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最近、何となく頭がぼんやりしている。記憶力や集中力、思考力が衰えたように感じている。そんな「冴えない脳」を治すために必要なのは、脳にとってよい習慣を身につけることです。
脳の活動を安定させるには、まず、朝、ある程度一定の時間に起き、太陽の光を浴びる、脳が最も活発に活動する時間帯に仕事のピークを合わせ、夜はできるだけ早く寝る、そうやって生活のリズムを安定させることです。
人間の脳は機械ではないので、二十四時間同じ性能を発揮できるわけではなく、生体としての脳が活発に働きたい時間と、休みたい時間という周期を繰り返しています。時差ボケというのは、脳の活動リズムと生活のリズムがずれている状態ですが、生活のリズムを不安定にすると、日常に同じことが起こってしまいます。脳が休みたい時間に仕事をしようとして頭が働かなかったり、脳が活発に働きたい時間に休もうとして眠れなくなったりするわけです。
朝一定の時間に起き、太陽の光を浴びれば、脳は活動モードに切り替わりますが、それだけでは、まだ十分に脳を目覚めさせたとは言えません。脳にもウォーミングアップが必要で、それには、足・手・口を動かすのが効果的です。足・手・口を動かすというのは、脳の運動系と呼ばれる機能を使うことです。人間の脳は、思考系がそれだけで存在しているわけではなく、思考系以前に感情系、運動系などの機能があります。人間の進化の過程をみても、しっかりと二足歩行ができるようになり、手を自由に操れるようになり、口を使って言葉を話すことができるようになって、初めて高度な思考力を発達させることができたのです。ですから、その前段階の機能を十分に動かしておくことが、その日の思考系を活発化させるのに有効な手段になるのです。
脳の力には「基本回転数」とでも呼ぶべき要素があります。何か問題を解決しなければならないときに、ぐっと集中力を高めて、早く的確な判断ができる、脳に蓄えられている記憶をパッと思考に結びつけ、臨機応変な対応ができるといった、頭の回転の速さみたいなものです。
脳の基本回転数を上げるには、まず第一にウォーミングアップが必要です。次に、この方が大事なのですが、時間の制約が必要です。何時までにこれだけの仕事をしなければならない、何個の問題を解かなければならないという状態が与えられていないと、脳の基本回転数は上がりません。一定の基本回転数が先にあって、時間をかければそれだけ多くの仕事ができるわけではないのです。時間の制約をなくすと、結局時間ばかりかかって、能率の悪い仕事になってしまいます。
一度脳の基本回転数を上げると、その状態がしばらく続きますので、仕事を効率よく片づけるには、これを利用します。つまり、まず脳に準備運動をさせて、基本回転数が上がりやすい状態をつくり、次に時間の制約のある中で仕事をし、集中力、頭の回転を高めます。時間の制約は、長くても2時間が限度です。集中しての仕事が終わったら、すぐに休むのではなく、基本回転数が上がっている状態を利用して、面倒な雑用を片づけたりします。すると、だんだん基本回転数が落ちて、脳が疲れてくるので、休憩をはさみます。脳に休養を与えたら、再びウォーミングアップ→時間制約の中での作業→基本回転数が落ちるまで仕事→休憩を繰り返します。

よく物忘れをする、思考がうまく整理できないという人は、睡眠不足である場合がよくあります。これは、記憶の定着、思考の整理は、起きている間よりも寝ている間の方が進みやすいという理由からです。起きているとき、脳は目や耳から常に入ってくる情報に対応して、状況を判断し、行動に結びつけようとしていますので、どんなに頭の中で考える作業に集中しようとしても、思考が外部からの影響を受けてしまいます。寝ているときは、それがほぼ遮断されていますが、脳は活動しています。何をしているかといえば、入力がない状態で、一時的に保存していた記憶をより永続的な記憶に変換したり、得た情報を取捨選択して思考を整理したりしています。
脳をうまく使うには、この性質を利用します。眠っている間は何もできないと考えるのではなく、思考を自動的に整理させる時間と考えます。たとえば、翌日使う資料に目を通し、問題点を大まかに考えておくと、翌朝、思考が整理されているということが起こります。夜の勉強は中途半端にやって、睡眠時間を十分にとり、起きてから整理する方が合理的だということです。
脳を鍛えようと思うとき、特に重要なのは前頭葉の力を高めることです。前頭葉は、入力された情報を、記憶として蓄えられている情報と組み合わせ、思考や行動の組み立てをつくり、運動野を介して命令を出す、いわば脳の中の司令塔のような役割を果たしています。
前頭葉を鍛えるときに、状況に対してより早く判断できる、的確な対応が考えられるという、テクニックの部分を鍛えるのも大切ですが、それ以前に、指令を出し続ける体力を高めることが重要です。どんなに早く、的確な組み立てを考えられる人でも、たまにしかその能力を発揮できないのでは、何にもなりません。前頭葉が指令を出し続けられなくなったとき、次に人間を動かすのは感情系の要求です。つまり面倒なことはしたくない、楽をしたい、人任せにしたい、という脳のより原始的な欲求に従って動いてしまいます。前頭葉の体力が落ちてくると、やればできるのにやらない人、人から命令されなければ動かない、ダラダラ時間を過ごす人になってしまいます。
脳の基礎体力は、日常的な雑用を面倒くさがらずに片づけることで鍛えられますが、現代ではその日常的な訓練の機会が減ってきています。脳にとって雑用は、スポーツにたとえれば、ランニングや筋力トレーニングです。格好良さはありませんが、毎日続けることで長く動き続けられるようになります。部屋の片づけでも、壊れたものを修理するでも、身近にある、少し面倒くさいと感じることを毎日少しずつ解決するようにします。小さな雑用を毎日積極的に片づけていると、その程度のことなら面倒くさいとは感じなくなってきます。同時に、イライラも抑えやすくなります。これは脳の中で、感情系に対して、思考系の支配力が強くなったことを意味しています。
前頭葉の主な活動は、「選択」「判断」「系列化」という言葉に集約されます。これらの要素がバランスよく含まれている活動を多くすることが、前頭葉を鍛える有効な基礎トレーニングになるわけですが、それに向いている活動は家事です。家事をテキパキと片づけられる人は、間違いなく前頭葉機能の高い人です。実際、前頭葉機能が著しく低下している人では、片付けができなくなってしまいます。
忙しいときほど、身の回りの整理をすることを優先させます。人間の脳には限界があるので、100個の問題を覚えていろと言われても、とても覚えていられません。100個の問題を、たとえば五種類の問題に分類して、A、B、C、D、Eという案件があるという風に整理すると、大ざっぱに覚えていられます。さらにそのAの問題にはa、b、c、d、eという問題があるという風に整理するから、後でAの案件の中にあるaの問題には、a1、a2、a3、a4の要素が含まれているという風に、100個の問題を全部思い出せるわけです。これを思考の「ファイル化」と呼びますが、この思考の整理は物の整理に表れます。
忙しく混乱したとき、その原因は思考が整理されていないことにあるのですが、混乱して時間が足りなくなるほど、整理の部分を端折って時間を短縮しようとするので、ますます混乱するというパターンにはまってしまいがちです。常に身の回りを整理しようとしていれば、思考も強制的に整理されるようになってきます。しっかりと物を分類することは、物理的なファイル化であると同時に、思考のファイル化そのものなのです。

現代人の脳を取り巻く環境の中で、十年前に比べて最も変わったことの一つに、「小さな平面を見ている時間が長くなった」ということがあります。最近、思考の働きが鈍くなった、人から話しかけられたときにパッと反応できないことが多くなった…などと感じている人は、この影響を疑ってみる必要があるかもしれません。
目は人間にとって最大の情報の入り口です。その目を動かして積極的に情報を取ろうとしているとき、動かしているのは目だけではありません。たとえば、遠くから人に呼びかけられたとき、その人の姿が見つけられないときは、何を言っているのか正確に聞き取れませんが、目を動かして相手に焦点が合わせられると、言っていることも聞き取りやすくなります。目を動かしたと同時に、聴覚的な注意もその方向、距離感に合わせられたということです。つまり、脳は情報が与えられるのを受け身的に待っているのではなく、、積極的に迎えに行っています。注意の向け方をそちらに切り替え、五感をフル活用して情報を集めようとし、また、足りない情報は想像で補い、常に立体的に情報を捉えようとしています。
その目を動かさない時間が長くなりすぎると、視覚的注意の向け方がスムーズに切り替わりにくくなって、人から話しかけられたときにパッと反応できなくなる、周囲の変化に疎くなる、人から物忘れを指摘されることが多くなる、同じことを繰り返し考えがちになるといったことが起こってきます。これを防ぐには、一時間に一回は、目をよく動かすことです。窓から遠くのビルや空の雲など、思い切り遠くを眺めます。遠くを見て想像力を働かせたら、今度は、観葉植物の葉脈など、思い切り小さな世界に焦点を合わせます。そうやってダイナミックに目を動かしていると、脳のフォーメーションもダイナミックに切り替わり、思考に柔軟さが出てきます。外を散歩するのもいいことです。歩いているときは、安全を確保するために目をキョロキョロと動かしているので、一日一時間歩くだけでも、目の動きは十分に確保されます。
小さな平面を見ている時間が長い人は、情報の入力を目に頼りすぎている場合が多いので、ラジオを利用して、耳だけを頼りに情報を取ろうとしてみてください。聞き取れたかどうかを確認するために、メモを取りながら聞くようにするとより効果的です。あまりにも聞き取れないことに、驚く人も多いと思います。
「見た情報、聞いた情報をすぐに忘れてしまう」というのは、情報を意識して脳に入力する機会が少ないからかもしれません。脳は、見た情報、聞いた情報をとりあえずすべて記憶するようにできています。そのため覚えたつもりのない情報でも、もう一度見たときに「あ、これ知ってる」と分かったり、ふとした拍子に思い出したりします。ところが、意識的に入力していない情報は、思い出したいときに思い出すことができません。自由に使える記憶になっていないのです。
情報を意識的に脳に入れるためには、その情報を出力する、いつか人に伝えるという前提が必要です。使える記憶を増やすためには、そういう指示をされていなくても、いつか出力することを前提として、意識的に情報を取ろうとしていることが大切です。テレビを見るときも、電車に乗っているときも、ただぼんやりと見聞きしているのではなく、「何か家族に話すネタはないか」「仕事に役立つ情報はないか」と考えながら見るようにすることが、脳の強化につながります。
表現力豊かに話そうとすることは、脳機能を高める上で非常に有効です。どんな事物でも、いろいろな側面から見て説明ができるものです。それを意識して、質問を想定したり、頭の中にキーワードを並べたり、視覚的イメージを思い浮かべながら、話を膨らませていくことが大事です。もう一つ大切なのが、「相手の身になって話す」ということです。相手にどうやって理解してもらうか、自分の思考パターンを離れて、相手の身になって考えることは、脳に揺さぶりをかけ、前頭葉を鍛える有効な訓練になります。「話が伝わらないのは相手が悪い」、こういう悪い頑固さは、前頭葉の力が落ちて、変化に対応するのが辛くなっているからかもしれません。
表現力豊かに話そうとする上で、意識しておくとよい習慣は、たとえ話を混ぜようとすることです。たとえ話には、脳の高度な働きのすべてが含まれています。たとえ話をするためには、まず、その情報を自分なりに解釈できていなければなりません。また、相手の身になって話そうとしていないと、適切なたとえ話はできません。さらに、実際にたとえ話をするときには、相手の語彙や経験を想定できていなければいけません。それが日常的にできている人は、使える語彙や記憶が豊富な人であり、相手の身になって考える姿勢を持っている人であり、話を組み立てるのもうまい人であるはずです。
築山節「脳が冴える15の習慣」(NHK出版)より 文責:圓山
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