症状と対応:アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)

医療関係者の皆様へ

早期診断と早期対応のポイント

早期診断のポイント
  1. NSAIDs使用後の急激な喘息発作と鼻症状の悪化(鼻汁や鼻閉)は、本症を強く疑う。
  2. ただし、以下は、NSAIDs過敏症状でない可能性を考える。
    • 誘発症状出現のタイミングが合致しない場合
    • 発作が軽い場合
    • 誘発症状を伴わない喘息発作だけの場合
  3. 注射薬、坐薬>内服薬>貼付薬、塗布薬の順で症状が早くかつ、強くおきることを知る。またNSAIDsを含んだ点眼薬も原因となりうることを念頭に置く。

早期対応のポイント

  1. 基本的に通常の急性喘息発作の対応と同じであるが、アドレナリンが有効であることと、ステロイドの急速静注は禁忌であることを十分に理解しておく。
  2. NSAIDs使用後数時間は急速に症状が悪化しやすいことから、迅速な対応が必要である。
  3. まずSpO2をモニターし、十分な酸素投与をし、アドレナリン筋肉内注射(0.1-0.3ml)を試みる。アドレナリンは皮下注射よりも筋肉内注射のほうが即効性がある。
  4. その後、末梢静脈を確保する。
  5. 重症発作の場合は、救命救急施設へ搬送する。
  6. アドレナリンは、喘息症状だけでなく、鼻、消化器、皮膚などすべてのNSAIDs過敏症状に奏効するため、積極的に用いる。2-3回繰り返し用いても良い
  7. ステロイド+アミノフィリンは通常の喘息発作と同様の方法で、点滴で用いる。特に静注用ステロイドは、その急速投与で発作の悪化をきたしやすいため、決して急速静注してはいけない。
  8. 鼻閉や顔面紅潮、皮疹を認める症例では、抗ヒスタミン薬の点滴内追加も考慮する(なぜならこれらにはヒスタミンも関与するため)。
  9. 内服可能であれば、ただちに抗ロイコトリエン薬を内服させる。
  10. 最初の数時間を乗り越えれば、原因NSAIDsの薬理学的効果の消退とともに、発作も改善してくる。
患者側のリスク

普段の喘息症状のコントロールが不十分な例や、喘息発作を繰り返している重症例が、NSAIDsで誘発された場合は、非常に重篤な発作につながりやすい。

原因薬上のリスク因子
  1. 坐薬や注射薬は急激な発作をまねきやすい。
  2. 解熱鎮痛効果の強い薬剤、シクロオキシゲナーゼ1の阻害作用が強いNSAIDs(インドメタシンやアスピリン)は、重症発作を誘発しやすい。
  3. 長時間効果のあるNSAIDsでは、誘発症状が遷延化する。

副作用(NSAIDs誘発症状)の概要

副作用(NSAIDs誘発症状)の概要
  1. 自覚症状:
    原因となるNSAIDs服用から、通常1時間以内に、鼻閉、鼻汁に続き、咳、息苦しさ、時に嘔気や腹痛、下痢などの腹部症状が出現する。
  2. 他覚所見:
    NSAIDs 使用後、1時間以内に、鼻閉、強い喘息発作や咳嗽を認める。誘発症状が強い例では、頚部から顔面の紅潮、消化器症状を認めやすいが、皮疹は少ない。過敏症状は軽症例では、約半日、重症例では24時間以上続くが、症状のピークは、原因となるNSAIDの効果発現時間である。ただし血管浮腫などの皮疹例は、その発現が遅れ、持続も長い。
  3. 臨床検査成績:
    急性期は通常の検査で行うべき項目はなく、急性喘息発作同様に治療が優先される。喘息発作が重症であるため、動脈血の炭酸ガス分圧の上昇に注意する。過敏症状に関与する主たるメディエーターは、システィニルロイコトリエンであり、その代謝産物である尿中ロイコトリエンE4の著増を認める(ロイコトリエンの測定は保険未適応)。
  4. NSAID過敏性獲得機序:
    残念ながら今もって不明である。家族内発症もまれである。
  5. NSAID過敏反応の機序:
    プロスタグランディン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ1(COX-1)を阻害することにより過敏症状が誘発される。すなわちCOX-1阻害で内因性のプロスタグランディンE2が減少し、何らかの機序によりマスト細胞が活性化され、システィニルロイコトリエンの過剰産生が生じ、過敏症状が発現すると考えられている。したがって、COX-1阻害作用の強いNSAIDほど、過敏症状を誘発しやすく、かつ誘発症状は強度である。近年の研究では、COX-2の選択的阻害薬では、誘発されにくいことも確認されている。
  6. 薬剤ごとの過敏症状の差
    • 前述のように、解熱鎮痛効果の強い薬剤、すなわちCOX-1阻害作用の強いNSAIDほど、激烈な副作用を生じやすい。
    • 吸収の早いNSAIDほど、急激な過敏症状をもたらす。
    • NSAIDのもつCOX-1阻害作用により生じる副作用のため、原因となるNSAIDの構造式上の共通点はない。
  7. 副作用の発現頻度:
    NSAID不耐症の患者では例外なくNSAID使用で、過敏症状を呈する。
  8. NSAID過敏喘息の頻度:
    成人喘息の約10%とされるが、本症は重症喘息で、成人以降に発症するため、対象とする母集団で異なる。
    • 小児喘息患者での頻度:まれ
    • 思春期以降発症の喘息患者:少ない
    • 成人以降発症の喘息患者:約10%
    • 重症成人喘息患者:30%以上
    • 鼻茸副鼻腔炎を有する喘息患者:50%以上

NSAID過敏の診断手順

NSAID使用後の喘息発作からの鑑別:
(1)COX1阻害作用をもつNSAID使用後の喘息発作
↓ Yes
(2)鼻症状(鼻閉、鼻汁)悪化を伴う
↓ Yes
(3)中発作以上の喘息発作である
↓ Yes
(4)NSAID使用から1−2時間以内に発作が始まっている(ただし貼付薬と塗布薬は除く)
↓ Yes
NSAID過敏症と確定

鑑別を要する他の病態

鑑別を要する他の病態
  1. たまたまNSAIDを使用していた際の喘息発作:常に鑑別が問題となるが通常は3)の2、3、4を満たさないことが多い。
  2. NSAID アレルギー:アスピリンやロキソプロフェンアレルギーなど、特定のNSAIDに対してのみ、アレルギー症状を呈する場合を指す。過去に原因となる NSAIDの使用歴があり、感作された結果生じるアレルギー反応をさす。誘発症状は、アナフィラキシー症状や皮疹が主体となるが、もともと気道過敏性を有する例では、喘息発作も誘発されるため、鑑別は難しい。NSAID使用後の蕁麻疹を広範囲に伴った喘息発作の場合は、NSAID不耐症よりも、NSAID アレルギーが考えやすい。
  3. NSAID不耐症(皮疹型):アスピリン喘息と同じく、COX-1阻害作用の強いNSAIDで蕁麻疹/血管浮腫が生じるが、気道症状は少ない。

治療方法

急性期(NSAID誘発時)

通常の急性喘息発作と同様であるが、急激に悪化するため、以下の治療を順に迅速に行う。救急対応や入院が不可能な施設では、以下の1、2を行った後に、専門施設に転送する。

  1. 十分な酸素化
  2. アドレナリンの早期および繰り返し投与(筋肉内注射)
  3. アミノフィリンとステロイドの点滴投与(ただし、ステロイドの急速静注は禁忌。またステロイドはできるかぎりリン酸エステルタイプの静注用ステロイド=デカドロン、リンデロンなどを用いる)
  4. 抗ヒスタミン薬の点滴投与
  5. 抗ロイコトリエン薬の内服(可能ならば)
  6. 重症例や遷延化例では、プロスタグランディンE1の点滴静注も考慮
慢性期(長期管理期)
  1. 通常の慢性喘息と同様、吸入ステロイドが基本となる。
  2. 本症に有効性が高いのは、抗ロイコトリエン薬、クロモリン(インタール)がある。
  3. 鼻茸副鼻腔炎の治療(内視鏡下手術、点鼻ステロイド)が、喘息症状も安定化させる。
  4. 診断がついた後のNSAID誤使用防止のために、患者カードを携帯させる。

典型的症例の概要

アスピリン負荷試験における典型的誘発症状の経過

典型的なアスピリン喘息症例の臨床経過

その他早期診断に有用な事項

過去にNSAIDによる副作用歴がない患者が少なくないため、本症に特徴的な臨床像を知る

  1. 嗅覚低下(本症の90%以上に認める。し骨洞付近に早期から鼻茸ができやすいため)
  2. 鼻茸副鼻腔炎の合併、既往、手術歴
  3. 成人後に発症した中等症、重症の喘息