じん肺

じん肺症とは

人間が呼吸する空気の中には、色々な粒子が含まれています。
インフルエンザウイルス・ 結核菌などの病原体、花粉症・ 喘息・ 過敏性肺炎などを引き起こす抗原となる動植物由来の粒子、肺気腫や肺がんの原因となる煙草由来の粒子、そして岩石など鉱物由来の粒子は肺の繊維化の原因となりますが、その繊維化した肺を「じん(塵)肺」と呼び、病気の名は「じん肺症」です。
花粉、木綿や動物の毛、木材の破片など生物由来の粒子は有機粉塵、鉱物由来の粒子は無機粉塵と分類されますが、呼吸することによって空気と一緒に肺に入った有機粉塵は大食細胞(マクロファージ)に取り込まれ消化されて最終的に体外に排泄されます。
一方、無機粉塵は人体が消化できませんから、粒子のまま生涯にわたり肺内に残存し、肺組織を傷つけて繊維化と二次的な気腫化すなわち「じん肺」を発病させます。
地球上に生活している者は皆、程度の差はあれ何らかの無機粉塵に曝露しているのですが、「じん肺」を発病させるほどの大量の吸入は主に職業性曝露によるものです
すなわち、一定の限度を越えた大量の無機粉塵を年単位で表されるほどの期間、吸入しつづけることによって「じん肺」が発生します。
大量曝露ではあるが時間単位あるいは日数単位の期間程度の吸入、また年単位の曝露期間であっても非職業性(職業性以下の軽い)曝露では「じん肺症」が発病することはほとんどなく、あっても非常に稀なことだと考えられます。
曝露し吸入する鉱物の種類によって、肺に繊維化をもたらし易い鉱物とそうではない物とがあり、生体を構成する成分でもある「鉄」や「炭素」が主成分である粉塵の曝露ではじん肺が発生し難く、繊維化の程度も軽い。職業としては「溶接工」や「炭焼き」「墨製造工」などです。
花こう岩の主成分である石英すなわち「珪酸塩(シリカ)」が主成分である粉塵を吸入しつづけると「じん肺(珪肺)」が発生し易く、その程度も強いと言われています。
職業としては「石材業・ 石工」や日本の「炭坑夫」です。
日本の炭鉱の炭層は薄く、掘削夫は石炭を掘る以上に炭層周囲の岩石を掘っているため「炭坑夫肺」は石工のじん肺すなわち「珪肺」に似ています。
大陸の無煙炭坑の炭層は厚く、また露天掘りであることがしばしばであることから、彼地の炭坑夫のじん肺は「炭素肺」でありわが国の「炭坑夫肺」とは似て非なるじん肺であると言えます。
「珪酸塩」を主成分とする鉱物には繊維状のものがあり、総称して「石綿(アスベスト)」と呼びます。
主成分以外の含有物である鉄分やアルミニウム、コバルトなどの量により「白」「青」「茶」石綿などの種類に分けられますが、総じて粒状の粉塵よりも肺の繊維化を生じ易く、主としてアスベストの曝露が主原因のじん肺を「石綿肺」と呼びます。
肋膜の繊維化や呼吸器系の悪性腫瘍(肺がん・ 肋膜中皮腫)を発生させることもあり、職業としては「石綿紡績工」「電気工事や配管の作業者」「ヒューム管やスレート板の製造作業者」「造船業とくにボイラ-室など船内作業者」「建築工事特に壁面の石綿吹き付け、古い建物解体などの作業者」「鉄道車両や自動車修理工」などが挙げられます。
今まで「じん肺」の発生が報告されている、著しい粉塵曝露が存在した(する)職種は厚生労働省から分類され一覧表となって誰でも閲覧できます。

 

症状

初期は無症状ですが、やがて咳、痰が出現し、進行すると息切れが生じます。

 

診断

職歴に加え、胸部レントゲン、胸部CT検査結果と合わせ診断します。
じん肺の中で代表的なものは珪肺と石綿肺です。珪肺では上肺野を中心に粒状の陰影が散在し、一部は癒合して大きな陰影を作ることがあります。石綿肺では下肺野の背中側で肺の外側中心に網目状の陰影が特徴的です。肺を包む胸膜が厚くなること(胸膜プラーク)がみられることが多いです。

 

治療

「じん肺」の本態である肺の繊維化は、肺内に残存する粉塵由来の無機粒子に対する生体の防御反応であって、粒子が存在しつづけるかぎり、緩徐ではあっても慢性的に進行します。
この肺の繊維化の慢性進行を食止めることは未だ不可能です。
原因となる粉塵粒子を肺内から洗い出すことは、不可能でありますから、治療は姑息的かつ症状緩和に限られます。
咳止め・ 去痰剤・ 気管支拡張剤の常時服用、風邪および呼吸器急性感染症の予防と早期治療が主たる治療内容です。
感染の合併は、治癒寛解の後に、基礎的呼吸機能の低下を招くことが多いので、うがいの励行ならびにマスクの着用などが推奨されます。
感染が生じれば早期に受診し診断して、軽症の内に治療することが必要です。
「肺がん」の合併率は非じん肺例と比較して高いので、禁煙は絶対に必要です。

 

労災保険について

「じん肺」を発生する恐れのある職場を運営する経営者は、その場所の空気中の粉塵の量を基準値未満に下げる義務と、そこで働く従業員の特別健康診断を実施する義務があります。
また、雇用労働者の労災保険掛金を支払う義務もあります。
健康診断の結果でレントゲン写真に標準フイルム1型以上の所見が発見されれば、会社は所轄の労働基準局に届け出て、労働者の「じん肺管理区分」の決定を受けます。
区分は1から4まであり、レントゲン写真で1型以上の「じん肺」が確かに存在し、呼吸機能検査で著しい障害がなければ、管理2となりますが仕事の継続は許されます。
診療(治療)費補助は管理4のみ支給されます。
レントゲン所見と呼吸機能検査結果で、管理3となれば、非粉塵作業への異動を推奨(3-イ)もしくは勧告(3-ロ)されますが、いまだ就労は可能と判断されます。
レントゲン所見で塵肺の粒状陰影が融合した大きな陰影の存在が確かとなり、呼吸機能が著しく損なわれていると判断されれば管理4(就労を中止し、療養に専念すべし。労災保険で医療費は補助し、休業補償としての傷病手当金をも給付する)に認定されます。
なお、管理3(あるいは2)であっても、じん肺に高率に合併し、治療によって治り得る合併症(肺結核・ 結核性胸膜炎・ 続発性気胸・ 続発性気管支炎・ 気管支拡張症の、行政上の5合併症)が明らかに存在する場合には、治療の期間のみ管理4相当の労災保険適用(医療費補助・ 傷病手当金給付)があり得ます
なお、労災保険の適用を受けられるのは、被雇用者(労災保険を掛けられた側)のみであり、部下と同じ業務に就労していても自分には保険金を掛けていない事業主(例えば独り親方)は、雇用者側にあると判断され給付を受けることはできませんが、まれに御自身にも労災保険を掛けておられる社長さんがおり、従業員とともに労災診療を受けておられます。
石綿粉塵曝露が原因の胸膜中皮腫は労災認定されますがじん肺ではありません。
胸膜肥厚班だけで「石綿肺」のない方には毎年2回の検診だけですが無料となります。