受診を検討している患者様へ

「長い距離を歩くとふくらはぎが突っ張る・痛む」「何もしなくても足が痛い」「足先の傷がいつまでも治らない」などの症状はありませんか?足と言えば整形外科というイメージが強いですが、実は足の血管が原因でこうした症状が出ることが知られており、循環器科での検査・治療が必要になります。

末梢動脈疾患、下肢閉塞性動脈硬化症

名前の通り主に足の動脈に動脈硬化が起こり、血管内にゴミ(プラーク)が溜まり血液の通り道が狭くなったり詰まったりして足を流れる血液が不足することによって痛みやしびれが出てくる病気です。症状が重くなれば、足を切断しなければならない場合もあるため放ってはおけません。

どんな人に多いの?

起こりやすい人として、喫煙者、糖尿病・高血圧症・高脂血症の患者様、慢性腎不全(特に透析)の患者様などです。特に糖尿病の患者様はそうでない患者様に比べ重症化しやすく治療のため足を切断する下肢切断率は5倍もアップすると報告されています。ですから、禁煙や上記危険因子の予防・治療は、末梢動脈疾患の予防・治療の面からも重要で、積極的に行われるべきです。

どんな症状が出るの?

長い距離を歩くことで、下肢(股関節から足首まで:特にふくらはぎ)に疲れ、だるさ、痛み、こむら返りなどの症状が起こり、歩けなくなります。ただし、歩くのを止めると症状が軽くなったり無くなることが特徴的です。しかし、再び歩き出すと症状も再び起こります。この症状を「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」といいます。
間欠性跛行は重症になればなるほど、歩き始めてから症状が出るまでの距離が短くなります。例えば初めは500mの歩行で痛みが出ていた人も、病気が進行すると300m、100mで痛みが出るようになっていきます。
もっと進行すればじっとしているのに足が痛いといった症状や、足の血液不足のために足の傷が治らない、足に潰瘍ができるなどの症状が出ます。この状態を「重症虚血肢(じゅうしょうきょけつし)」と言い、一刻も早く適切な治療を受けなければ、足の切断や、場合によっては命の危険にも及ぶ状態です。

どんな検査があるの?

上記の症状が認められればお医者さんへ。必要に応じて以下の検査が行われます。

  • 足関節上腕血圧比(ABI :Ankle-Brachial pressure Index)
    ABIは、足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った値で、この値が低い場合、心臓と足関節との間の動脈が狭くなっているか、または閉塞性動脈硬化症が起きている可能性が高いことを示します。
    ABIが1.0以上の場合は正常ですが、0.9以下であれば、足の動脈に病変があると断定できます。この数値が低いほど重症です。ただし、糖尿病や慢性腎不全(特に透析患者様)では、ABIが1.0以上であっても必ずしも正常だとはいえませんので、注意が必要です。
  • 下肢動脈エコー検査
    超音波をあてて調べる関係で、体に負担を与えません。血管エコー検査は、検査中すぐに下肢全体を描き出すことができ、カラードプラ法などを併用することで、詳細に血管病変をとらえることができるのが利点です。
  • 造影CT検査、下肢動脈造影検査
    造影CT検査では、点滴で造影剤を注入し高速で広範囲にわたり、判別能力の高い画像が得られるのが特徴で、外来で行える検査です。ただし、この検査は、ヨードおよびヨード造影剤アレルギーや慢性腎不全の患者様では造影剤使用量が多くなり重篤な合併症をもたらす可能性があるため基本的には禁忌です。
    そのためカテーテルで造影剤を血管内に直接注入し、エックス線をあてて動脈の形態を調べる下肢動脈造影検査は、造影剤使用量を極力減らすことができ、場合によっては二酸化炭素造影で代用し造影剤使用量を0にすることも可能です。確定診断に欠かせない大切な検査ですが、入院での検査となることが難点といえます。

どんな治療があるの?

検査で診断が確定したら次は治療です。
治療法も重症度に応じ異なります。以下でそれぞれの治療法について説明していきます。

  • 運動療法
    初期治療として、まず行われるのが運動療法です。血液不足の足への血流を増やす一方、血液中の酸素の利用効率を高めるのが狙いです。「運動」することは、高血圧症をはじめ脂質異常症、糖尿病などを管理するうえで、非常に効果的であるといわれています。身体的問題がない限り、積極的・定期的に運動を続け、運動を習慣化するように心がけましょう。
  • 禁煙
    これは治療を行う上での必須条件です。喫煙することで血管の収縮が起こりさらに症状が強くなるほか、血管はボロボロになり今後治療を行ったとしても再発するリスクが高くなります。
  • 薬物療法
    薬物療法は足へ向かう血流を増やして症状を改善する一方、心臓や脳の血流もよくすることを目的として、抗血小板薬や血管拡張薬が使われます。
    また、危険因子の治療として高血圧症・糖尿病・脂質異常症に対してもそれぞれの薬物治療を行うことで、足の血管の状態をこれ以上悪くならないようにすることが必要です。
  • 血行再建術(カテーテル治療、バイパス手術)
    血行をよくするのが血行再建術で、運動療法や薬物療法で十分な効果が得られなかった場合に行われます。カテーテル治療とバイパス手術とがあります。
    動脈が狭くなったり、詰まったりしたところにカテーテルを持っていき風船で物理的に広げたり場合によっては血管の中に金属の管(ステント)を留置したりして下肢の血流をよくするのがカテーテル治療です。バイパス手術に比べ体の負担は少なく入院期間も短く済みます。
    バイパス手術は、狭くなったり詰まったりした個所に、体のほかの部分から切り取った血管または人工血管を血液の通り道として取り付けることによって迂回路を作り、血流を確保する方法です。カテーテル治療に比べ、患者様の身体的負担は大きいですが、動脈の場所によって、この方法が有利な場合もあります。
    様々な点を考慮し、どちらの方法がよいかを決定します。

いかがでしたか?
上記のような足の症状で心当たりがありましたら、なるべく早く検査・治療を受けられることをお勧め致します。

医療関係者の方へ

平素より大阪南医療センター循環器科へのご支援を賜り誠にありがとうございます。
日本人の死因の20%以上を脳心血管疾患が占める現代におきましては、それだけ動脈硬化疾患が蔓延していることを意味しており、循環器科が対象とする疾患も心臓にとどまらず末梢動脈疾患にも範囲が広がってきております。その一方で治療の進歩も目覚ましいものがあり、かつては外科的バイパス術が主流だった治療が、デバイスと治療技術の進歩によりカテーテルによる血管内治療で治療を完結できる症例も増えつつあります。当科でもカテーテルによる末梢血管治療は年々増加傾向であり、その治療成績も治療後1年での一次開存率は実に90%となっており、全国の平均的な治療成績と比較しても遜色ない結果です。治療対象は下肢動脈がメインですが、適応があれば腎動脈や鎖骨下動脈の治療も行っています。

検査・治療について

受診日初日は問診、触診、ABIがメインとなります。
詳細な問診で間欠性跛行の跛行肢なのか、安静時疼痛・組織壊死の重症虚血肢なのかを判断します。重症虚血肢であれば受診当日に緊急入院となることもあり得ます。
また、脈の触診を行うことである程度の病変部の推定が可能です。
次回受診までの検査としては造影CT、下肢動脈エコー、MRAがあります。さらに病変部の詳細な情報を得ることで、最終的に侵襲的治療を行うかどうかの判断材料とします。
上記検査と並行して内科的治療を行います。動脈硬化因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症)の徹底管理と禁煙は必須です。また抗血小板薬も比較的早期から導入し、内服で症状の改善が期待できるかを判断します。上記治療を数ヶ月続けても症状の改善を認めない場合は、末梢血管治療やバイパス手術などの血行再建術を考慮することとなります。

入院治療について

カテーテルでの末梢血管治療を行う場合は入院の上で治療を行います。
アプローチ部位が上腕動脈の場合は2泊3日、大腿動脈の場合は3泊4日が一般的な入院期間となります。

1日目:採血などの事前検査、病状・治療内容の説明

2日目:末梢血管治療、治療結果説明

3日目:治療翌日採血、ABI測定、退院(上腕動脈アプローチ)

4日目:退院(大腿動脈アプローチ)

また、当科で治療を受けた約40%の患者様が慢性腎臓病であり、治療に伴う腎機能低下が起こらないよう腎保護にも力を入れております。具体的には治療前日からの点滴での腎保護や、低濃度造影剤の使用や炭酸ガス造影を適宜使用し、腎機能の悪い方でも安心して治療を受けて頂けます。
重症虚血肢の場合、入院での集学的加療を行います。循環器科単独での治療で完結できないことも多く、その際は末梢血管治療のみにとらわれるのではなく、当院の心臓血管外科、整形外科、皮膚科などの他科との連携を行い、患者様1人1人にあった最善の治療策を議論します。また、医師のみにとどまらずナースや薬剤師、理学療法士とも連携し多職種での治療にあたることをモットーとしています。

最後に

末梢動脈疾患は放置すれば心血管死・心筋梗塞・脳梗塞・下肢切断といった重症の転帰をたどる思いのほか予後不良の疾患です。しかし、治療介入を行うことで、そのリスクは最小限に抑えることができ、早期発見・早期治療が重要な疾患でもあります。
「歩く距離が長くなれば下腿が痛くなる」「安静にしても足が痛い」「足の傷がいつまでも治らない」などの訴えのある患者様がいらっしゃいましたら、積極的に当科まで御紹介頂ければ幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。