症状と対応:NSAIDsによる蕁麻疹/血管浮腫

医療関係者の皆様へ

早期発見と早期対応のポイント

  1. 副作用の出現時間:
    解熱鎮痛薬を使用してから、数分から半日以内に、全身の蕁麻疹もしくは血管浮腫が生じる。重篤な例ほど、原因薬剤使用から症状発現までの時間は短い。蕁麻疹は通常、24-48時間以内で消失することが多いが、血管浮腫は、翌日にさらに悪化し、数日持続する。
  2. 患者側のリスク因子や素因:
    慢性蕁麻疹患者の20−35%は、NSAIDsの使用により増悪する。慢性蕁麻疹患者では、皮膚症状が不安定な患者ほど、誘発されやすい。一方、基礎疾患の無い患者でも強い蕁麻疹/血管浮腫を生じる場合もある。過労なども誘因になりやすいことが知られいる。したがって、使用時の患者の体調により、副作用の発現程度が異なり、同じ原因薬や量で必ず誘発されるわけではない。その機序は、アレルギー機序に基づくのではなく、NSAIDs がプロスタグランディン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼを阻害することにより生じる、いわゆるイントレランス(intolerance、不耐症)とされる。このNSAIDs不耐症は、小児には少なく、成人に多い後天的過敏体質である。類似病態であるIgEを介するNSAIDsアレルギーと異なり、原因 NSAIDsを初めて使用した場合でも起こりうる。遺伝的な体質は証明されていない。NSAIDsアレルギーでも全身皮疹やアナフィラキシーが生じることがあるが、症状からは両者の鑑別はむずかしく、救急対応にも大きな差はない。
  3. 投薬上のリスク因子:
    • 薬剤による誘発力:NSAIDs不耐症は、シクロオキシゲナーゼ阻害により生じる薬理学的変調現象であるため、原因NSAIDsのもつシクロオキシゲナーゼ阻害力で誘発症状の強弱が決まる。すなわち解熱鎮痛効果の強い薬剤ほど、誘発されやすく、またその誘発症状も強い。
    • 原因薬の剤型:原因となるNSAIDsは、使用頻度に応じて、内服薬>坐薬>注射薬の順で原因になることが多い。坐薬や注射薬は急速な症状をきたしやすい。時にNSAIDsを含んだ貼付薬、まれに塗布薬や点眼薬でも生じるが、使用された皮膚局所に皮疹が出やすいわけではない。
    • 誘発症状の発現と持続:坐薬や注射薬は、薬剤の吸収が早いことから、誘発症状は、30分以内に生じることが多いが、内服薬では、1-2時間以内に生じやすい。一方、貼付薬では、数時間から半日後に症状が出現することが多い。ただし、軽度の皮疹の場合は、症状発現に気づくのが遅れる場合もある。効果が持続する薬剤(たとえば1日1回投与のNSAIDs)では、誘発症状も1日以上続く。
  4. 患者もしくは家族などが早期に認識しうる症状:
    • 早期に認識しうる症状:主に顔面や頚部、四肢に軽度の蕁麻疹から始まることが多いが、口唇や眼瞼、顔面の軽度浮腫から始まるケースもある。
    • 重篤な症状に進行する可能性のある(前駆)症状:頚部狭窄感、咳、息苦しさ、腹痛、嘔吐は、アナフィラキシー症状に先行して認めやすいため、早急な対応を要する。同様に、広範な蕁麻疹や急速な血管浮腫の出現も、全身症状を生じやすい。

予防と早期診断に必要な問診方法

既往歴の問診
  1. NSAIDs不耐症のハイリスクグループである慢性蕁麻疹と喘息がないか。さらに運動誘発アナフィラキシーなどのようなNSAIDsが誘因となる疾患の既往がないか。
  2. 過去のNSAIDs使用歴とその際の副反応を問診する。NSAIDsは総合感冒薬ではなく、効果の強いNSAIDsを具体名を挙げてたずねる(たとえばバファリンなど)。ただしNSAIDs不耐症は、初回使用例に認めるだけでなく、過去にNSAIDsを安全に使用できた例でもおきうる(後天的過敏体質のため)。
早期診断に必要な問診
  1. NSAIDs 不耐蕁麻疹/血管浮腫の診断:患者が、NSAIDs使用と蕁麻疹/血管浮腫出現の関連を自覚している場合は、NSAIDs使用時間と皮疹出現のタイミングが副反応として矛盾しないかを判断する。時にNSAIDs蕁麻疹/血管浮腫は、時間が遅れて症状に気づくことがあり、前日も含めたNSAIDs使用を確認する。また患者は、貼付薬や塗布薬も原因となりうることを自覚していないことが多く、その使用の有無は必ず確認する。
  2. 原因薬の確認:NSAIDs不耐症と確定できない場合や、NSAIDsアレルギーとの鑑別が困難なケースは、専門医を紹介する。原因と推定された薬剤は記録を残し、NSAIDs蕁麻疹/血管浮腫と診断された場合は、今後の誤使用を避けるための指導を行う。(指導法は、相模原病院の(NSAIDs過敏症)ホームページ(近日中に完成予定)を参照)。

副反応の概要

  1. 要約:
    原因となるNSAIDs使用後、数分から数時間を経て、頚部、顔面、四肢などに蕁麻疹が出現する。血管浮腫は、口唇と眼瞼に生じやすく、蕁麻疹よりも通常遅れて出現し、数日持続する。広範囲な皮疹、ならびに気道症状や消化器症状は、重篤な症状の始まりであることが多く、早急な処置が必要である。原因となる NSAIDsは無い服薬や坐薬が多いが、全ての剤型(注射薬、貼付薬、塗布薬)でおきうる。NSAIDs不耐症は、NSAIDsのもつCOX1阻害作用(≒解熱鎮痛効果)に応じて生じる非アレルギー学的過敏症状であるため、その構造を問わず、COX1阻害作用を有する全てのNSAIDsが原因となりうる。いまだその機序や診断法は無いため、適切な問診と(専門施設で行う)負荷試験で診断するしかない。
  2. 自覚症状:
    原因となるNSAIDs使用後、数分から数時間を経て、頚部、顔面、四肢などに蕁麻疹が出現する。血管浮腫は、蕁麻疹を伴う場合と、単独の場合があるが、蕁麻疹よりも通常遅れて出現し、数日持続する。薬剤使用から、症状発現までの時間が短いケースほど、症状は強いことが多い。広範囲な皮疹、ならびに皮膚以外の症状(頚部の狭窄感、咳、息苦しさ、腹痛、嘔気など)は、重篤な症状やアナフィラキシーの始まりであることが多いので、早急な処置が必要である。
  3. 他覚症状:
    典型的な蕁麻疹/血管浮腫であり、NSAIDs不耐症に特有の皮疹や部位はない。典型的な蕁麻疹が、頚部や顔面、四肢などに認めやすい。血管浮腫は口唇と眼瞼に認めやすい。蕁麻疹と血管浮腫は、それぞれ単独の場合も、併発する場合もある。喘鳴、喉頭浮腫症状、血圧低下傾向は、アナフィラキシーの前駆症状として捕らえる。時にNSAIDs過敏喘息/鼻炎症状を併発する場合がある。
  4. 臨床検査所見:
    急性期:
    血圧と酸素飽和度の確認は必須であるが、診断に有用な検査法はない。肥満細胞の活性化によりシスティニルロイコトリエン(Cys-LTs)とヒスタミンの過剰産生が生じるため、研究室レベルでは、それらの活性化マーカーや尿中代謝産物の増加を確認することができる。

    原因診断法:
    通常のアレルギー学的検査は、皮膚テストを含め全て陰性である。IgE抗体やヒスタミン遊離テストも陰性で、問診と負荷試験による診断しかない。
  5. 発症機序:
    NSAIDs 不耐症は、厳密な意味ではアレルギー反応ではなく、イントレランスとされ、NSAIDsのもつシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用により、内因性のプロスタグランディン(PG)E2が減少し、過敏症状が生じる薬理学的な変調体質である。近年このCOXには、定常的に発現しているCOX1と、炎症時に誘導されるCOX2が存在することが判明しているが、NSAIDs不耐症患者は、このCOX1阻害に強く反応する。したがって、COX1阻害作用の強い NSAIDs、具体的にはアスピリン、インドメサシンなどに対し過敏反応が強く現れ、アセトアミノフェンや近年開発されたコキシブ(国内未承認)では、副反応が生じにくい。この過敏体質は、成人後に後天的に獲得され、家族内発症はほとんどなく、不耐症獲得の機序は不明である。試験管内の特異的反応は見つかっておらず、動物モデルもない。
    アラキドン酸カスケードとNSAIDsによるシクロオキシゲナーゼ阻害

    アラキドンカスケードとNSAIDsによるシクロオキシゲナーゼ阻害
    アスピリンを代表とするNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼを阻害することで、プロスタグランディンの合成を阻害する。

    その結果、解熱鎮痛効果も得られるが、NSAIDs不耐症患者はこのシクロオキシゲナーゼ阻害薬、とくにシクロオキゲナーゼ1阻害薬に過敏に反応し、蕁麻疹・血管浮腫や喘息が生じる。

  6. 薬剤ごとの特徴:
    • NSAIDs のCOX1阻害作用の強さに応じて誘発症状の強度が影響される。このCOX阻害作用は、おおむね解熱鎮痛効果と相関するため、強いNSAIDs(アスピリンやインドメサシンなど)はより危険である。アセトアミノフェンはCOX1阻害作用をほとんど有さないため、原因となりにくいが、高用量(1回 500mg)で誘発する場合がある。
    • 剤型により、過敏症状発現のタイミングが異なる。すなわち、坐薬や注射薬では、数分から数10分以内に過敏症状が現れ、内服薬では、数10分から数時間後に、貼付薬では、数時間後からゆっくり現れる。ただし、内服薬でも、腸溶剤の場合は、その発現は数時間以降になりやすい。過敏症状の持続時間は、その薬剤がもつ解熱鎮痛効果の持続時間とおおむね相関する。

副作用の判別基準(判別方法)

急速に生じた典型的な蕁麻疹/血管浮腫を認めた場合、原因となりうるNSAIDsの使用の有無を確認する。その際、数時間以内に使用したNSAIDsの可能性が高いが、前日に使用したNSAIDsも否定できない。

鑑別が必要な疾患と鑑別方法

(1)急性の蕁麻疹/血管浮腫
↓(+)
(2)NSAIDs使用あり
↓(+)
(3)使用したNSAIDsと誘発症状との時間的関連あり
↓(+)
(4)FDEIA(運動や原因食物の摂取、若年者、アトピー体質)や
NSAIDアレルギー(原因NSAIDの頻回使用歴、アトピー体質など)との鑑別
既往歴で判断できなければ、後日、専門施設における負荷試験で確定

治療方法

通常の蕁麻疹/血管浮腫と同様の対応法であるが、急速な浮腫が生じるため、早期にアドレナリンを用いる。
  1. 軽症例:
    通常の蕁麻疹/血管浮腫と同様の対応。ただし、翌日に悪化する可能性あり
  2. 中等症:
    抗ヒスタミン薬と全身ステロイド。抗ロイコトリエンを考慮(ただし保険適応なし)。
  3. 重症例、気道もしくは消化器症状合併例:
    2次救急施設へ搬送するのを原則とする。血圧低下に対し、下肢を挙上するセミファーラー体位をとらせる。搬送する前に、できるだけ酸素とアドレナリン筋肉注射(0.1-0.3ml)は、開始しておく。さらに抗ヒスタミン薬と全身ステロイドの点滴投与を開始する。急速な進行例ではアドレナリンの筋肉注射だけでなく、点滴静注も考慮する。

典型例の経過

症例:

35歳女性:生来健康。アレルギー疾患や薬剤アレルギーの既往なし。33歳時、頭痛の際に、市販のアスピリンを初めて内服し、3時間後に口唇の腫れに気づくも、2−3日で自然消失。その2ヵ月後に、同じアスピリンを内服し、口唇と眼瞼の浮腫、頚部の蕁麻疹、および軽度の咳が出現したが、自然消失。以後、アスピリンなどの内服は避けていた。35歳時に、感冒様症状で近医を受診した際、ロキソプロフェンと抗生剤の処方を受けた。内服30分後から、蕁麻疹と口唇浮腫に気づき、さらに1時間後に全身蕁麻疹、血管浮腫、呼吸困難、嘔気をきたしたため、救急車で搬送される。

来院時の理学所見:

意識清明。体格中等度。SpO295%、血圧76/38、脈拍112/分,整。心音:純。口唇、眼瞼に特に強い血管浮腫と全身の広範囲な蕁麻疹を認める。喉頭の発赤と腫脹あり。胸部では、軽度の喘鳴を聴取。

経過:

NSAIDs 不耐症による蕁麻疹/血管浮腫、アナフィラキシーと判断し、経鼻酸素2l開始し、下肢挙上の後、アドレナリン0.2ml(0.2mg)筋肉内注射施行。その後末梢ルートの確保に時間を要したため、マレイン酸クロルフェニラミン5mg(ポララミン1A)を先に筋肉内注射した。これにより、血圧は96/50まで上昇し、呼吸困難と喘鳴、皮疹は改善した。次に、ベタメサゾン10mg+アミノフィリン250mg(ネオフィリン1A)+マレイン酸クロルフェニラミン5mg(ポララミン1A)+H2阻害薬を乳酸加リンゲル液500mlに溶解し、2時間で点滴静注。その後、再び息苦しさと血管浮腫が増悪したため、2回目のアドレナリン0.2mgを投与し、奏効した。再燃や遷延化のリスクがあるため、その後は病棟で、穂液を続けながら、経過観察としたが、血管浮腫、蕁麻疹はゆっくり消退し、全身状態も安定したため、NSAIDs不耐症の説明を十分に行い、患者カードを携帯させ翌日退院となった。

解説:

30 歳代にアスピリン内服で発症した典型的NSAIDs不耐症(皮疹型)である。このようなケースは、アスピリンのみに対するアレルギーと誤解されやすいが、頻度からいっても、NSAIDs不耐症のほうが多く、使用歴がなくてアスピリンで蕁麻疹/血管浮腫を生じていることは、強くNSAIDs不耐症を疑う。したがって、NSAIDs全般が禁忌となる。誘発症状は、アナフィラキシーまでいたっており、アドレナリンが第1選択薬であり、奏効する。静注ステロイドは、NSAIDs過敏喘息例で、コハク酸エステル型ステロイド(ソルコーテフ、サクシゾン、ソルメドロールなど)の急速投与で、悪化することが確認されており、NSAIDs過敏皮疹でも、悪化の可能性を考え、リン酸エステル型ステロイド(リンデロン、デカドロンなど)を点滴で用いることが望ましい。遷延化症例も多いため、1日は経過観察入院が必要であり、今後のNSAIDs誤使用を防ぐための、指導と患者カードも大切である。