働く方のメンタルヘルス外来このページを印刷する - 働く方のメンタルヘルス外来

 終身雇用制度の減少と契約・派遣社員の増加,成果主義の導入に加え,IT化による人間関係の希薄化などのため,働く方のストレスは増加傾向にあり,これに伴い心身の不調をきたす方も増えています。また、新型コロナウィルス感染症の拡大により、テレワーク、ローテーション勤務、時差出勤といった新しい働き方が広がっています。このような働き方には望ましい面が多数あるものの、職場内におけるコミュニケーションや人材マネジメントに問題があるとの指摘があり、結果的に職場でのストレスを悪化させたケースも見られます。更に、働き方改革によって柔軟な働き方を選べるようになることが期待されていますが、高齢者の就業が可能になった結果、能力と環境のミスマッチが生じ、ストレスが生じてしまったケースも見逃せません。
 この外来では,職場での様々なストレス関連障害(うつ病,不安障害,睡眠障害など)について,治療はもとより,休職の防止や早期の復職を図っていきたいと考えています。
街中の喧騒から離れた,静かで落ち着いた環境は,働く方のストレス関連障害の療養に適していると言えます。周囲には万葉の時代から愛されている榊原温泉があり,日帰り入浴施設もいくつかあります。職場でのストレス障害にお悩みの方は,ぜひご相談ください。

働く方によくみられるストレス関連障害

うつ病
 様々なストレスによって脳の機能障害が起こり,眠れない,気分が落ち込む,意欲がわかない,集中して物事に取り組めないといった症状が見られます。食欲がない,疲れやすい,めまいがするといった体の症状もみられるため,内科などを受診して検査や治療を受けても一向に改善しない・・・という場合,うつ病の可能性があります。うつ病は神経伝達物質といわれる物質の代謝異常が原因とされ,主に薬による治療が行われますが,休養や環境調整なども重要です。早期に治療を始めるほど改善率が高いと言われていますので,お早めにご相談ください。
 
双極性障害(そううつ病)
 憂うつな気分になる,意欲がわかないといった「うつ病相」に加え,気分が高揚する,活動的になるといった「そう病相」が出現し,これを繰り返すようになる病気です。落ち込んだり,元気になったりといった気分の波は誰にでもありますが,周りから見て「いつもと様子が違う」と感じられた場合,双極性障害の可能性があります。「そう病相」が軽度であれば自分では気づきにくいため,周りからの情報が重要になります。「うつ病相」と「そう病相」を繰り返すことで,人間関係や社会的信用を失うこともあるので,早期の治療が重要です。薬による治療が行われますが,ストレスを避ける,病気の性質を理解するといったことも重要です。
 
不安障害
適応障害
 ある特定の状況や原因がその人にとって耐えがたいストレスになり,そのために身体面や精神面の症状が出る病気です。症状としては,憂うつな気分,不安感やイライラ感といった症状のほか,動悸,頭痛,下痢といった身体の症状もみられます。うつ病と似た症状が見られますが,異動や対人関係などストレスとなる状況や原因があり,それらがなくなれば症状も改善していくことが,うつ病とは異なる点です。しかし,ストレスになる状況や原因がなくならなければ,症状は慢性化することもあります。そのような場合,医療的な対応だけではなく,環境調整などの支援や,適応能力を高めていくような手段も必要となります。
 
社交不安障害
 多くの人の前で話す,初対面の人と話すといったことで緊張や不安を感じることはよくあることです。しかし,社交不安障害では,このような状況に強い苦痛を感じ,動悸,冷や汗,息苦しさといった身体症状が出ることもあります。また,こうした状況を避けるため,日常生活に支障が出るようになります。社交不安障害は,うつ病やアルコール依存症といった他の病気につながる危険性も知られているため,注意が必要です。症状が重症化,慢性化すれば,人前に出ることが難しくなり,職場に行けなくなるなどの著しい支障が出ることもあります。単なる「内気」「あがり症」といった性格上の問題ではなく,治療により改善することがあるため,症状が複雑化する前に,早めにご相談ください。
 
パニック障害
 何の前触れなく突然,動悸,息苦しさ,めまい,手足の震え,冷や汗などといった発作(パニック発作)が出現する病気です。パニック発作は「死んでしまうのではないか」といった強い不安を引き起こし,発作を繰り返していくうちに「また発作が起こるのではないか」という不安(予期不安)が見られるようになります。その後もパニック発作を繰り返すと,「電車に乗るのが怖い」「外出するのが怖い」といった,発作を起こしやすい状況や助けを求められない場所を避けるようになり,日常生活に支障をきたすようになります。パニック障害では主に薬による治療が行われますが,病気の性質を知ることや,苦手な状況にゆっくり慣れていくことも重要です。
 
強迫性障害
 汚れが気になり何度も手や体を洗ってしまう,外出の際に鍵をかけたか何度も確認してしまう,といった不安やこだわりによって日常生活に支障をきたす病気です。強迫性障害は「手や体を洗わないと気が済まない」といった観念(強迫観念)と,強迫観念を打ち消すため「手や体を何度も洗ってしまう」といった行為(強迫行為)からなります。自分でも強迫観念は不合理だとわかっているのですが,それでもそれを打ち消す強迫行為を止めることができないのが特徴です。薬による治療が行われますが,病気の性質を知ることや,周囲の理解も重要になってきます。
 
睡眠障害
 眠れなくなる,眠りに問題があることはよく見られ,なかなか寝付けない,途中で起きてしまう,朝早く目覚めてしまうといった症状がみられます。ただ,眠れなくなることが病気であるとは限りません。不眠の原因は,生活習慣や環境,ストレス,精神的な病気など様々なものがあります。
 睡眠障害は睡眠に何らかの問題があり,強い苦痛や日常生活に著しい支障が出ているものことをいいます。不眠症のほか,日中に強い眠気が出て困る(過眠症),夜に目が覚めて朝起きられない(概日リズム睡眠障害)といった病気も含まれます。薬による治療が行われることもありますが,生活習慣の見直しや環境調整も治療の大きな部分を占めます。

発達障害
 発達障害には様々なものがありますが、職場で問題になる障害のうち、代表的なものとして、自閉症スペクトラム障害と注意欠如・多動性障害があげられます。
 自閉症スペクトラム障害の症状として、職場で問題になるのは、コミュニケーションが取れない、こだわりが強いといったものです。コミュニケーションが取れないという症状の仲には、意思疎通に難があるといったケースの他に、職場や社会における暗黙のルールが分からない、雰囲気を読まずに不用意な発言をしてしまうといったものがあります。また、こだわりが強い方の中には、些細な事柄に拘ってしまい、なかなか仕事全体が進まないということ見られます。少量の薬を使うこともありますが、環境調整や周囲の理解が治療の鍵になることが多いです。
 注意欠如・多動性障害については、単純作業でミスが多い、指示を聴いていないといったことが職場で問題になりやすいです。中には、会議でじっとしていられない、他人の話を最後まで聞けない、といった症状を示す方もいます。薬による治療が行われることが大半ですが、環境調整や周囲の理解といったことも治療において重要です。

治療について

 薬物療法だけが治療手段ではありません。職場や家庭における環境調整や,病気の性質を学び理解することも重要になってきます。自らの性格傾向を知るため,各種心理検査が必要になる場合もあります。大手企業で産業医経験のある担当医が,患者様に合わせた医療を提供していきます。

休職や復職について

 ストレス関連精神障害にとって休養は重要ですが,どの時点で休職に踏み切るかは十分検討する必要があります。症状が重症であれば,すぐにでも休職したほうがいいでしょう。一方,症状が重症ではなく,比較的短期間の休養で症状の改善が見込める場合は,有給休暇の活用や業務負荷の軽減・時間外労働の制限といった方法が得策である場合もあります。休職を繰り返している場合,休職のタイミングや期間は慎重に検討したほうがいいのかもしれません。
 休職した場合,まずは十分な休養を取る必要がありますが,原則として朝方の規則正しい生活を心がける必要があります。十分な休養によって症状が改善したのちは,徐々に職場環境に近づけた生活を送ることが望ましいと言えます。図書館などで日中を過ごし,業務に関連する書籍を読むなどといった生活上の指導を行うことにしています。
 復職には,上司や人事担当者,産業医とのコミュニケーションが欠かせません。業務負荷がどの程度軽減できるか,短時間での就労が可能かといった,職場ごとの制度を検討する必要があります。再度の休職を防ぐため,特に復職後の一定期間は診察する回数を増やして,心身の状態や職場環境の把握に努めるようにしています。公的病院のため診療は平日のみとなっており,受診にご面倒をおかけすることもあるのですが,必要に応じて電話再診などの方法をとっております。

企業の人事担当者の方へ

 精神科産業医としての業務はお受けできないのですが,勤怠に問題がある,業務効率が明らかに落ちた,といったメンタルヘルス上の問題を抱えた従業員の方がいる場合,本人の同意があれば受診を促していただければと思います。同意がない場合の対応は難しいのですが,ご家族の同意があれば家族相談という形で受診していただくなどといった方法があります。

<ケース1>
 欠勤が目立ち仕事上のミスも目立っているA氏。出勤時に酒臭が見られ,上司が指導することもあった。受診の結果うつ病と診断され,約3か月間の休職,加療の後に復職し,現在は定時内での勤務を継続している。

<ケース2>
 欠勤が見られ,また業務効率が低下しているB氏。同僚や顧客とトラブルを起こすこともしばしばあった。上司が指導しようとしたものの,うつ病など精神疾患の可能性を考え躊躇していた。受診の結果,精神疾患は確認できず,労務管理上の問題として対応することになった。

<ケース3>
 上司の指示を聞かず,自己判断で業務を一方的に進めるC氏。会社の承認を受けないまま顧客と契約の話を進め,大きな問題となった。受診したところ,双極性障害と診断され休職した。復職後は上司の指導のもと勤務を継続している。

詳しくは外来(059-252-0211)にお問い合わせください。