NSAIDsを理解するためにするために:NSAIDs不耐症・過敏症とは
NSAIDs(解熱鎮痛薬)不耐症、過敏症とは
NSAIDs(解熱鎮痛薬)過敏症とは、プロスタグランディン合成酵素阻害(=シクロオキシゲナーゼ阻害)作用を持つNSAIDs(解熱鎮痛薬)全般に対する過敏症状を指します。この原因となるNSAIDsは、薬局で購入される、また医療施設でもよく処方される、ほとんどの解熱鎮痛薬がこれに相当します。またNSAIDs過敏症の同義語として、アスピリン過敏症、NSAIDs不耐症、アスピリン過敏症などがありますが、世界的には、数十年前から世界的にはアスピリン不耐症(aspirin-intolerance)の用語がよく用いられています。ただしアスピリンのみに対する過敏症と誤解しやすいため、できればNSAIDs(解熱鎮痛薬)不耐症、もしくは過敏症という用語を用いるほうがよいでしょう。なお混乱しやすい用語としてNSAIDsアレルギーがありますが、これは単一(1種類)のNSAIDに対するアレルギーを指し、NSAIDs不耐症には含まれません。
NSAIDs不耐症にはぜんそく型とじんましん型がある
アスピリン(NSAIDs)不耐症には、その過敏症状により、ぜんそく型(気道型)とじんましん型(皮膚型)の2つに大別できる。ぜんそく型不耐症は、いわゆるアスピリン喘息(=NSAIDs過敏喘息)と呼ばれ、気管支喘息が基礎疾患としてあり、NSAIDsで非常に強いぜんそく発作と鼻症状が誘発されるのが特徴です。一方、じんましん型は、通常は慢性じんましんがベースにあり、じんましんや血管浮腫(まぶたや唇が腫れるなど)がNSAIDsで誘発されるのが特徴です。ただし、ぜんそく型とじんましん型の合併はまれです。
NSAIDs過敏喘息 | NSAIDs過敏じんましん | |
---|---|---|
頻度 | 成人喘息の約10% | 慢性蕁麻疹の20−30%(?) |
男女比 9) | 2:3で女性に多い | 女性に多い? |
アスピリン内服時の症状出現 | 1時間以内 | 1−3時間後 |
アスピリン誘発症状:軽症 | 喘息、鼻症状(鼻汁と鼻閉) | 蕁麻疹と血管浮腫 |
アスピリン誘発症状:重症 | 上記(重症発作)と顔面頚部の紅潮、結膜充血、消化器症状(下痢、腹痛)など | 上記と喉頭浮腫(アナフィラキシー類似)、嘔吐など |
アスピリン誘発症状の持続 | 数時間から半日 | 半日から数日 |
アスピリン誘発閾値(内服) | 数10mg(平均60mg) | 100mg以上 |
COX-2阻害薬の影響 | なし | なし |
アスピリン喘息とは
アスピリンぜんそくとはアスピリンだけでなく解熱鎮痛薬全般に過敏な体質をもつ喘息のことをさします
- アスピリン喘息とは、アスピリンだけでなく、ほとんどの解熱鎮痛薬で、息苦しさ(ぜんそく発作)や鼻症状がおきる過敏体質のことをさします。
- ピリン、非ピリンに関わらず、またアスピリン、非アスピリンに関わらず、ほとんどの痛み止めや熱を下げる薬(解熱鎮痛薬)が原因となります。
- 生命の危険を伴うような強いぜんそく発作がでる可能性もあるため、ぜんそくの診断を受けておられる患者さんは、普段から解熱鎮痛薬の使用に際しては十分な注意が必要です。前もって解熱鎮痛薬を使っていいかどうかを主治医や専門医に確認しておきましょう。
- 解熱鎮痛薬による過敏症状としては、ぜんそく発作や鼻炎症状だけでなく、腹痛、下痢、嘔吐、顔から首にかけての紅潮や眼結膜の充血を認めることがあります。
頻度は大人のぜんそくの約1割です
- 大人のぜんそく患者さんの5−10%が解熱鎮痛薬に過敏とされています。逆に喘息がない方には通常おこりません。
- 20歳以降になってぜんそくが発症した患者さんの10%以上が、解熱鎮痛薬に過敏な体質があります。
- 特に発作や入退院を繰り返す重症のぜんそく患者さんの30%以上にこの解熱鎮痛薬過敏体質を認めます。
- 10歳以下の喘息のお子さんにはまれです。
- 遺伝的発症(家族内での発症)はほとんどありません。
鼻茸がある方やにおいが低下した患者さんは要注意です
- 大人になって発症した喘息の方で、発作をよく起こす重症のぜんそく患者さんに認めやすい体質です。
- 原則的にぜんそくのない患者さんにはおきません。
- 鼻茸(はなたけ、鼻ポリープ)、副鼻腔炎(蓄膿症)の既往や治療歴、手術歴のある患者さんに多いことがわかってます。
- におい(嗅覚)が低下している患者さんに多いこともわかってます。
- 以前、香水のにおいや歯磨きで息苦しさを感じたことのあるぜんそく患者さんにおきやすいことも知られています。
強い解熱鎮痛薬ほど副作用がおきやすいことが知られています。
- 残念ながらその機序は不明です。
- 解熱鎮痛効果の強い薬剤ほど、ぜんそく発作を誘発しやすいことが判明しています。
- ピリンアレルギーやアスピリンアレルギーなどと異なり、系列の異なる(化学構造式の似ていない)いろいろな種類の解熱鎮痛薬や非ピリン系の薬剤でも副作用がおきます。
- 過去に安全に使用できても、ぜんそくや鼻茸の症状がでた頃から、解熱鎮痛薬に過敏な体質に変化することがわかっています。
- その体質は、残念ながら一生続きます。
その診断は?
- 血液検査や皮膚テストなどの通常のアレルギー学的検査では診断できません。
- 過去に副作用歴があり、問診で疑われる方は約半数です。のこりの方は、解熱鎮痛薬を使用した機会がなく、潜在的過敏例とされるため、過去に副作用歴がなくても、油断できません。
- 確実に診断するには、専門施設における負荷試験しかありません。ただし、ごく一部の専門施設のみこの負荷試験が可能です。
解熱鎮痛薬(NSAIDs)による蕁麻疹/血管浮腫とは
解熱鎮痛薬を使用後、数分から半日して、地図上に盛り上がったかゆみをともなう蕁麻疹、もしくは唇や眼瞼(まぶた)、顔面が膨らんでしまう(血管浮腫と呼びます)副作用があった場合、解熱鎮痛薬による蕁麻疹/血管浮腫の可能性があります。蕁麻疹/血管浮腫の原因はさまざまですが、薬が原因となる場合があり、なかでも解熱鎮痛薬によるものが多いことが知られています。慢性蕁麻疹の患者さんの20-35%は、解熱鎮痛薬で悪化するとされていますが、普段まったく症状がなくて、解熱鎮痛薬を使用した時だけ蕁麻疹 /血管浮腫が出る場合もあります。一般には、効果の強い解熱鎮痛薬ほど、このような副作用がおきすいことが知られています。皮膚の副作用だけでなく、のどが狭くなったり、息苦しさ、咳、腹痛、アナフィラキシー症状(血圧低下など)などもでることがあり、以前、解熱鎮痛薬で蕁麻疹/血管浮腫の既往がある方は、十分注意する必要があります。また、以前に湿布薬(解熱鎮痛薬を通常含んでいます)で、かぶれたことのある患者さんは、同じ種類の解熱鎮痛薬の飲み薬や坐薬でも副作用が出る可能性があります。この副作用は機序が異なりますが、医療機関を受診の際は、そのことを伝えましょう。また専門医に前もって相談することをお勧めします。