
感染症研究部
部長 鈴木 克洋
最近の活動状況について
課題1. 抗酸菌検査の医療経済学的側面も含めた効率化の検討
目的
年々増加する新たな抗酸菌検査法の特徴を踏まえて、効率的かつ医療 経済的にも優れた抗酸菌検査のプロトコールを作成する。
方法
当院研究検査科との共同で従来より研究しているものである。抗酸菌 検査プロトコールの作成、実施、結果の解析、新たなよりよいプロトコールの 作成というサイクルをほぼ6-12ヶ月で履行している。
結果・成果・考案
培養は液体培地を中心に行い、塗抹陰性検体の核酸増幅 法は基本的に実施せず、経過観察には小川培地のみを用いるという基本方針で、 迅速性と効率性の両立を図っている。さらに主要薬剤の薬剤感受性検査は液体 培地で実施し、薬剤耐性が疑われた場合のみ小川培地による比率法を追加する 事で、多くの全剤感受性結核の早期退院に寄与し、かつ時に見られる薬剤耐性 結核の治療薬選択も容易になるように工夫した。また一部の菌株でRFPの薬剤 感受性検査結果と治療効果に差がある事に気づき、それらの菌のrpoB遺伝子の 変異の存在を証明した。
来年度の計画
液体培地(MGIT)による感受性結果と小川培地(ウエルパック) による感受性結果の解離を他施設との共同で検討中である。全国規模での薬剤 感受性検査の模範的な方法の開発を目指す。またRFPの感受性検査と治療効果 に差のある株の耐性遺伝子をさらに検討する。
課題2. 多剤耐性結核を含む結核の分子疫学的検討
目的
我々は多剤耐性結核菌による院内集団感染事例を報告した。この中には 通常の結核治療中の患者が二人いたことは、多剤耐性結核菌の一部に非常に感 染力の強い株が存在することを示唆している。従来多剤耐性結核は治療の失敗 で作られるといわれてきたが、再治療例の中にも再感染で多剤耐性結核菌に新たに感染して いる症例が少なからず存在する可能性が考えられる。
方法
当院に保存されている多剤耐性株と全剤感受性株に、IS1660プローブを 用いたRFLP法とスポリゴタイピング法による分子疫学的検討を実施し、両菌株 の感染様式の違いを考察した。
結果
両者のRFLP法によるクラスター形成率はほぼ40%弱と有意差はなかった。 また毒力、感染力が強く、また多剤耐性化しやすく、欧米で集団感染株として 有名なBeijing株の比率も約75%と差がなかった。
考察
多剤耐性結核菌と全剤感受性結核菌で、二つの分子疫学的指標に差がな かったことは、多剤耐性菌も通常の結核菌と同様に感染・蔓延している状況を 示唆している。今後の結核対策を考える上で重要な結果である。
来年度の計画
迅速性に優れかつデジタルデータで他施設の結果との比較が容 易な、VNTR法を用いてさらに検討する。特に近畿地区他施設さらに全国規模で の多剤耐性菌の比較を試みる。
課題3. 肺MAC症の成立機序と個別的治療法の検討
目的
中高年女性を中心に中葉・舌区の気管支拡張と小結節を特徴とする肺 MAC症の急増は近年内外で多数報告されている。一方結核類似型の一部に極め て予後の悪い肺MAC症が存在することが明らかとなった。肺MAC症の経過や予後 には極めて大きな差がある。これらの差を患者側と菌側の両側面から探求する。
方法
2002年6月以降入院し、抗酸菌データとして登録された症例の治療経過 や予後を決定する臨床マーカーを探求する。一方当院研究検査科に保存されて いるMAC株の主要薬剤のMICを測定するとともに、IS1245プローブを用いたRFLP をM. avium株に実施した。
結果と考案
治療効果が乏しく、予後の悪い肺MAC症菌株が特定のRFLPパター ンに多い予備的結果を得た。またそれらの菌の主要薬剤に対するMICは有意に 高かった。今後菌株から治療効果や予後を推測できる可能性が示唆された。
来年度の計画
さらに菌株を増加させ臨床経過との関連を詳細に検討する。ま た現在のところ不可能なM. intracellulareのRFLP法の開発を目指す。
課題4. 肺カンザシ症の分子疫学の開発と感染経路の解明
目的
当院は年間60例以上肺カンザシ症を経験する本邦随一の病院である。 以前より同症の地域集積性が指摘されており、何らかの感染ルートが存在する 可能性が高いと考えられてきた。そこで当院保存菌株に分子疫学を実施するこ とで、この可能性を検証する。
方法と結果と考案
現在最も有力と考えられているPFGE法を適応し、各種制限 酵素を用いて最もよい方法を現在模索中であるが、予備的結果ながら一部菌株 にクラスター形成を見いだしている。制限酵素の工夫、またRFLP法の応用等よ り簡便な方法も開発中である。
来年度の計画
PRA法でM. kansasiiは5群に分類され、臨床例のほとんどは第 1群に属すると最近報告された。さらに各種方法を用いて解像度の高い方法論 を開発し、カンサシの感染経路の解明を目指す。
各診療科、検査科との協力関係について
部長、感染症診断・ 治療研究室長、流動研究員は検査科細菌検査室と密接に提携し、既存の検査の 効率的運用、精度管理等を共同で研究し、抗酸菌検査のガイドラインを作成運 用し、検査科での無駄な医療費や労働力の削減が達成されている。 また重要 菌株の保存、大量培養・DNAの抽出・RFLP分析、非定型抗酸菌の薬剤感受性検査 等を共同で研究し、臨床に役立てている。
部長は病院の感染防止対策委員会副委員長として、院内感染対策マニュアル の全面的な改訂、臨床研究センターでのMRSA菌株の分子疫学的検討により、 感染対策に役立つ有益な知見を提供している。
感染症診断・治療研究室長は、多剤耐性結核病棟医長を兼任し、部長、生体 反応研究室長も各病棟医長を勤め、多剤耐性結核・非定型抗酸菌症・肺真菌 症を中心とした難治呼吸器感染症の臨床業務に精励している。 週に一度抗 酸菌症症例検討会を開催し、各科に入院中の結核・非定型抗酸菌症全体の診 療に責任を持って対処している。
また、心臓外科医長兼リハビリテーション科長は薬剤耐性研究室長を併任し ているが、多剤耐性結核等による慢性呼吸不全に伴う心不全の診断治療と、 抗酸菌症や肺がん治療後また慢性閉塞性肺疾患や塵肺にともなう慢性呼吸不 全のリハビリテーションに精励し、これらに関するデータを臨床研究センター で解析・評価し、その結果を外科・内科にフィードバックすることにより日 常の診療に役立てている。
