京都医療センター

内分泌・代謝内科

甲状腺の病気について

甲状腺とは

「甲状腺」は首の真ん中、のど仏のすぐ下にあります。重さ15~20g、大きさが4~5cmほどの臓器です。 蝶々が羽を広げたような形をしていて、気管に張り付いています。女性の方が男性より大きく、高い位置にあります。 外からはほとんどわかりませんが、甲状腺の病気になると腫れてくるので、首の下が太くなったように見えてきます。 ホルモンの一種である「甲状腺ホルモン」をつくります。甲状腺ホルモンは、体の代謝や成長などを調節する作用があります。

ホルモンとは

人の血液中には多種類の「ホルモン」が流れています。 女性ホルモンや男性ホルモン、成長ホルモンのように○○ホルモンと呼ばれるものの他にも、アドレナリンやステロイド、インスリンもホルモンの一種で、現在では100種類以上のホルモンが知られています。
ホルモンというのは、「体内でつくられ、血液中に流れて、細胞や器官の活動を調節する、ごく微量な生理的化学物質」のことです。

甲状腺ホルモンとは

甲状腺ホルモンには、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)があります。
甲状腺ホルモンは、脳にある下垂体という臓器から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています。 甲状腺ホルモンが不足してくるとTSHが増加して甲状腺を刺激します。 逆に、甲状腺ホルモンが何らかの理由で増えすぎるとTSHの分泌は抑えられます。

甲状腺ホルモンとは

甲状腺ホルモンの働き

一言で言えば、からだの「新陳代謝」を調節しています。 脈拍数や体温、自律神経の働きを調節し、エネルギーの消費を一定に保っています。 子どもの成長や発達、大人の脳の働きを維持するためにも欠かせません。

甲状腺の腫れ

甲状腺の病気になると、多くの場合、甲状腺が腫れてきますが、その程度は様々です。 甲状腺全体が腫れるタイプとその一部がしこりのように腫れるタイプがあります。 鏡を見ながらつばを飲み込んだときに、のど仏の下でしこりが上下するのがわかるようになります。 最近では、健診で首の血管エコー検査を受けたときに、偶然、小さいしこりが見つかるケースが増えてきています。

甲状腺ホルモンの異常からくる症状

甲状腺の働きが低下して、血液中の甲状腺ホルモンが不足すると、様々な症状が出てきます。 これを「甲状腺機能低下症」といいます。元気がなくなり、疲れやすくなります。 寒がりになり、皮膚は乾燥してカサカサしてきます。 声も嗄れてきます。便秘がちで、顔がむくみ、体重が増えてきます。動作は遅く、物忘れが多くなり、一日中眠くなったりします。
一方、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になる場合は、「甲状腺機能亢進症、または、甲状腺中毒症」と呼ばれます。 暑がりで汗かきになります。脈が速くなり動悸がします。手や指が小刻みに震えます。食欲は旺盛なのに痩せてきます。 イライラし、気ばかりあせりますが、体は疲れやすく、ついて行けません。筋力が低下し、ひどいときには立てなくなったりします。

甲状腺中毒症
(甲状腺ホルモンが過剰)
  甲状腺機能低下症
(甲状腺ホルモンが不足)
ドキドキする 脈が遅い
暑がり 寒がり
汗が多い 皮膚がカサカサ
手足の震え 言葉や動作がのろい
イライラする 眠い、物忘れが多い
体重減少 体重増加
軟便 便秘
希少月経 過多月経
共通症状
だるい
疲れやすい
足がむくむ
髪の毛が抜ける

上記の甲状腺ホルモンの異常が疑われる自覚症状は、同時に全て揃うというものではなく、一つ一つの症状も甲状腺が腫れるということ以外は甲状腺に特有というものではありません。 そのため、他の病気と間違われていたり、原因がわからずに様々な診療科にかかっていたりします。 例えば、高いコレステロール値を下げることだけに目が向けられている場合があります。 かかりつけ医で甲状腺ホルモンを測ってもらえば、甲状腺の病気であるかどうかが簡単にわかるかもしれません。

甲状腺の検査

甲状腺の腫れや甲状腺ホルモンの異常が疑われると、検査で病気を探します。

●超音波検査(エコー)

腫れ方の様子やしこりの形状を観察します。 手軽に検査が可能です。腫瘍が疑われる場合には、注射器で細胞を少しとって調べます。 血液検査と同じ太さの注射針でチクッとする程度です。 もし、血がとまりにくい体質であったり、血液をサラサラにするお薬を飲まれていたりするときは、事前にお知らせください。

●血液検査

甲状腺ホルモンと、それを調節しているTSHというホルモンを測ります。 病気の原因となっている「甲状腺に対する抗体」の量も調べます。 甲状腺ホルモンの濃度に異常があると、コレステロールや肝臓の数値にも異常が現れます。 また、貧血になる場合がありますので、それら一般の血液検査もしておきます。

甲状腺の腫瘍

甲状腺の腫瘍は、ほとんどの場合良性ですが、まれに悪性のもの(がん)があります。 甲状腺がんとの診断をされた患者さんは強いショックを受けられるでしょう。 しかし、甲状腺がんの約90%が甲状腺乳頭がんであり、他の臓器のものとは異なり、比較的たちがよく、すぐに命を脅かすものではありません。
甲状腺がんの基本治療は手術です。その他のがんで使用する化学療法や放射線療法は一部の腫瘍以外には効果がありません。
他のがんと比較して予後がいいといっても、首には大切な血管、神経、気管、食道が存在します。また、甲状腺疾患には若い女性も多く、美容的な影響もあります。 当院では甲状腺疾患、および頸部手術に精通した耳鼻咽喉科・頭頸部外科と連携して診療しています。 手術できれいになおる場合がほとんどです。
良性の場合は、もちろん手術の必要はありません。

甲状腺機能低下症

甲状腺の働きが悪くなる病気の原因として一番多いのが慢性甲状腺炎です。 発見者の名前をとって、「橋本病」とも呼ばれます。大人の10人に一人がこの病気をもっていると言われています。 女性に多く、男性の2倍以上にみられます。甲状腺に対する抗体が出来ることが橋本病の原因とされています。 しかし、甲状腺機能低下症になるのは、橋本病のうちでも、さらに10人にひとりくらいです。
甲状腺機能低下症の他の原因として、甲状腺の手術をしたあとや、脳下垂体の病気、ある種の薬の副作用のために起こることがあります。 特に、ヨード系うがい薬や一部の健康食品(根昆布のエキスなど)を常用すると、大量に含まれている「ヨウ素」によって甲状腺の働きが抑えられ、機能低下症になることがあります。 この場合は、それを止めれば治ります。
持続する低下症の方には、甲状腺ホルモン薬を補います。 もともと体内でつくられているホルモンを補うだけなので、飲み過ぎたりしなければ副作用はありません。 

慢性甲状腺炎(橋本病)

甲状腺中毒症

甲状腺の働きが異常に亢進する病気に「バセドウ病」があります。これも発見者の名前で呼ばれています。 バセドウ病も女性に多く、男性の約5倍、200人にひとりくらいの割合です。甲状腺を刺激するタイプの抗体が出来ることが原因です。 バセドウ病では上に述べた甲状腺中毒症の症状の他に、一部の方ですが、まぶたが腫れたり、ものが二重に見えたり、目の奥が痛むといった目の症状が現れることがあります。 バセドウ病の治療法は確立されていて、日本では薬を使うことが多いですが、海外では放射線(アイソトープ)治療もよく行われます。どちらの治療法にも長所、短所があります。 薬で副作用が出た場合や、妊娠を控えていてアイソトープが使えない場合は、手術で腫れた甲状腺を小さくする方法がとられます。
甲状腺中毒症の他の原因として、バセドウ病の次に多いのが甲状腺の炎症によるものです。これには、甲状腺に痛みを伴うタイプと伴わないタイプがあります。 いずれも、甲状腺が壊れて、蓄えられていたホルモンが一時的に血液中に漏れだすものなので、炎症が治まれば自然によくなります。 痛みや熱がある場合は、ステロイド薬を使います。炎症が治まった後は、逆に、一時低下症になることもあります。 

バセドウ病

甲状腺の病気と妊娠

甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン薬を飲んで、甲状腺ホルモンの血液濃度を正常に保っていれば、正常に妊娠し出産できます。 バセドウ病でも薬で甲状腺ホルモンの血液濃度が正常であれば、妊娠・出産に支障はありません。 逆に、赤ちゃんへの薬の影響をおそれて、お母さんが薬を飲まなくなると、バセドウ病が悪化し、流産や早産につながります。 薬を飲みながらの授乳も可能です。ふだん甲状腺の病気がない方でも、胎盤ホルモンの影響で妊娠初期に甲状腺ホルモンが過剰になったり、出産後に甲状腺炎を起こして甲状腺中毒症になったりすることがありますが、これらは自然に治まります。

バセドウ病

(バセドー病・バセドウ氏病・バセドー氏病・グレイブス病・グレーブス病・グレイヴス病・グレーヴス氏病)

甲状腺機能亢進症、すなわち、甲状腺ホルモンが過剰になる病気のひとつです。原因は不明です。血縁者に出やすいので、体質といえるかもしれません。本来出来ないはずの甲状腺に対する抗体が出現して、甲状腺を刺激し、甲状腺が腫れてきます。

●症状は

動悸(ドキドキ)、手のふるえ、汗かき、倦怠感などの症状があらわれます。食欲があるのに体重が減ってきます。人によっては目が出てくることがあります。

バセドウ病

●治療は
  • 1.薬剤治療

    通常は、抗甲状腺剤(メルカゾール(R)やチウラジール(R)=プロパジール(R))で治療を始めます。 抗甲状腺薬は歴史の古い薬で、その効果が知り尽くされている反面、最近の新薬と比較すると副作用は多い部類にはいります。 主な副作用としては、かゆみ(かゆみ止めを併用します)、肝障害、まれに白血球減少があらわれることがあります。 多くの場合、副作用はお薬の開始初期にあらわれますので、最初の3ヶ月間は2週間おきに副作用のチェックのための血液検査を行います。 万一、服用中に高熱が出たら、お薬をやめて医療機関を受診し、白血球の検査を受けて下さい。

    お薬は、最初多め(1日3錠~6錠)から始めて、徐々に減らしていきます。 甲状腺機能が落ち着いても、やめれば元に戻りますので、勝手にやめないことが大切です。 再燃すれば、一から治療を再開しますが、再開時の方が、副作用がでやすいともいわれています。 このようにして、通常は、2~3年でお薬をやめてみますが、中にはやめると悪くなるために10年以上(副作用なく)お薬を続けている方もおられます。 お薬は、妊娠中・出産後(授乳)も安全であり、むしろ、お薬を勝手にやめて甲状腺機能亢進症のまま妊娠・出産する方が危険です。
    ただし、妊娠・出産により、甲状腺機能はしばしば変動しますので、甲状腺専門医による治療をお勧めします。

  • 2.手術療法

    甲状腺内に腫瘍が合併している時には、最初から手術療法を行うこともあります。手術の前にお薬で甲状腺機能を落ち着かせておく必要があります。

  • 3.アイソトープ治療(放射性ヨード内用療法・甲状腺I-131内用療法)

    バセドウ病には薬物療法、手術療法とアイソトープ治療があります。 バセドウ病の患者さんは、希望すれば、アイソトープ治療を受けられます。特に、次のような方に適しています。

    1. 抗甲状腺薬(メルカゾール(R)やチウラジール(R)=プロパジール(R))で副作用が出現したとき
    2. 抗甲状腺薬で十分コントロールが出来ないとき
    3. 抗甲状腺薬の中止後に再発したとき
    4. バセドウ病の手術後に再発したとき
    5. 甲状腺腫を小さくしたいとき
    6. 心臓病や肝臓病など慢性疾患を持っているとき
    アイソトープ治療が受けられない人
    1. 妊婦または現在妊娠の可能性がある女性
    2. 近い将来(4ヶ月以内)妊娠する可能性がある女性
    3. 授乳婦
    4. 18歳未満の方(例外もあります)
  • ●副作用

    まれですが、アイソトープ服用後に一時的に眼症状が悪化することがあります。 そのため、眼症のある方では予防的にステロイド剤を服用することがあります。 また、副作用とは言えませんが、アイソトープ治療後に甲状腺機能低下症になることがあります。 アイソトープの投与量は患者さんの病状を計算して決めますが、アイソトープの作用には個人差があるため、バセドウ病を確実に治すためには、アイソトープの量を多くする必要があります。 そうすると、将来機能低下症になる可能性が高くなります。しかし、甲状腺ホルモン剤さえのめば、全く問題はありません。 甲状腺ホルモン剤は体の中の甲状腺ホルモンと同じものですから、基本的には適正な量をのんでいる限り副作用はありませんし、1年以上経過すれば検査の頻度も年に1回くらいになります。

慢性甲状腺炎(橋本病)

甲状腺に慢性の炎症が起こり、甲状腺が腫れてくる良性の病気です。
進行すると甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが足りない状態)になることがあり、むくみ、寒がり、便秘、物忘れなどの症状が出てきます。
病気自体は治りませんが、甲状腺ホルモン剤を服用し、足りない甲状腺ホルモンを補えば問題ありません。甲状腺ホルモン剤は体の中の甲状腺ホルモンと同じものですから、適正な量をのんでいる限り副作用はありません。
ヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの原料ですが、摂とりすぎると、甲状腺ホルモンは作られなくなりまので、ヨウ素を大量に含む昆布(コンブ)の摂取は控えめにしましょう。

無痛性甲状腺炎

痛みのない炎症が甲状腺に起こり、甲状腺細胞の破壊によって恒常性ホルモンが血液中にどっと流れ出し、甲状腺ホルモン過剰状態になることを言います。 バセドウ病のような甲状腺機能亢進症に似た症状があらわれます。動悸(ドキドキ)、手のふるえ、汗かき、倦怠感などです。 しかし、バセドウ病と違って、炎症は短期間(通常1ヶ月くらい)で治まりますので、動悸を抑える薬をのんだりして炎症が落ち着くのを待ちます。 甲状腺ホルモン過剰状態のあとは、今度は、一時的に甲状腺ホルモン欠乏状態になります。 その後、徐々に甲状腺機能は回復し、通常半年以内にもとにもどります。
おもに、慢性甲状腺炎(橋本病)や治療後のバセドウ病の方に起こります。 特に、出産後によく起こるので産後甲状腺炎とも呼ばれます。、橋本病の方は、産後3ヶ月くらいに、一度甲状腺ホルモン検査を受けてください。

亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎では、発熱と前頚部の痛みに加えて、動悸(ドキドキ)、手のふるえ、汗かき、倦怠感などの甲状腺ホルモン過剰症状を伴います。 甲状腺のウイルス感染が原因と言われています。炎症は長引くこともあり、痛みや発熱症状が強い場合は、ステロイドホルモン剤をのむとよくなります。