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心房中隔欠損症について







【心房中隔欠損症とは】  心房中隔は発生学的に2枚の膜でできています。胎生期に最初にできる膜が一次中隔、あとでできる膜が二次中隔です。出生後はこの2枚の膜が重なってくっつき1枚の心房中隔となり左右の心房の境の壁となります。胎生期には2枚の膜の間に間隙があり、そこを通って右心房に戻った血液の大部分は左心房に流入します。この間隙を卵円孔といい、出生後は自然に閉鎖します。心房中隔欠損症はこの一次中隔または二次中隔の欠損で発生します。最も多いタイプが二次中隔欠損です。心房中隔欠損症は、先天性心臓病のなかでも発生頻度が高く、出生児の約1500人に一人、先天性心臓病の約15%を占めるといわれています。


【症状と予後】  全身から右心房に戻った静脈血は、右心室から肺動脈、そして肺へと送り出されます。肺できれいな動脈血となり、肺静脈を通って、通常は左心房から左心室、そして大動脈から全身に送り出されます。心房中隔欠損では、左心房に戻った動脈血は僧帽弁を通って左心室に流入する経路と、心房中隔の欠損した穴を通って右心房に短絡する2方向の流れが発生します。したがって、右心房の血液は全身から戻った静脈血にさらに左心房からの動脈血が加わって、右心室-肺動脈-肺へと拍出されます。そのため、肺への血液の量は非常に多くなります。普段の2倍や3倍以上の血液が肺に流れ込むことも稀ではありません。このように、肺への血液量が多くなった状態を「肺うっ血」、肺動脈の血圧が高くなった状態を「肺高血圧」といいます。
 一般的に、心臓には代償機能といって都合のわるいことを打ち消そうとする働きがあります。心房中隔欠損の症状は軽く、大人になるまで症状が現れないことも珍しくありませんが、このような状態が長期に持続しますと、特に負担の大きい右心室が障害を受け心房細動という不整脈や右心不全が発生します。右心室の機能が低下しますと、全身から右心房に戻ってきた静脈血を肺動脈に拍出できなくなり、全身に血液が溜まります。すると、下肢の浮腫や肝臓腫大などの症状として現れます。また、肺うっ血が長期に続くと肺動脈の血管に障害を受け、肺高血圧が高度となります。更に、症状が進行すると、軽い労作で  の息切れや呼吸困難などがおこります。また、肺がうっ血しているため、カゼをひき易く、一度カゼをひくと治り難くなります。心房細動や僧帽弁閉鎖不全症を合併することもあります。
 心房中隔欠損は、通常大人では横1−4cm、縦2−5cmの楕円形をしています。通常は、体外循環下に右心房を切開して、小さい穴の場合には、直接縫合して閉鎖します。大きな場合には、ゴアテックス製のパッチを用いて閉鎖します。


【治療方針】  心房中隔欠損孔が小さい時には、手術を行う必要はありません。手術は、左心房から右心房への短絡率が30−40%以上、肺への血流量が全身への血流の2倍以上の時に適応となります。一般的に、小学校へ入学前の4−5歳位に行うことが推奨されています。


【手術の目的】  心房中隔にあいた穴を閉鎖することにより心臓のよけいな負担をなくし、血液の流れをスムーズにすることによって不整脈の出現や肺高血圧を予防することが目的です。


【心臓手術の実際】  胸の中央を縦に切開(胸骨正中切開)し心臓のまわりをとりまく心膜という膜を切り開くと心臓と大動脈が見えます。大動脈と心臓の右心房に太い管をさしこみます。この管を人工心肺装置という機械に接続し、このポンプを作動させて全身の循環とガス交換を行い、心臓と肺の働きを代行します。そして大動脈を鉗子で遮断して心臓側に心筋保護液という特殊な薬を注入すると心臓はとまります。もしこの薬がなければ心臓は数分で心筋梗塞になってしまいますが、この薬のおかげで3-4時間は心臓を停止させることができます。  心筋保護液で心停止したあと、右心房を切開し心房中隔を閉鎖します。それが終わってから右心房を縫い合わせ、心臓を動かして心臓の力が十分回復したところで人工心肺を止めます。


【心臓手術の特殊性および問題点】  人工心肺装置という器械で全身の循環を行なうため、全身の臓器および血液が影響をうけます。血液の流れ方も普段と違うため、たとえば脳動脈硬化の強い方は脳の循環が悪くなって脳梗塞ができてしまう危険もあります。また手術中は血液が薄まることもあって、全身の臓器は浮腫状態になり肺の機能が悪くなることがあります。なかには腎臓の血流が不十分となり腎不全をおこし、透析が必要になったりすることもあります。最大の特殊性は心臓を停止させるということで、心筋保護液がうまく心臓全体にいきわたらず大きな心筋梗塞ができたり、それによって全く心筋が回復しないという心配が少しあります。ただし、この危険性は最近では少なくなり、0.5%以下になっています。


【合併症】  手術の影響でおこる可能性のあることは、

 1.脳合併症(出血、梗塞など)
 2.肺合併症(呼吸不全、肺炎など)
 3.心臓合併症(心筋梗塞、心不全、心タンポナーデなど)
 4.腎不全(透析など)
 5.出血(再開胸止血術など)
 6.肝障害(黄疸など)
 7.感染(縦隔炎、創部感染、感染性心内膜炎など)
 8.消化器合併症(胃潰瘍、腸閉塞など)
 9. 不整脈   10.その他(アレルギー性ショック、など)

 これらは集中治療室から病棟に帰った後おこることもあり、そのため手術後2週間は入院検査が必要です。  手術の危険性は心臓そのものの危険性以外にこれらの合併症による危険性が含まれ、全体で1%前後です。しかし、手術をしないで退院した場合、危険性ははるかに高いといえます。


【手術のスケジュールについて】  約1週間前より入院し、術前の検査や準備を行います。手術当日、手術室に入室後すぐに麻酔がかかり深く眠った状態になります。次に口から気管チューブが入り人工呼吸器がつながり、この状態で手術がはじまります。全身麻酔のため苦しさや痛みは全くないので心配ありません。手術時間は3〜4時間ぐらいです。手術が終わるとすぐに集中治療室にはいります。この時は患者さんはまだ麻酔が効いていて意識がありません。4〜6時間くらいで意識がさめ自分で十分呼吸ができるようになったら気管チューブを抜きます。病状により異なりますが順調なら集中治療室には当日滞在するのみで翌日には一般病棟にもどれるでしょう。その後は1〜2週間ぐらい検査・リハビリをすすめて、問題なければ退院となります。術後の創の痛みは個人差がありますが、思っていた程でもないという方が多いようです。もし痛みが我慢できなければ痛み止めを使います。トータルで3週間の入院期間が一応の目安となります。