山本彩 山口日出彦 原井宏明
国立療養所菊池病院
【目的】
摂食障害の発症や持続に影響する要因を知るためにはコホートスタディを行う必要がある.欧米ではこうした研究がいくつか存在するが,日本では我々の知る限りまだ報告されていない.
そこで本研究では,多数例の一般の高校生を対象に追跡調査を行い,1年後の摂食状況に影響する心理社会的な要因について調べることを目的とする.
【方法】
時期:第1回調査が平成12年9月に,第2回調査が平成13年9月におこなわれた.
対象:A県郊外にある5つの高校の全生徒が対象であった.第1回調査と第2回調査の両方を回答した2,320人のうち回答の不備を除いた1,085人(男子553人,女子532人)を分析の対象とした.
調査方法:自己記入式のスクリーニングテストをもちいた.@摂食障害Eating
Attitudes Test-26(Garnaer, 1982:以下EAT-26)を用いた.翻訳は末松ら(1986)が行ったものを用いた.20点以上の場合を摂食障害陽性とみなした(中井,
1996).A抑うつDepression Self-Rating Scale for Children(Birleson, 1999:以下DSRSC)を用いた.翻訳は村田(1999)が行ったものを用いた.B物質乱用・依存CRAFFT(Knight
et al, 1999)を用いた.原著者の許可を得て我々が翻訳を行った.C身長 D体重 E喫煙「経験ない」「経験があるが今は吸っていない」「週1回吸う」「週3回以上吸う」の4件法で回答させた.Fダイエット経験の有無「体重を減らすためにダイエットなどの努力をしたことがない」「〜ある」の2件法で回答させた.Gスポーツ「現在運動部の部活動や地域のスポーツクラブでスポーツをしていない」「〜している」の2件法で回答させた.
【結果】
1)基本統計量:第1回時における各変数の平均値および出現頻度を男女別に示したのがTable1である.平均値についてはt検定を,出現頻度についてはχ2乗を用いて男女間で比較した.その結果,喫煙(χ2=109.46,
p<.05),ダイエット(χ2=185.03, p<.05),スポーツ(χ2=109.09, p<.05)の回答頻度において男女の差による影響が見られた.EAT(t=1.71,
p<.10)ではその傾向が見られた.
Table1 男女別第1回時における変数の平均値および出現頻度
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男子(N=553) |
女子(N=532) |
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EAT-26 |
7.33±7.37 |
6.63±6.28 |
t=1.71+ |
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DSRSC |
12.92±5.62 |
12.47±5.47 |
t=1.35 |
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CRAFFT |
.48±.87 |
.44±.92 |
t=.69 |
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BMI |
20.82±3.20 |
20.63±2.75 |
t=1.02 |
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喫煙 |
なし |
267 |
410 |
χ2=109.46** |
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以前 |
193 |
99 |
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週1 |
15 |
9 |
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週3以上 |
78 |
14 |
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ダイエットあり |
94 |
302 |
χ2=185.03** |
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スポーツしている |
339 |
158 |
χ2=109.09** |
+p<.10 **p<.01
2)第2回時における各変数の平均値および出現頻度を1)同様男女別に示したのがTable2である.BMI(t=2.08, p<.05),喫煙(χ2=100.98, p<.05),ダイエット(χ2=186.25, p<.05),スポーツ(χ2=71.99, p<.05)の回答において男女の差による影響が見られた.
Table2 男女別第2回時における変数の平均値および出現頻度
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男子(N=553) |
女子(N=532) |
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EAT-26 |
6.81±6.91 |
6.76±7.06 |
t= .13 |
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DSRSC |
12.93±5.92 |
12.47±5.47 |
t=1.00 |
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CRAFFT |
21.95±3.16 |
.55±1.10 |
t= .69 |
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BMI |
20.82±3.20 |
20.82±2.78 |
t=2.08* |
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喫煙 |
なし |
242 |
380 |
χ2=100.98** |
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以前 |
187 |
103 |
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週1 |
13 |
16 |
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週3以上 |
111 |
33 |
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ダイエットあり |
95 |
304 |
χ2=186.25** |
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スポーツしている |
268 |
126 |
χ2= 71.99** |
男子(N=553) 女子(N=532)
*p<.05 **p<.01
3)EAT-26陽性率:第1回時のEAT-26陽性率は全体の5.90%(男子5.97%,女子5.83%),第2回時のそれは6.73%(男子6.51%,女子6.95%)であった.また第1回時,第2回時にそれぞれ陽性であったかどうかによって対象者を4グループに分類した(Table3).それぞれのグループの割合は回復群が2.94%(男子3.07%,女子2.82%),持続群が2.95%(男子2.89%,女子3.01%),発症群が3.78%(男子3.62%,女子3.95%),健常群が90.32%(男子90.42%,女子90.23%)であった.
Table 3 EAT-26得点によるグループ分類方法
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2年目 |
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20点以上 |
20点未満 |
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1年目 |
20点以上 |
持続群 |
回復群 |
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20点未満 |
発症群 |
健常群 |
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4)EAT-26陽性が1年後にも陽性で持続することに影響する要因の検討−回復群と持続群の比較−:第1回時にEAT-26が陽性だった群が1年後に回復群となるか持続群となるかに影響する要因を検討する目的で,Table3のカテゴリーを従属変数とし,第1回時のEAT-26,DSRSC,CRAFFT,BMI,喫煙,ダイエット,スポーツを独立変数とした強制投入法によるロジスティック回帰分析を男女別に行った.その結果,男子においては影響を及ぼすと考えられる要因はなかった.女子においてはダイエットをしているほど陽性が持続する傾向があった(OR(95%Cl)=7.53(0.78-72.87),
p<.10:Table4).
Table4 回復群か持続群かを従属変数としてロジスティック回帰分析をしたときの
各変数のodds ratios(95%Cl)
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男子 |
女子 |
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EAT-26 1.13(0.97-1.32) DSRSC
.92(0.78-1.09) CRAFFT
.42(0.04-4.4.20) BMI
.99(0.72-1.36) 喫煙
.70(0..22-2.23) ダイエット 2.34(0.08-66.30) スポーツ .31(0.05-1.90) |
.83(0.63-1.10) 1.13(0.98-1.31) .69(0.19-2.51) 1.05(0.71-1.54) .45(0.13-1.55) 7.53(0.78-72.87)+ 1.77(0.22-14.03) |
+p<.10
5)EAT-26陰性が1年後にも陰性で持続することに影響する要因の検討−発症群と健常群の比較−:第1回時にEAT-26が陰性だった群が1年後に発症群となるか健常群となるかに影響する要因を検討する目的で,4)同様,Table3のカテゴリーを従属変数とし,第1回時の各変数を独立変数とした強制投入法によるロジスティック回帰分析を男女別に行った.その結果,男女ともにEAT-26が低いほど陰性持続に影響を及ぼしていた(OR(95%Cl)=0.72(0.94-0.82), p<.01:OR(95%Cl)=0.82(0.75-0.89), p<.01:Table5).
Table5 発症群か健常群かを従属変数としてロジスティック回帰分析をしたときの
各変数のodds ratios(95%Cl)
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男子 |
女子 |
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EAT-26 .72(0.64-
0.82)** DSRSC
1.00(0.92-1.08) CRAFFT
1.07(0.57-2.00) BMI
1.14(0.94-1.39) 喫煙
.77(0.47-1.25) ダイエット 1.54(0.37-6.32) スポーツ 1.60(0.59-4.35) |
.82(0.75-0.89)** .97(0.90-1.06) .81(0.51-1.30) 1.02(0.86-1.20) .77(0.38-1.58) 1.92(0.73-.5.09) .74(0.26-2.09) |
**p<.01
【考察】
EAT-26が20点以上で陽性であった割合は男女とも,第1回,第2回それぞれ全体の6~7%ほどであった.我が国におけるEAT-20を用いた先行研究(Matsumoto
et al, 1999)では女生徒における陽性率は4.1%であった.本調査結果の方が若干高い割合になっているもののほぼ同様の結果であったと言える.諸外国においては我々の調査と同様EAT-26を用いておよそ1年後にretestをおこなった前向きコホート研究が見られる(Wlodarczyk-Bisaga
and B.Dolan,1996; Patton et al., 1999).それらにおいては陽性率は全体の10%ほどであり,そのおよそ半数が1年目と2年目で入れ替わっていた.比較すると本調査結果の方が陽性率の割合自体は若干低くなっているものの推移の仕方自体は同様であり興味深い.EAT-26陽性が1年後にも陽性で持続することに影響する要因としては,女子においてダイエット歴がその傾向にあった.今後clinical群への移行に影響する要因の検討が望まれる.EAT-26陰性が1年後にも陰性で持続することに影響する要因としては,男女ともに第1回時のEAT-26が低いことが陰性持続に影響を及ぼしていた.カットオフポイントをこえないまでもEAT-26が高めである場合には1年後も注意が必要ということであり,EAT-26のスクリーニングテストとしての有用性が今後も期待される.
【文献】
GC Patton, R Selzer, C
Coffey, J B Cadin, R Wolfe:Onset of adolescent eating disorder:population based
cohort study over 3 years, BMI, 318, p765-8.1999.
Matsumoto S., Kumano H. &
SAKANO H.:Investigation social influence on eating disorder tendencies and
dieting behavior among female students:Jap. J.; Behav. Ther., 25(2), p11-23、1999.
Wlodarczyk-Bisaga and
B.Dolan:A two-stage epidemiological study of abnormal eating atitudes and their
pospective risk factions in Polish schoolgirls, Psychol Med26(5),p1021-121,
1996.