
肺がん研究部
部長 安宅 信二
最近の活動状況について
肺がん外科症例のV期症例は手術適応症例の中では最も予後が悪い。主たる予 後因子はリンパ節転移であるが、そのリンパ節転移の個数、部位と予後との明 確な関連は不明瞭である。またこの病期は化学療法、放射線療法等の何らかの 補助療法が必要であるがその有効性に関しては結論は得られていないが、最大 の理由はその多様性である。松村晃秀外科部長は結核予防研究室長を併任して いるが、そのような臨床的に極めて多様性のあるV期症例を肺がんの生物学的 マーカーであるP53,P27,Bc12,EGFR等の遺伝子異常を原発巣、転移リンパ節で 検討し、その結果に基づいたV期の亜分類を計画している。肺がん研究部は病 理北市正則科長と共同研究としてそれを実行、個別化医療の方向性を検討して いる。特にEGFR遺伝子異常を検出それに基づいたEGFR阻害剤を用いた retrospective studyを考慮中である。
(1) 課題名:「政策医療呼吸器ネットワークを利用した新しい化学療法剤 (抗がん剤)を用いたヒト肺がんに対する臨床治験」(平成12年度〜)
当院は国立病院の中でも肺がんに対する新しい抗がん剤の最も多数・多種類の臨 床治験を行っている病院の一つである。昨年度も多種(下記)行い、本年度も さらに多種の治験を行う。
1) 「国立病院・療養所呼吸器ネットワークを利用した肺がんに対する標準治療 の作成:進行非小細胞肺がんにおけるUFt, GEM, VNR併用化学療法の臨床第I/II 相試験」をHOSPnetを利用し、政策医療呼吸器ネットワークを利用して多施設 で現在第I相試験のステップが終了した。 レベル2においてもDLTは確認され ず、これから第II相試験(ステップ2)に移行し、現在4施設で12例が登録されて おり、33例を集積する
2) 非小細胞進行肺がんの米国での標準治療のひとつに米国のSouthwest Oncology Group が用いているcarboplatin (AUC=6) + paclitaxel 225mg/m2の 併用化学療法がある。 この投与法は日本でも可能であることを明らかにした。 奏効率は60%とSWOGの成績よりも高かった。 これを踏まえて現在SWOGと common arm trialを通じて共同研究を行い、218例をすでに集積している。 これと並行して、付随研究を行っている。 すなわちmicrotubulesの突然変異 やメチル化を指標に患者群を分けて効果を解析する。 もう一つの付随研究と してQOL研究もH16年2月から開始した。
3) 切除不能非小細胞肺がん第III期の治療には放射線治療と化学療法の併用が標 準治療となっている。これらの同時併用が異時投与に比べて延命効果があるこ とを我々は報告した。 さらに、生物学的には放射線治療は休止なく持続して 投与するほうが、耐性の出現を抑えるといわれている。したがってこの研究で は放射線治療を持続させた。 vindisineの代わりに新規抗がん剤である vinorelbineを用いた解析が終了した。 20例を行いvindicineより有効であっ た。 本年度はイレッサとの併用効果をMedical Frontier研究班で施行中であ る。
4) フルオロウラシル系のtegafur、CDHP(5-chloro-2,4-dihydroxypyridine)と Oxo(potassium oxonate)を含有した合剤であり、非小細胞肺がんに対するこの第 II相試験で奏効率21%を認めた。従来のtegafurの奏効率10%以下を超えた有 効性を示した。本年度はシスプラチン+S-1の治験を実施し、30%以上の著明 な奏効率を得た。
5) 小細胞肺がんのセカンドライン治療にはまだ確立したものがない。 CPT-11 とカルボプラチンの毎週投与を計画し、効果を得た。
本年度はファーストラ インとしてこの治療が有効かJMTO、京大と共同研究(第?相試験)を行ってい る。 このレジュメは外来治療でできる利点がある。(Lung Cancer Naka 2002)
(2) 課題名: 「非小細胞肺がんの治療成績の向上を目指した集学的治療の研究」
1) 比較的早期の肺がんに対する術後補助化学療法
研究目的
治癒切除症例に対する術後補助化学療法の検討(多施設共同研究(WJTOG)) 非小細胞肺がんの治療成績は未だ不良であり、切除可能な非小細胞肺がんの治療は 手術療法が主体であるが、比較的早期の肺がんにおいても再発例が見られる。現 在まで多くの臨床治験が行われてきたにもかかわらず、その術後補助化学療法 の有効性をを証明しうる報告は少ない。そこで非小細胞肺がんp-stage?Bから? Aの一部まで、比較的早期の肺がん治癒切除症例に対し、外来において施行可能 なGemcitabineとUFTの無作為化比較臨床試験を行い、有用性を検討した。
研究の独創性
外来投与可能なGemcitabineとわが国で開発され、臨床的に広く用いられてい るUFTの大規模比較試験は世界的に見ても例のない研究である。
研究結果
現在まで全体として329例が登録されている。当院の登録は6例である。
2) 肺尖部胸壁浸潤肺がんに対するInduction chemo(radio)therapy(多施設共同 研究(JCOG))
研究目的
非小細胞肺がんの約30から40%は診断時に手術不能な進行肺がんであり、このよう な症例にinduction chemo(radio)therapyを行うことによって、切除率を向上 させるのも治療成績を向上させると考えられる。現在標準的治療の確立されて いない肺尖部胸壁浸潤肺がんに対するInduction chemo(radio)therapyの安全性 を評価する第2相試験を行い、標準的治療の確立を目指した。
研究の独創性
肺尖部胸壁浸潤肺がんに対するInduction chemo(radio)therapyの効果は確立さ れつつあるが、わが国で大規模臨床試験が行われたことはない。世界的に見て もSWOGの臨床試験に次ぐ登録症例数であり、十分評価に耐えうる結果が出るも のと期待されている。
研究結果
本試験は当初50例を目標に症例集積が開始されたが、集積が順調に進みさらに 症例の追加登録を行い、76例にて登録を終了した。当院は4例を登録し、術前 治療、手術による重篤な合併症はなく、4例中1例が原病死したが残る3例では 切除肺に腫瘍組織の残存がなく(pathological CR)現在無再発生存中で、良 好な成績である。
3) 胸部薄切CT所見に基づく肺野型早期肺がんの診断とその妥当性に関する研究
(JCOG0201の多施設共同研究)
研究目的
術前の胸部薄切(thin section)CT画像に基づく肺腺がんの質的診断を行い、縮 小切除の適応となる病理学的非浸潤性肺腺がんを術前に同定できるかどうかを検 討した。
研究方法
臨床病期TA期の肺腺がん、またはその疑いの症例に対して胸部薄切CT画像によ る主病巣の評価、外科切除、切除標本の病理組織学的診断を行い、画像診断に おける早期肺がんと病理学的早期肺がんの診断の差異を検討した。
研究結果
当院からは5例の症例を登録している。全体では500例以上集積し画像、病理学 所見を検討中である。
研究の独創性
本研究に続く第V相試験で肺野末梢型の非浸潤がんが術前に同定可能であり、縮 小切除が再発・死亡のリスクを高めないことが明らかになった場合は、画像的 に非浸潤がんと診断される患者においては、従来の肺葉切除を必要とせず、合併 症の減少や術後肺機能の温存が可能となる。 4) 非小細胞肺がん完全切除例に対する経口テガフール・ウラシル配合製剤を用 いた術後補助化学療法の有効性に関する無作為化第?相臨床試験 (JMTOLC01-01多施設共同試験)
研究目的
術後補助化学療法による生存期間の延長について手術単独群をcontrol arm、 経口テガフール・ウラシル配合製剤(UFT)投与群を治療群として全生存期間、 無再発生存期間を比較し、術後補助療法の有効性と安全性を検証した。
研究の独創性
経口投与可能な抗がん薬の有効性が確認できれば、標準的治療のひとつとなり、 ユニークな研究である。また、有効性が証明されない場合でも、今後同様な研 究計画において貴重なデータとなりうる
研究結果
主任研究者としてプロトコールの作成を終了し、症例の登録を平成15年11月か ら開始した。現在参加施設9施設である。
(3) 課題名: 「肺がん患者EGFR遺伝子異常検出によるEGFR阻害剤を用いた retrospective study」(平成16年度)
肺がん外科症例のIII期症例は手術適応症例の中では最も予後が悪い。主たる 予後因子はリンパ節転移であるが、そのリンパ節転移の個数、部位と予後との 明確な関連は不明瞭である。またこの病期は化学療法、放射線療法等の何らか の補助療法が必要であるがその有効性に関しては結論は得られていないが、最 大の理由はその多様性である。松村晃秀外科部長は結核予防研究室長を併任し ているが、その様な臨床的に極めて多様性のあるIII期症例を肺がんの生物学 的マーカーであるP53、P27、Bcl2、EGFR等の遺伝子異常を原発巣、転移リンパ 節で検討し、その結果に基づいたIII期の亜分類を計画している。肺がん研究 部は病理北市正則科長と共同研究としてそれを実行、個別化医療の方向性を検 討している。特にEGFRの遺伝子異常を検出それに基づいたEGFR阻害剤を用いた retrospective studyを考慮中である。
(4) 課題名 「肺がんに対する新しい治療法、新しい診断法の開発」(平成12年 度〜)
(結核研究部との共同研究)〔A〕 「肺がん拒絶抗原を用いた肺がん患者での新しい治療」
1) 新しい肺がん関連抗原13種の遺伝子クローニング、リコンビナント蛋白の 作製及びこれらに対する抗体の作製に成功した(10種の非小細胞肺がん関連抗 原と3種の小細胞肺がん関連抗原:Corixa研究所S.Gillis博士との共同研究)。 (Br.J.Cancer 2003) 特にL523s抗原は90%の非小細胞肺がん患者のがん細胞に 発現が認められ、48%で肺がん患者血清中にL523sに対する抗体が検出され、早 期肺がん患者血清中でも45%にL523s抗体が検出された。すなわちL523s抗原を用 いての新しい早期肺がん診断法が有用であることが強く示された。さらに、5種 の肺がん関連抗原に対する患者血清中の抗体検出率は73%であり、これら5種 の肺がん抗原を用いて大多数の肺がんの血清診断が可能である、新しい診断法 が開発されたことが独創的である。(Cancer Res. submitted)
2) 進行がんほどRCAS-1の発現が強く、肺がん細胞が浸潤T細胞を殺して、免疫監視 機構からエスケープする機序を明らかにした(Int.J.Cancer 2000)。 肺腺維 症合併肺がんは?期でもRCAS-1の発現が極めて強く、肺腺維症による発がん機 構の一つであることが示された。 すなわちRCAS-1抗体を用いて悪性度診断お よび予後診断が開発されることが独創的である。 政策医療呼吸器ネットワー クを用い多数の症例での肺がんの新しい標準的診断法を確立する。(EBM)に 準じた診断法の開発)
3) 世界に先駆けてIL-2レセプターg鎖ノックアウトSCIDを作製し、生体内でヒ トの肺がん関連抗原ペプチドに反応してヒトキラーTを誘導する画期的な IL-2Rg(-/-) SCID-PBL/huの系を確立した。 [今までの我々が世界に先駆けて 確立したSCID-PBL/hu (Cancer Res. 岡田)より100倍感度がよい]。通常の CB17SCID-PBL/hu又はNOD SCID-PBL/huマウスのヒト肺がんに対するキラーT誘導 には、キラーT細胞分化因子のIL-6関連遺伝子(アデノウイルスベクター/IL-6 DNA+ IL-6レセプターDNA+ gp130DNA)の投与を必要とする。これに対し、 IL-2Rγ(-/-) NOD SCID-PBL/huモデルでは、IL-6関連遺伝子の生体内投与を必 要とせず、ヒト肺がん細胞投与のみで、肺がん特異的ヒトキラーTを誘導すること を明らかにした。さらに、肺がん関連抗原生体内投与においても肺がん抗原特異ヒ トキラーTを誘導しうる画期的な系であることを明らかにした。
4) 肺がん関連抗原L523sの20merペプチド(キラーTに反応するL523sのペプチ ド20個のアミノ酸配列を決定)に対し、肺がん患者よりキラーT細胞が誘導さ れ、L523sは肺がんワクチンとして有用であることが示された。
一方、小細 胞肺がん関連抗原(L985p)に対する抗体を用い、30例の小細胞肺がん組織を染色し 強い陽性率を示した。 鑑別が困難なLCNECは陰性で小細胞肺がんとLCNECの初め ての鑑別診断マーカーを開発した。さらに抗asialo GM2抗体を用い小細胞肺 がんにasialo GM2が特異的に発現していることを示した。このモノクローナル 抗体をすでに作製したことより小細胞肺がんに対する抗体治療を計画中。
〔B〕 「肺がんに対する遺伝子治療・予防(結核研究部との共同研究)」
肺がん発症マウス(c-Ha-ras遺伝子導入マウス)にIL-6関連遺伝子治療を行い、 肺がんの治療効果・予防効果を解析した。 その結果肺がん発症の予防効果の みでなく治療効果も(かなりがんが大きくなりながらも)を示す画期的な発見を した。 肺がん発症マウス(c-Ha-ras遺伝子導入マウス)にIL-6関連遺伝子(IL-6遺伝子 + IL-6レセプター遺伝子+ gp130遺伝子)治療を行い、肺がん発症の治療効果 を示す、画期的な系を確立した。治療効果を明らかにし、肺がん発症マウスを用 いた新しい画期的な治療開発モデルを開発した。肺がんに対する遺伝子治療など の新しい治療法の確立のためには、動物実験による前臨床研究が不可欠である。
従来、このような実験的動物モデルとしては、ルイス肺がんなどのマウス腫瘍移 植系やヒト腫瘍細胞の免疫不全動物への気管内移植、肺内移植系が多く用いら れてきた。しかし、これらはあくまでも移植操作を介するがんモデルであり、in situのがんでの実験モデルの確立が望まれていた。 一方我々は、ヒトの非活性型H-ras遺伝子を導入したトランスジェニックマウ ス(rasH2マウス)に特定の化合物を投与すると、極めて短期に100%肺がんが発症 することを明らかにしてきた。そこで、本マウスを用いれば、短期間で実験可 能で生物統計学的な評価が簡便なin situの動物実験システムの構築が可能で あると考えた。このc-Ha-transgenicマウスは、このような目的を満たすこと より、新しいヒト肺がん治療ならびに新しいヒト肺がん予防法の確立に重要な武器 を提供するものである。c-Ha-ras肺がん発症マウスで予防効果のみでなく治療効 果を得たことは、ヒト肺がん発症の予防、治療応用の突破口となる。
(5) 課題名「新しい診断法の開発」 (平成11年度〜)(結核研究部との共同 研究)
化学療法に抵抗性の進行がんにおいては、染色体5番長腕5q21-22領域の欠失の 頻度が高い傾向を明らかにした。 化学療法に対する感受性に関与する遺伝子 のクローニングが進行中である。 ヒトX染色体上にはじめて我々は肺がん抑制 遺伝子を発見した(MEF蛋白の産生をコードする遺伝子)。このMEFに対する抗体 を用いて女性肺がんの発症、病態を解明しつつある。さらにMEF蛋白はアポトー シスに関与することが示唆された。各診療科、検査科との協力関 係について
第二内科医長は肺がん研究部分子生物学研究室長を併任しているが、内科に おける肺がん患者の診断および治療効果に関するバイオマーカーを臨床研究セ ンターで解析・評価し、その結果を内科にフィードバックすることにより日 常の診療に役立てている。 さらに、米国CORIXA研究所との共同研究として、 新しく発見した肺がん抗原13種類を用い肺がん患者肺組織中各種腫瘍特異抗 原の発現と予後の関係を明らかにしつつある。 この結果を内科にフィード バックすることにより、日常の治療に役立てている。 さらに、早期肺がん 患者血清中にこれらの抗原に対する抗体が検出され、新しい早期診断法を開 発しつつあり、内科にフィードバックすることにより、日常の治療に役立て つつある。
第二呼吸科医長は診断・治療研究室長を併任しているが、
(1)呼吸器科・内 科・外科・呼吸器外科における肺がん化学療法・放射線治療の効果・副作用 に関するデータを臨床研究センターで解析・評価し、その結果を呼吸器科・ 内科・外科・呼吸器外科に
(2)呼吸器科・内科・看護部・薬剤科における HIV感染症・エイズの初診時対応・服薬指導に関するデータを臨床研究センター で解析・評価し、その結果を呼吸器科・内科・看護部・薬剤科に
(3)呼吸器 科・内科・外科・呼吸器外科における肺がんの気管支鏡下超音波検査の結果 に関するデータを臨床研究センターで解析・評価し、その結果を呼吸器科・ 内科・外科・呼吸器外科に
(4)呼吸器科・内科・外科・呼吸器外科における 気管支結核の気管支鏡下超音波検査の結果に関するデータを臨床研究センター で解析・評価し、その結果を呼吸器科・内科・外科・呼吸器外科に、フィー ドバックすることにより日常の診療に役立てている。
和歌山病院内科医長は病因・病態研究室長を併任し、診療部と連携しながら 臨床研究を遂行している。
