをする。
 

(鳴き声)モルモットでは,とくに捕まえられたときなどは鳴き声を出すことは普通の反応である。痛みや苦しみが続くと,鳴き声は減少する。痛みをもつ動物は,その部位を蝕わられると悲しげな鳴き声をあげる。
 

(一般的な徴侯)体温が低下し,動物は“軽く”
 

感じられる。また,筋肉の緊張感がない。
 

主要徴侯
 

もがき,身を避けて引っこむ,鳴き声を立てる,捕獲や拘束に対する無抵抗、逆立った被毛,反応。
 

 

ウサギ
 

ウサギは,明らかに痛みや苦しみとなる処置をほとんどなんの抵抗もなく受け入れるため,痛みや苦しみを感じているかどうかを判断することは容易ではない。これは,痛みを隠すことが生存していくうえで重要である野生行動に関係しているものであろう。健康なウサギでさえ,頻繁に動き回ったり探索行動を起こすことはない。それゆえ,他の動物種の場合には評価の対象として有用なこれらの行動も,ウサギの場合には大して役に立たない。通常,痛みをもったウサギは,摂餌および飲水量の減少や光に対して敏感になり,動きが減衰することで特徴づけられる。
 

反  応
 

痛みや苦しみの刺激下で,反応の強さは増加する。
 

生理学的徴侯
 

(眼)眼からの分泌は,ウサギに共通する苦しみに対する反応で,瞬膜が突出する。また,痛みやストレスが持続すると,ウサギは眠そうな外観を示し,光を避けようとする。
 

(呼吸)おびえによっても,また肺障害によっても,呼吸数は増加する。上部気道に感染があると,鼻から粘液膿性の分泌物が流出する。
 

(外観)ウサギは病気にかかっても,また,苦しみを加えられても,明らかな状態の悪化を表面に表わすことはまれである。注意深く観察すると,後背部の筋肉の萎縮が確認され,脱水もよくみられる。被毛には糞便が付着している。
 

(排便,排尿)夜間の排便が観察されなくなる。痛みやストレスに対する反応として,便秘や下痢がよく観察される。排尿不全は泌尿器系感染症の前兆で,尿路に尿中成分の沈殿物が堆積したことによる。    
 

(行動)おとなしくなり,周囲に無関心となり,ついには無反応となる。しばしば,光を避けて後向きにケージの奥を向く。探索行動はしなくなる。
 

(異常な活動)摂餌および飲水行動が停止する。過剰な毛づくろいにより腹部に毛玉ができる。
 

(姿勢)四肢に潰瘍ができると,その部位に体重をかけないように,前傾もしくは後傾姿勢をとる。腹部に痛みのある場合は,からだを伸展したり,平べったく寝そべることがある。平衡感覚が冒されると斜頸になる。
 

(運動)とくに足に潰瘍がある場合などは,運動によって痛みを生ずる。痛みが剃毛のストレスと関連している場合には,4肢の麻痺が起きるかもしれない。
 

(鳴き声)ウサギは正常状態のとき鳴き声をあげることはほとんどない。急な痛みを与えると短い鳴き声を出す。
 

(一般的な徴侯)とくになし。
 

主要徴候
 

無反応,摂餌および飲水の減退,うしろ向きにケージの奥を向いてうずくまる,手で触れると鳴き声をあげる。
 

 

シリアン(ゴールデン)ハムスター
 

正常状態下では,ハムスターは1日の長い時間を寝て過ごし,ほとんど活動しない。しばしば,ケージ内の仲間に対して攻撃的になり,また捕獲しようとすると,干渉の程度とは無関係にかん高い鳴き声をあげ,攻撃的な行動をとることがある。
 

反  応
 

痛みやストレスの刺激により,反応の強さが増加する。
 

生理学的徴候
 

(眼)ストレスを受けると目からの分泌がよく観察される。ハムスターは日中長い時間睡眠する傾向があるので,観察は困難である。
 

(呼吸)肺障害があると,呼吸数が増加する。
 

(外観)ビタミンEや短鎖脂肪酸の不足した飼料で飼育すると,被毛状態の劣化が認められる。身体状態の悪化もみられる。ハムスターの皮膚は正常状態でもたるみがみられる。
 

(排便,排尿)ハムスターで便秘が起こることはまれである。下痢が起こると,排便量は多くなり,肛門付近が糞便で汚れる。尿路感染が起こると,とくに雄では,部分的な尿道閉塞や膀胱炎を伴うことがある。
 

(行動)捕獲しようとすると,攻撃的になる。なにもせずにいるとしだいに沈静状態に移る。
 

(異常活動)昼間の睡眠時間が増加する。触られたりしないかぎり,衰弱した様子でじっとしている。探索行動は減少し,仲間を避けようとする。(姿勢)背を丸めた姿勢をとる。とくに腹腔内臓器に障害がある場合などは,動きたがらない。横臥姿勢をとっている場合は,瀕死状態に陥っていることを示唆している。
 

(運動)動くと痛みがあるような場合,正常歩行に影響を及ぼす。肝硬変に続発する腹水症のように,腹部に障害をもっている場合には,大儀そうなよたよた歩きを示すことがある。
 

(鳴き声)痛みを感じているハムスターは,触ろうとして近づくと,かん高い悲しげな金切り声をあげる。しかし,ハムスターの場合には,正常な動物に触ろうとして近づいた場合にも同様な鳴き声をあげる。
 

(一般的な徴侯)体温の低下,体重減少,湿った尾,下痢,口唇や肢の潰瘍が観察される。
 

主要徴侯
 

体重の減少,攻撃性の増加あるいは沈静,睡眠時間の延長。
 

 

スナネズミ
 

スナネズミは非常に行動的で神経質な動物であり,通常保定を避けようとする。スナネズミはすべての干渉を避けようとするため,痛みや苦しみを評価することは困難である。
 

反  応
 

痛みやストレスの刺激により,反応の強さは増加する。
 

生理学的徴候
 

(眼)眼からの分泌は一般によくみられる。ストレスを受けた状態では,眼瞼を半開きにし,眼瞼には乾いた分泌物が付着している。
 

(呼吸)肺の障害に伴って呼吸数が増加するが, 肉眼では判断しにくい。
 

(外観)被毛状態は劣化する。硬いケージの隅に無理に身を隠そうとして,ケージに幾度も顔を擦りつけ,傷や潰瘍をつくる。正常な代謝が行なわれている限り,飼料中の水分を完全に利用できるので,脱水症はほとんどみられない。睡眠や飼料が不足すると,体重の減少が起こる。尾の脱毛は,過密飼育されているスナネズミで観察される。
 

(排糞排尿)正常状態では排尿量はごく少ない。
 

糞便は,正常では固く乾燥したペレット状である。便秘はまれで,下痢が起こると水分の消失により急速に死に至る。
 

(行動)スナネズミは,通常非常に活動的で神経質である。ストレス下ではおびえの反応が増加する。そのため,手で触ったりした場合,一時的に虚脱に陥ったり,ショック症侯群を示す。しかし,時間をおくと回復する。
 

(異常活動)硬い床のケージの中で,ケージの隅に無理に身を隠そうとしてケージに顔を擦りつける行動がみられる。この行動は,ストレスのある状態下では増減する。探索行動にも変化がみられ,攻撃的反応は増加する。スナネズミは元来ごくわずかしか水を炊まないため,摂水量の測定は困難である。
 

(姿勢)とくに腹部に障害がある場合には,背を丸める姿勢が観察される。
 

(運動)異常な歩行は,四肢または腹部の障害と関連してみられる。
 

(鳴き声)スナネズミの場合,鳴き声は痛みや苦しみの判定基準としてはあまり意味がない。
 

(一般的な徴侯)虚脱と関連した変化がみられる。
 

主要徴侯
 

背をまるめた姿勢,体重減少,ショック症侯群
 

 

追記:科学的処置の苦痛に関する指標
 

科学的処置の間に,あるいは科学的処置の結果として生ずる苦痛を,科学的処置の構成要素ごとにスケールを示し,数量化して評価する。各構成要素ごとのスコアを合計し,その科学的処置の苦痛指数(別)とする。ついで,このSIが下記の3段階のどれに相当するかで,その科学的処置が動物に与える苦痛の総合評価とする。
 

<8  弱
 

8~20 中
 

20<  強
 

下記の構成要素とスケールが,以下の表に例示されている実験手技の動物に与える苦痛を評価するのに使われる。
 

実験的処置や手技は1回の適用で評価される。多数あるいは頻回適用の場合には,SIは適用回数に応じて増加する。
 

 

 

構成要素 スケール 構成要素 スケール
意識 1 麻酔 4
保定 4 持続期間. 2
器官の危険捜 1 死亡率 4
痛み 5 苦しみ 5
準備 2 剥奪の感受性 5
組織 1
科学的処置後
痛み 5 剥奪 5
苦しみ 5

 

 

日本語訳出典 (社)日本実験動物協会 海外技術情報 特集3より