胸腺腫瘍

胸腺腫瘍とは

胸腺腫瘍は稀な腫瘍で、100万にあたり1.5人くらいの発生頻度です。
しかしながら、左右の肺を隔てる胸のスペースを縦隔と言いますが、この縦隔にできる腫瘍の中では最も一般的です。
胸腺腫瘍には、胸腺腫と胸腺癌があり、胸腺腫は40~70歳に多く、胸腺癌は幅広い年齢で生じます。
胸腺癌は胸腺腫よりも発生頻度が少なく、より浸潤性が強く転移しやすいことが特徴です

 

症状・合併症

胸腺腫瘍は無症状で偶然検診や他疾患の経過観察中に発見されることも多いですが、胸痛、咳嗽、腫瘍による胸部圧迫症状などがみられる場合もあります。
また、胸腺腫の30~50%が重症筋無力症(手足を動かすと筋肉がすぐに疲れて、力が入らなくなる病気です)を合併します。
しかし、胸腺癌では重症筋無力症を認めることは非常に珍しいです。

 

診断

診断には、胸部造影CT、MRIが有用です。また、胸腔外転移の検索としてPET-CTは有用なことが多いです。造影CTやMRIでは、低リスク群の胸腺腫では辺縁平滑で境界明瞭な円形腫瘤を呈することが多く、造影効果は均一であることが特徴です。悪性度が高くなるにつれ辺縁が不整、分葉状となり、不均一に造影されます。また、腫瘍内部の嚢胞変性、壊死、出血は高リスク群の胸腺腫、胸腺癌を示唆します。胸腺腫では遠隔転移や胸水貯留、大血管への浸潤は珍しく、それらがある場合は胸腺癌を疑います。しかし、胸膜播種(胸膜への転移)は胸腺腫でも認めることがあります。
また、診断に当たり、病気の広がりを見て治療方針を決定しますが、これを病期分類と言います。病期分類としては正岡分類という方法が最も広く使用されています。この分類では、浸潤の程度・転移の有無で病期が決定されています。

*正岡の病期分類

Ⅰ期 肉眼的にかつ顕微鏡的に完全に被包されている
Ⅱ期 被膜を超えて浸潤する
Ⅲ期 肉眼的に周辺臓器(心嚢、大血管、肺)に浸潤する
Ⅳ期 胸膜・心膜への播種、リンパ行性・血行性転移を認める

☆ 病理診断(実際の腫瘍組織での診断)について

胸腺腫の分類は、悪性度や組織形態によりA型~C型まで分類され、C型は胸腺癌に相当します。
治療成績の違いからType A、AB、B1は低リスク群と呼ばれています。
一方で、TypeB2、B3は高リスク群と呼ばれており、治療成績が低リスク群より劣ります。また、胸腺癌(Type C)ではさらに悪性度が高くなります。

*WHO分類

WHO Type 上皮細胞 リンパ球 悪性度
Type A 紡錘形
Type B 紡錘形+多角形 やや多  
Type B1 多角形  
Type B2 多角形 やや多  
Type B3 多角形  
Type C
(胸腺癌)
扁平上皮癌、
未分化癌が多い

 

治療について

1)治療の方針の基本

臨床的・画像的に胸腺腫が強く疑われるばあい、腫瘍が大きくなる傾向にある場合や多臓器への浸潤傾向がある場合は、外科的切除(手術)が第一選択となります。
切除可能例については全例に手術が推奨され、完全に切除されることが治癒する上で一番重要です。
また病期の進行と切除の根治性によって、手術後に放射線療法が推奨されることがあります。
また、胸腺癌では手術後に抗がん剤治療も推奨されています。
胸腔外に転移がある場合や完全切除が不可能な例では抗がん剤治療を行います。

 

2)放射線療法

●Ⅰ期胸腺腫の完全切除例には術後補助療法は推奨されず、Ⅱ期胸腺腫に対しては術後の放射線治療の有用性を否定するデータあり、放射線治療は推奨されません。

●Ⅲ期の胸腺腫や完全切除が達成されなかった場合は術後放射線治療が推奨されます


3)化学療法

●切除することができない進行している胸腺腫瘍に対しては抗がん剤治療が考慮されます。稀な疾患であるため、この疾患に対する決まった治療法というのは確立されておりません。当院では放射線療法と併用可能なシスプラチンとエトポシドを併用した治療を施行することが多いです。
この治療法では、放射線療法と併用することでより良い効果を期待できます。

●胸腺癌では、70%くらいが組織型が扁平上皮癌とされ、手術できない場合に、抗がん薬が使用されますが、この場合はカルボプラチン+パクリタキセル療法で治療されることが多いです。また、最近レンビバというマルチターゲット分子標的薬が承認され、使用され右葉になっております。