【社会不安障害】


 SAD(社会不安障害)という言葉を、時々テレビで見かけるようになりましたが、社会不安障害という疾患は、まだ、あまり知られていないようです。人前での言動や、社交的な場での対人交流に、また、ときには人前にただいることだけにさえも強い緊張と苦痛を感じ、こうした機会を回避し続ける結果、社会的に孤立してしまう──それが社会不安障害という病気です。人との関わりに苦痛を感じる状態を、日本では古くから「対人恐怖」と呼んできました。社会不安障害と対人恐怖は、全く同じものというわけではありませんが、重なるところもたくさんあります。
 人前で何かする、初対面の人に会うといった状況では、誰しも多かれ少なかれ緊張するものです。これは「社会不安」とよばれ、一般にみられるものです。しかし、その緊張が度を超しているために、極度の苦悩を抱えていたり、社会生活に支障があらわれていたりするようなら、「社会不安障害」として、治療の対象になります。しかし、「極度のあがり性」「心配性」など、性格によるものだと思い込み、あきらめて、苦痛を一人で抱え込んでいる人が大勢います。

 社会不安障害の疑いあり?かどうか、チェックしてみましょう。以下の12の質問に対して、「その通り」と思うものに○、「そんなことはない」と思うものに×をつけて下さい。
 @ 他人の視線に恐怖を感じる。「見られている」感じがたまらなくイヤ。[   ]
 A 人前で話すのはへっちゃら。スピーチを頼まれれば喜んで引き受けるほう。 [   ]
 B 怒っている人を目の前にすると、激しく動揺してしまう。[   ]
 C ストレス発散法の一つは友人とカラオケで歌うこと。[   ]
 D 人前で字を書きたくない。だって、ブルブル手がふるえてみっともないから。[   ]
 E 電話での応対は全く苦にならない。我ながらそつなくこなしていると思う。[   ]
 F 緊張すると汗がダラダラ、止まらない。異常な発汗が悩みの種。[   ]
 G 人の集まりが大の苦手。何を話せばよいかわからず、いつも浮いてしまう。[   ]
 H すぐに顔が真っ赤になってしまって最悪の気分。止めようがなく悩んでいる。[   ]
 I 初対面の人にも自分から積極的に話しかけ、すぐに打ち解けられるほう。[   ]
 J レストランでの会食が苦手。ひどく緊張して、食事がのどを通らない。[   ]
 K 自分の失態を忘れたり、不安感をなくすために、アルコールに頼りがち。[   ]
      @ B D F G H J Kは、○が1点(×なら0点)、
      A C E Iは、×が1点(○なら0点)      →      合計点[     ]
 12〜7点  社会不安障害の疑いが濃厚です。
 6〜1点   たとえ苦手な状況が限られたものであっても、苦痛が非常に大きく、その状況を避けるためにあらゆる努力をしているような状態なら、社会不安障害の疑いがあります。
 0点     社会不安障害の疑いは、ほとんどありません。

 社会不安障害の基本的な症状は、人前で何かしようとすると極度に緊張するなど、社会的な場面でわき起こる不安や恐怖といった心理的な問題です。しかし、本人にとってより具体的な悩みの種となるのは、不安や恐怖を感じるような場面で現れる身体症状です。「顔が真っ赤になる」「汗がダラダラ出てくる」「手や体がふるえる」といった症状を意識し出すと、「また、あの症状が出てしまう」という恐れが強まり、ますます緊張を高めるという悪循環に陥ります。その結果、緊張を感じる場面への苦手意識が、さらに高まり、苦手な状況を避けることが増えていく。これが、社会不安障害を抱える人の典型的な行動パターンです。

 社会不安障害は、苦手な状況・場面がはっきりしている限局型と、ほとんどすべての社会的場面をおそれる全般型の、二つのタイプに分けられます。苦手な状況がはっきりしていれば、比較的対処しやすいといえます。症状が現れそうな状況に臨まざるを得ないときに、一時的に薬の助けを借りたり、苦手意識を払拭するためのトレーニングを積んだりすることで、改善を図ることができます。
 対人接触全般に苦痛を覚えるタイプは、全般性社会不安障害とよばれ、社会生活への影響は、より深刻なものになりがちです。社会問題ともなっている「ニート」や「引きこもり」の中に、社会不安障害をもつゆえに、社会へ出ていけないという人もいるのではないかといわれています。

 社会不安障害の傾向があると考えられる人は、10人に1〜2人の割合にのぼることが、数々の報告で明らかになってきています。「こんなことで悩んでいるなんて、自分は異常だ」などと考えがちですが、似たような悩みを抱えている人は、意外なほど多いものです。まずはそれを知っておくことが、改善への足がかりになります。
 社会不安障害は、比較的、低年齢(平均21.7歳)で発症することが知られていますが、実際に医療機関に受診する人の年齢は、発症年齢より10歳以上も高く、症状に苦しみながらも、長い間、助けを求めずに我慢している人がいかに多いかがわかります。
 近年、社会不安障害が注目され、治療すべき疾患という認識が高まりつつあるのは、放っておけばよくなるというものではなく、むしろ不安や恐怖を感じる場面が広がっていき、うつ病やパニック障害、アルコール依存症などを併発する恐れがあること、潜在的な患者数も非常に多いことが、徐々にわかってきたからです。

 社会不安障害は、気力だけでどうにかなるものではありません。社会不安障害は、心の問題と思われがちですが、悩みの種になっているのは、緊張した状態で現れるさまざまな身体症状であることが少なくありません。心の治療同様、身体の治療も重要です。治療の基本は、不安や恐怖感の減少、身体症状の軽減など薬物療法による症状の軽減と、認知行動療法等によって、不安に立ち向かう方法をマスターし、回避行動を減少させて、新しい行動パターンを確立することです。

 社会不安障害の人は、白黒つけたがる「全か無か思考」、起こったことを「たまたまと思えない」、「プラス面の過小評価」と「マイナス面の過大評価」、「否定的な結論づけや予測」、「〜すべき思考」、他人の注意が常に自分に向いているように感じる「過剰な自意識」などの考え方をしがちで、こうした思い込みが回避行動を生み出すもとになっています。こうした思い込みを修正していく認知修正法、あえて苦手な状況に身を置くことで不安や恐怖に慣れていくための方法であるエクスポージャー(暴露)、人間関係を円滑にするための社交術を学ぶことで、対人不安の軽減を図るソーシャル・スキル・トレーニング(SST)、身体面から心のリラックスを図って、不安への対応力を高める不安への対処法などにより、不安をコントロールし、新しい行動パターンを確立することができるようになります。

 ふとわき上がる不安に負けそうになったとき、頭の中でマイナス思考がふくらみはじめそうなとき、思い出したい言葉があります。『案ずるより産むがやすし』『あしたはあしたの風が吹く』『当たって砕けよ』『ケセラセラなるようになる』『君は君、私は私』『叩けよ、しからば開かれん』『あるがまま』などなど… 不安に立ち向かう勇気をくれる、自分にとっての『魔法の言葉』を見つけて、いつも心に持っておくことも大切です。

                  貝谷久宣「社会不安障害のすべてがわかる本」より    (圓山)