禁忌と回避(医療関係者の皆様へ):解熱鎮痛薬の使い方(医療関係者向け)

臨床像からNSAIDs過敏を疑うポイント

表1には、臨床像からアスピリン喘息を疑うポイントを挙げた。NSAIDで発作が悪化した既往があれば90%近くは本症であるが、100%でない理由として、感冒罹患時の自然悪化とNSAID使用のタイミングが合うと、誤判断する場合があるからである。一方、アスピリン喘息患者のうち約2割は、日常生活上の誘発物質であるミント、練り歯磨き、香辛料の多い食事(サリチル酸が多い)で症状の悪化を自覚している。非アスピリン喘息ではこの現象は認めないため、感度は高くないものの、診断上での特異性は極めて高い。嗅覚低下は、嗅神経末端のある篩骨洞周辺に鼻茸が生じるため、発症早期からおきやすい。この嗅覚低下は全身ステロイド投与で回復するのが特徴であるが、喘息患者は自ら訴えることはないため、積極的に問診する必要がある。この嗅覚障害は、NSAID不耐症をもっとも簡便に見極めるポイントで、これがあれば本症の可能性が50%以上あるといってよい。嗅覚低下の原因となる鼻茸は、多発性で易再発性であるため、既往に鼻茸摘出術(外来での局所麻酔下での施行も含めて)を受けていれば、さらに本症の可能性は高い。

アスピリン喘息の喘息症状は、アスピリン様物質を避けていても重症であることが特徴である。成人喘息のなかで最もコントロールしにくいのが本症であり、吸入ステロイドを高用量用いても、発作が頻発する例も少なくない。医療施設の形態にかかわらず、発作入院を繰り返す成人喘息患者に限れば、少なくともその3分の1以上が本症と考えてよい。

表1 臨床像からアスピリン喘息を疑うポイント (  )はアスピリン喘息である確率を示す

  1. ミント、練り歯磨き、香辛料で悪化(95%以上)
  2. NSAID誘発歴(約90%)
  3. 鼻茸もしくは副鼻腔炎の手術歴(60%以上)
  4. 強い嗅覚低下(約60%)
  5. 発作入院を繰り返す(35%以上)
  6. 成人発症で、内因性、中等症以上(約20%)

実際の成人喘息患者に対する発熱、疼痛時の対応

まず大切なことは、NSAID過敏が確実に否定できないケースに、試みに通常量のNSAIDを(たとえ監視下でも)投与してはならないことである。なぜなら、NSAID誘発発作はしばしば爆発的発作となり、すぐに気道確保をしても救命しえない場合があるからである。また本症のNSAID誘発閾値は、常用量の10分の1以下であることも、その理由である。またさらに坐薬、注射薬、内服薬だけでなく、貼付薬や塗布薬も誘発しうることを忘れてはならない。

アスピリン喘息が否定できないケースも含めた対応を述べる。酸性NSAIDは当然禁忌であるため、発熱時は原則的に氷冷しかない。ただし、発熱時は発作も併発していることがしばしばで、全身ステロイドを発作治療に用いた結果、解熱もえられる場合も多い。従来、安全とされていたアセトアミノフェンは、日本人では一回500mg以上で肺機能が低下しやすく、もし使用するなら、一回300mg以下にしたほうが良い。漢方薬の葛根湯や地竜は安全に投与できる。感冒時によく処方されるPL顆粒® は、我々の経験では、一部の発作不安定例以外は、ほぼ安全に使用可能である。使用可能薬については、「NSAIDsを理解するために」の項の「NSAIDs不耐症における危険薬」も併せて参照願いたい。

急性疼痛時は、塩基性消炎薬(ソランタール®、ペントイル®、メブロン®など)やペンタゾシン、モルフィネは使用可能である。なおPL顆粒®や多くの塩基性消炎薬の添付文書では、アスピリン喘息に禁忌となっているが、その根拠はほとんどなく、使用可能である。国内未発売であるが、COX2選択的阻害薬(celecoxibなど)も安全に使用できるが、その長期使用で心血管障害のリスクが報告されて以来、国内での上市は未定である。現有のCOX2選択性が比較的高いNSAID(エトドラク、メロキシカム)に関しては、安全に使用できる場合が多いが、一部の不安定なアスピリン喘息患者では誘発する。

慢性疼痛疾患(リウマチや腰痛症など)や虚血性疾患で、NSAIDやアスピリン連用の必要があれば、まず専門医のもとでNSAID過敏性を負荷試験で確認し、過敏性があればアスピリン脱感作を行なう。