治療抵抗性統合失調症治療(クロザピン治療)のご紹介このページを印刷する - 治療抵抗性統合失調症治療(クロザピン治療)のご紹介

治療抵抗性統合失調症治療(クロザピン治療)のご紹介

治療抵抗性統合失調症について

他の抗精神病薬(統合失調症の治療薬)で十分効果が得られない、または副作用が出現するために十分に薬を増やすことができない場合、治療抵抗性統合失調症と定義されます。統合失調症患者さんのうち、2割~3割が、この治療抵抗性統合失調症にあてはまるといわれています。

クロザピン治療について

クロザピン(商品名:クロザリル®)は「治療抵抗性統合失調症」に対して、我が国で唯一適応を持ち、世界各国で効果が認められているお薬です。
当院でも、クロザピン治療によって、以下のように症状改善がみられた患者さんが多くいらっしゃいます。

  • 幻聴に影響された暴力があり、長期の入院を余儀なくされていた方が、自宅で家族と暮らせるようになった
  • 感情に乏しく、人との関わりを嫌い、長年引きこもっていた方が、笑顔で人と話し、外出できるようになった

ただし、注意すべき副作用があるために、クロザピンを使用する病院は定められた基準を満たす必要があり、治療に関わるスタッフは研修を受けなければなりません。またクロザピンを導入する患者さんは、入院して治療開始していただく必要があります。こうしたハードルが設けられているために、クロザピンを使用できる病院は限られています。

クロザピンが適応となる患者さん

  • 他の抗精神病薬で治療していても、次のような症状が改善しない方
     ▶幻聴妄想に悩まされている
     ▶水を多量に飲んでしまう
     ▶衝動的に自分を傷つけたり、他人に暴力をふるってしまう
  • 他の抗精神病薬で副作用が強く出るために、十分な治療ができない方
    ▶錐体外路症状(パーキンソン症状)が現れ、薬を十分に増やせない方

クロザピンの特に注意すべき副作用(好中球減少症・無顆粒球症)について

クロザピンの注意すべき代表的な副作用として、好中球減少症・無顆粒球症があります。好中球は外からやってきた細菌、ウイルス等と戦う白血球の一種で、好中球が減少した状態が続くと、健康な人では問題にならないような細菌やウイルスに容易に感染するようになります。1970年代には、クロザピンは海外で使用されはじめていましたが、こうした重い副作用が出現したために、一度は販売中止になった経緯があります。しかし、その後、他の薬が効かない統合失調症の患者さんにもクロザピンが有効であることがわかり、副作用モニタリングを定期的に行うシステムを作るという条件の下、2009年に我が国でもクロザピン(商品名:クロザリル®)が承認され販売開始となりました。この副作用モニタリングのために作られたシステムをCPMS(クロザリル患者モニタリングサービス)といいます。
 

定期的な血液検査について

クロザピンを使用するにあたっては、上記のCPMS(クロザリル患者モニタリングサービス)への登録が必須となります。このシステムは重大な副作用の早期発見および迅速な対処ができるように、病院側が必要な検査を行い、安全にクロザピンが使用されているかを確認するものです。クロザピンを使用している多くの国々でも同様のシステムを採用しています。
投与初期に副作用が出現しやすい傾向があるため、クロザピンを開始する際には、入院していただく必要があり、開始後、原則18週間は退院できません。クロザピン開始後26週間は週1回の血液検査を行い、白血球数・好中球数に異常がないかを確認します。原則、26週経過して問題が無ければ2週に1回52週経過で4週に1回の検査間隔へと移行することができます。

当院におけるクロザピン治療実績

当院のクロザピン症例数(CPMS登録者数)はのべ135例となっています(2022年8月25日現在)。
(参考:三重県のCPMS登録者数245  2022年8月2日現在)

当院におけるクロザピン治療の特徴

当院はクロザピン治療の専門病棟を有しており、副作用モニタリングに努めながら、専門スタッフによる心理社会的な治療を行っています。
導入前家族面談
クロザピン治療を希望される患者さん・ご家族に対し、治療に関する詳細な説明を行っており、不安点をできるだけ解消できるように努めています。この面談には、医師・看護師・薬剤師が参加します。
 
専門病棟での心理社会的治療
統合失調症治療では、薬物療法による症状改善とともに心理社会的治療を並行して行なうことで、その効果を最大化できる、といわれています。そのため、当病棟ではクロザピン服用開始後、患者さんの精神症状の回復に合わせて、活動の時間や内容、場所を徐々に拡大し、患者さんが退院後に「より自分らしい生活」を送ることができるように、支援しています。
その一環として、医師・看護師・作業療法士・心理療法士・精神保健福祉士・薬剤師・栄養士といった多職種スタッフによる、疾患教育や社会資源の勉強会、家事訓練、創作活動・運動、レクリエーション等のさまざまな治療プログラムを提供しています。

クロザピンカンファレンス
患者さん・ご家族と主治医を含めた多職種スタッフが話し合いをするカンファレンス(治療のための会議)を定期的に開いており、各専門職からの現状報告、情報共有、退院までの課題整理等を行っています。カンファレンスでは、患者さん・ご家族の希望もお聞きしながら、今後の治療方針を決めていきます。

クロザピンコアチーム
   当院では、多職種から構成されるクロザピンコアチームを設置しています。重篤な副作用出現時等には速やかにコアメンバーが招集され、対応を検討します。

施設見学・出張講座のご案内

当院では、クロザピン治療に関心のある医療従事者の方の見学の受け入れやクロザピン治療に関する出張講座を行っています。お気軽にお問い合わせください。