南和歌山医療センター胸部・心臓血管外科ホームページ


胸部大動脈瘤について







【胸部大動脈瘤について】胸部の大動脈は、心臓から出て上に向かう部分を上行大動脈、次に弓状に曲がり脳に血液を送るための血管が3本枝分かれしていますが、この部分を弓部大動脈,さらその先で下に向かう部分を下行大動脈といいます。大動脈の壁は内側から内膜、中膜、外膜という3層構造で出来ています。大動脈瘤の原因の大部分は,この内膜と中膜の動脈硬化によるものとされていますが,瘤が形成される実際の原因はよくわかっていません。また,症例の80%位に高血圧症の既往があります。動脈硬化性の変化をきたした血管の壁は正常より弱くなり強い血液の流れや,圧力によってふくらみやすく、そうするとさらに壁はうすく弱くなり、破裂するという危険がでてきます。もし,瘤が破裂した場合は多くの場合ショック状態となり、すぐに緊急手術をしたとしても救命はきわめて困難です。


【手術の目的】動脈瘤の部分を人工血管にかえて破裂しないようにすることです。


【胸部大動脈瘤の手術】
上行大動脈人工血管置換術
上行弓部大動脈人工血管置換術
下行大動脈人工血管置換術


【手術の実際:弓部大動脈人工血管置換術】胸の中央を縦に切開(胸骨正中切開)し心臓のまわりをとりまく心膜という膜を切り開くと心臓と大動脈が見えます。右腋窩動脈又は大腿動脈と心臓の右心房というところに太い管(人工心肺用)をさしこみます。この管を人工心肺装置という機械に接続し、このポンプを作動させて全身の循環とガス交換を行い、心臓と肺の働きを代行します。この装置を使って血液の温度をどんどん冷却していき、体温を20℃近くまで下げます。その後人工心肺装置を止めて、全身の循環を一時的に停止します(超低体温循環停止)。低体温にすることにより、細胞の代謝を抑え、各臓器の機能を保護します。このような状態にしてはじめて大動脈を切開できます。しかしこれには制限時間があり、特に脳は最も早くダメージを受けやすいため、脳のみを特別な回路を用いて血液を流します。また同時に脳保護液を投与し、最大限脳機能を守るようにしています。心臓は心筋保護液という特殊な薬を注入すると心臓はとまります。もしこの薬がなければ心臓は数分で心筋梗塞になってしまいますが、この薬のおかげで3-4時間は心臓を停止させることができます。そして循環が停止している間に大動脈人工血管置換術を行います。それが終わってから、心臓を動かして心臓の力が十分回復したところで人工心肺装置を止めます。そして出血がおさまったら胸を閉じて手術が終わります。


【この手術の特殊性と問題点】人工心肺装置という器械で全身の循環を行なうため、全身の臓器および血液が影響をうけます。血液の流れ方も普段と違うため、たとえば脳動脈硬化の強い方は脳の循環が悪くなって脳梗塞ができてしまう危険もあります。また手術中は血液が薄まることもあって、全身の臓器は浮腫状態になり肺の機能が悪くなることがあります。なかには腎臓の血流が不十分となり腎不全をおこし、透析が必要になったりすることもあります。最大の特殊性は体温を下げ、全身循環を停止させるということで、全身の臓器が十分に保護されていないと臓器障害が出たり、また全く心筋が回復しないという心配もあります。


【合併症】手術の影響でおこる可能性があることは、
  1.脳神経合併症(意識障害、脳浮腫、脳出血、脳梗塞、脊髄麻痺など)
  2.肺合併症(呼吸不全、肺炎など)
  3.心臓合併症(心筋梗塞、心不全、心タンポナーデなど)
  4.腎不全(透析など)
  5.出血(再開胸止血術など)
  6.肝障害(黄疸など)
  7.感染(縦隔炎、創部感染など)
  8.消化器合併症(胃潰瘍、腸閉塞など)
  9. 不整脈 
  10.その他(アレルギー性ショック、など)

これらは集中治療室から病棟に帰った後おこることもあり、そのため手術後2週間は入院検査が必要です。手術の危険性は心臓そのものの危険性以外にこれらの合併症による危険性が含まれ、全体で5〜10%前後です。しかし、手術をしないで破裂した場合、危険性ははるかに高いといえます。