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独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
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がん診療科  泌尿器科

腎癌

1)腎臓について

 腎臓は腹部に左右1つずつ存在する臓器です。腹部にある臓器ではありますが、腸管全体を包み込む腹膜と背中の間にあたる、後腹膜腔という場所に位置しています。ちょうど肋骨の下端の高さにあり、10×5×3cm程度のソラマメのような形をしています。
 腎臓の主な機能は、血液をろ過して尿を作ることですが、その他にも血圧のコントロールや造血に関するホルモンの生成もしています。

2)腎癌とは

 腎臓にできるがんには、腎癌と腎盂(じんう)癌が主であり、これらの多くは成人に発生します。
 腎癌は尿細管の細胞が癌化したものですが、腎盂癌は尿路の細胞が癌化したものであるため、同じ腎臓にできたがんであっても各々の性質や治療法はまったく異なります。この項では腎癌について解説します。

3)腎癌の症状

 腎癌には特徴的な症状はありません。そのため小さいうちに発見される腎癌は、検診や、ほかの病気のための精密検査でたまたま見つかるなど、偶然に発見されるものがほとんどです。腫瘍が大きくなるにつれて血尿が出たり、腹部のしこりに気が付いたりする場合もありますが、そのようなケースはあまり多くありません。
 癌が全身へ広がるのに伴い、食欲不振、体重減少、貧血、発熱といった全身症状があらわれます。さらに、腎癌が造血作用のある物質などを作るために、赤血球増多症、高血圧や高カルシウム血症が起こることがあります。また、骨転移による骨折や、脳転移によるけいれん、肺転移による肺の腫瘤といった、ほかの臓器へ転移したものが先に発見され、精密検査の結果として腎癌が見つかることも少なくありません。

4)腎癌の疫学

 わが国の2010年の腎癌死亡数は男性約2.7千人、女性約1.3千人で、男女とも癌死亡全体の1%を占めます。罹患率は50歳代から70歳代にかけて、高齢ほど高くなります。
 腎癌を引き起こす原因(リスク要因)として確立されているものは、肥満、高血圧、喫煙です。肥満のリスクは4倍で、高血圧では2倍とされています。すなわち、肥満の方ではそうでない方に比べて、4倍腎癌が発生しやすいということになります。一方、遺伝的に、腎癌が発生しやすい家系のあることが知られています。中枢神経系血管芽腫を合併するフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病や、自然気胸や顔面皮膚の小腫瘍を伴うバート・ホッグ・デューベ(BHD)症候群などの、常染色体優勢遺伝性の疾患をもつ患者とその血縁者では、腎癌の発症割合が高く、VHL病血縁者の40%で腎細胞がんが発症するといわれています。

5)腎癌の診断

 腎癌を診断する検査としては、CT検査、超音波検査、MRI検査、骨シンチグラフィが一般的です。ほかの癌では、診断のために針生検を行うこともありますが、一般的な腎癌の場合は、出血を起こしたり、癌を周囲にまきちらしたりするリスクが高いともいわれており、通常は生検を行いません。

CT検査、MRI検査

 腎癌の診断には、ダイナミック造影CT検査が現在一番有用な検査です。このCT検査は、造影剤を静脈から急速に注入し、短時間にたくさんの画像を撮影することで、がんと考えられる部位の血液の動態をみる撮影方法です。一般的な腎癌では、造影剤を使って確認される腫瘍像が特徴的で、これが診断の根拠にもなります。撮影される範囲内の腎臓以外の臓器の状態も調べることができるため、転移の有無を確認するのにも適しています。CT検査で診断がはっきりとつかない場合は、MRI検査を行う場合もあります。CT検査に比べて、MRI検査は、腫瘍が良性か悪性かといった質的特徴を捉えるのに適しています。

超音波(エコー)検査

 超音波(エコー)検査は被曝の心配もなく、手軽に行えるため、健康診断などの一般的なスクリーニングの検査によく用いられます。こうした検診の結果、腎癌が発見されることは少なくありません。また、腎腫瘍がすでに確認されている場合は、癌の内部の状態を確認することで、良性腫瘍(腎のう胞や腎血管筋脂肪腫)との鑑別診断に有用です。また超音波検査の最大の利点は、臓器の動きや血流などが評価できることです。これにより、血管や周囲の臓器との関係をとらえることができるため、手術が可能かどうか判断する1つの有用な指標となります。

骨シンチグラフィ

 初期の癌では、日常的には行いませんが、進行癌や既に骨への転移がわかっている場合などには、全身の骨の状態を調べるために骨シンチグラフィを行います。

6)腎癌の病期分類

 病期とは、癌の進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてステージともいいます。1〜4の病期に分けられていますが、ローマ数字が使われ、I期、II期、III期、IV期と分類されています。病期は、癌の大きさや周辺の組織に癌がどこまで広がっているか、リンパ節や別の臓器への癌の転移があるかどうかで決まります。
腎癌ではTNM分類に基づいて、病期を判定します。Tは原発腫瘍、Nは所属リンパ節、Mは遠隔転移の頭文字です。「腎癌取扱い規約」では、次のように病期分類されています。

腎癌のTNM分類

T1 最大径が7cm以下で、腎に限局する腫瘍
T1a 最大径が4cm以下
T1b 最大径が4cmをこえるが、7cm以下
T2 最大径が7cmをこえ、腎に限局する腫瘍
T2a 最大径が7cmをこえるが10cm以下
T2b 最大径が10cmをこえ、腎に限局する
T3 主静脈または腎周囲組織に進展するが、腎筋膜をこえない腫瘍
T3a 腎静脈や周囲の脂肪組織におよぶ
T3b 横隔膜下の大静脈内に進展
T3c 横隔膜上の大静脈に進展、または大静脈壁に浸潤
T4 腎筋膜を超えて浸潤、または同じ側の副腎に浸潤
N0 所属リンパ節への転移がない
N1 1個の所属リンパ節への転移がある
N2 2個以上の所属リンパ節転移がある
M0 遠隔転移がない
M1 遠隔転移がある

日本泌尿器学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「腎癌癌取扱い規約 2011年4月(第4版)」(金原出版)より作成

腎癌の病期分類

I期 T1 N0 M0
II期 T2 N0 M0
III期 T1 N1 M0
T2 N1 M0
T3a N0、N1 M0
T3b N0、N1 M0
T3c N0、N1 M0
IV期 T4 Nに関係なく M0
Tに関係なく N2 M0
Tに関係なく Nに関係なく M1

7)腎癌の治療

 癌の治療法は、臨床病期によって標準治療が定められています。腎癌の場合も、ガイドラインによって推奨されている治療法があります。しかしガイドラインによる治療法は、一般的な患者さんを想定したものであり、実際には、各々の腫瘍の状況や体の状況などに合わせて方針を定めていく必要があります。自分に適した治療方針については担当医とよく話し合って決定してください。
 一般的に腎癌に対しての標準治療法は外科手術です。腎臓にある腫瘍そのものについては、放射線治療や薬物療法での根治は難しいとされています。進行癌で、すでに転移が見つかっている場合や、再発腫瘍に対しては、薬物療法(サイトカイン療法、分子標的治療)が治療の主体となりますが、有用と考えられる場合は外科手術や放射線治療を行う場合があります。

①手術(外科治療)

 転移のない腎癌に対する最も有用な治療法は、手術療法です。手術法には腫瘍のできている腎臓を周囲の脂肪組織とともに一塊に切除する根治的腎摘除と、サイズの小さい腎癌の場合は、腎機能を可能な限り温存するために、腎臓の一部と腫瘍を摘出する手術、腎部分切除術が行われています。また、腎癌では静脈の中に腫瘍が育っていくことがありますが、他の臓器に転移がなく、技術的に可能な場合には、腎臓とともに血管内の腫瘍も摘出することがあります。

 転移のある進行腎癌でも、その状態によっては、治療計画の一環として腎摘出術を行う場合があります。この場合、手術療法のみで根治が見込めることはありませんが、根治しなくても、摘出を行った方がその後の治療成績が良いともいわれています。また腎臓の摘出後、遠隔転移が出現した場合には、癌の状況によっては、転移した部分を外科的に切除することが有効である場合があります。
 近年では、腎臓の手術も、従来のように開腹手術(おなかを切開して行う手術)のみでなく、おなかに小さな穴を開けて、先端にライトとカメラの付いた内視鏡を入れて手術する、腹腔鏡下手術も一般的になっています。出血が少なく、おなかを大きく切らないので創(きず)が目立たず、早く退院できるなどのメリットがあります。治療成績に関しては、従来の開腹手術と差がないといわれています。
 当院では、腎摘除術、腎部分切除術とも可能な場合は腹腔鏡で施行しています。写真のように腹腔鏡手術の創は小さいのが特徴です。特に腹腔鏡下腎部分切除術は腹腔内での縫合など高度な技術を要するので、すべての施設で施行可能ではありません。当院では泌尿器科学会、泌尿器内視鏡学会、内視鏡外科学会の泌尿器腹腔鏡手術技術認定医により安全に施行されています。すべての方で腹腔鏡手術が施行可能なわけではありませんので、担当医とよくご相談ください。

開腹手術(腎摘除術)と腹腔鏡手術の創(腎部分切除)

②薬物療法

 一般的に腎癌に対しては、いわゆる抗癌剤で、有用とされるものはありません。従って、腎癌には、サイトカイン療法とよばれるmt1emが行われてきました。一方、近年、腎癌の発癌や進行のメカニズムが解明されつつあり、その経路を妨害することを目的とした分子標的薬といわれる新しい種類の薬剤が開発され、治療にも使用されるようになってきました。

サイトカイン療法

 インターフェロンαやインターロイキン-2などの薬剤を用いて治療を行います。治療の有効性(薬剤の投与により腫瘍が小さくなる効果)は15〜18%といわれており、肺やリンパ節への転移に対しての有効性が示されています。過去の治療成績の検討では、欧米人に比べて、日本人はサイトカイン療法による治療効果が高いことが示唆されており、分子標的薬が使用されるようになった現在でも、治療の選択肢の1つと考えられています。治療による副作用にはかなり個人差があり、さまざまな症状があらわれることが知られています。一般的には発熱や関節痛、だるさといったインフルエンザのような症状、食欲不振、悪心・嘔吐(おうと)、白血球減少やうつ症状が報告されています。

分子標的治療

 近年、分子標的治療における薬の開発が進んでおり、進行腎癌に対して、腫瘍を小さくしたり、生存期間を延長させたりといった、分子標的薬による治療の効果が期待されています。また、サイトカイン療法の効果がなくなった場合においても、治療効果がみられるという報告もあります。
 現在、日本においてはソラフェニブ、スニチニブ、エベロリムス、テムシロリムス、アキシチニブが保険適用となって治療に使われています。また副作用として各々の薬剤に特徴的な症状があらわれますので、投薬を受ける前に、期待できる治療効果と副作用について、担当医より十分な説明を受けた方がよいでしょう。

③放射線療法

 高エネルギーのX線を照射することで癌を小さくするのが放射線治療です。腎癌では放射線治療の効果があまりよくないため、腎臓にある腫瘍自体の治療のために放射線照射を行うことは多くありません。しかし、骨や脳などに腎癌が転移をした場合など、症状を抑えることや治療目的で照射を行う場合があります。放射線照射による副作用は、照射を受ける部位や照射量によっても症状が異なりますので、照射前に担当医に確認することが必要です。

膀胱癌

1)膀胱癌について

 膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓でつくられた尿が腎盂(じんう)、尿管を経由して運ばれたあとに、一時的に貯留する一種の袋の役割をもっています。膀胱には、尿が漏れ出ないよう一時的にためる働き(蓄尿機能)と、ある程度の尿がたまると尿意を感じ、尿を排出する働き(排尿機能)があります。
 膀胱を含め、腎盂、尿管、一部の尿道の内側は尿路上皮という粘膜でおおわれています。膀胱癌は、尿路上皮が癌化することによって引き起こされます。そのうち大部分(90%以上)は尿路上皮癌という種類ですが、まれに扁平上皮癌や腺癌の場合もあります。

2)膀胱癌の疫学・原因

 2008年における膀胱癌の年齢調整罹患率は7.2(男性12.8、女性2.8)で、男性は女性に比べ4倍多いとされています。年齢別にみた膀胱癌の罹患率は、男女とも60歳以降で増加し、40歳未満の若年では低いです。 膀胱がんの確立されたリスク要因は喫煙です。男性の50%以上、女性の約30%の膀胱がんは、喫煙のために発生するとの試算があります。また、職業でナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルといった危険物質にさらされることも確立したリスク要因とされています。

3)膀胱癌の症状

 膀胱癌の症状は、一般的には痛みなどの症状がなく血液の混じった赤色や茶色の尿(肉眼的血尿)が出ることが最も多い症状です。肉眼的血尿は数日すると軽快する一過性であることがありますが、血尿自体が軽快しても原因が膀胱癌である場合は癌が自然に治ったわけではないので、早期の受診が必要です。また、頻繁に尿意を感じる、排尿するときに痛みがあるなど膀胱炎のような症状を来すこともあります。膀胱癌の場合は、症状が軽いあるいは症状が出現したばかりだとしても、早期の状態であるとは限りません。症状が出現したときにはすでに筋層浸潤性癌や転移性癌であったということもあります。いずれにしても症状があれば医療機関を受診して、癌かどうかを診断しましょう。癌と診断された場合は、早期に治療を開始することが肝要です。

4)膀胱癌の診断

 膀胱癌が疑われる場合には、膀胱鏡検査、尿細胞診検査が行われます。  膀胱鏡検査は膀胱に内視鏡を挿入して行う検査で、内視鏡で癌の発生部位、大きさ、数、形状などを確認します。膀胱鏡検査で大まかに筋層非浸潤癌、筋層浸潤癌の区別ができます。膀胱鏡検査用の内視鏡は先端にカメラが付いた軟性鏡です。男性では尿道が長いので多少の疼痛がありますが、5分前後の短時間で外来にて施行可能です。 尿細胞診検査は尿に癌細胞が出ていないかどうかを顕微鏡で見て判定する検査です。尿細胞診検査は陰性、疑陽性、陽性の3段階で評価されます。5段階法で評価する場合は、1、2は陰性(悪性所見なし)、3は疑陽性(悪性の疑い)であり、4、5では陽性(悪性所見が強く疑われる)に該当します。判定が陽性の場合には膀胱癌あるいは上部尿路癌(腎盂・尿管がん)が存在している可能性が高いと判断されます。悪性度の低いおとなしい癌などでは、癌があっても尿細胞診検査で異常を認めないこともあるため、検査の結果が陰性であるからといって癌がないとはいえません。ほかの検査と併せて判断します。
 CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィーなどの画像検査は、膀胱鏡で膀胱癌を認め、筋層浸潤癌が疑われる場合に癌の広がりや転移があるかどうかを検査するために行うことがあります。
 膀胱癌を確定診断するためにはTUR-BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を行います。麻酔をかけて、病変部を専用の内視鏡で生検あるいは切除し、組織を採取します。採取された組織を顕微鏡で見て、癌の種類や筋層に浸潤しているかなどを確認します。 筋層非浸潤膀胱がんの場合にはTUR-BTで癌を切除できる可能性が高く、診断と治療をかねた検査になります。TUR-BTによる組織検査の結果、それ以上の手術は不要と判断されることがあります。また一部の筋層非浸潤性膀胱癌ではハイリスク筋層非浸潤性膀胱癌といわれ、最初のTUR-BTで完全切除と判断されても、癌が筋層内に残っていることがあり、もう一度TURBT(2nd TURBT)を行うことがあります。

5)膀胱癌の病期分類

 病期とは癌がどの程度進行しているかを示す言葉です。病期は次の3つの指標を用いて決定します。 癌の広がり(T)、リンパ節転移の有無(N)、別の臓器への転移の有無(M)これをTNM分類といい、国際的に用いています。

T 原発腫瘍の壁内深達度

Tx 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍を認めない
Ta 乳頭状非浸潤癌
Tis 上皮内癌(CIS)
T1 上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
T2 筋層に浸潤する腫瘍
T2a 浅筋層に浸潤する腫瘍
T2b 深筋層に浸潤する腫瘍
T3 膀胱周囲脂肪組織に浸潤する腫瘍
T3a 顕微鏡的に浸潤
T3b 肉眼的に浸潤(膀胱外の腫瘍)
T4 膀胱周囲の組織に浸潤する腫瘍
T4a 前立腺間質、精嚢、子宮あるいは膣への浸潤
T4b 骨盤壁または腹壁に浸潤

日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 2011年4月(第1版)」(金原出版)より作成

N 所属リンパ節

Nx 所属リンパ節の評価が不可能
N0 所属リンパ節転移なし
N1 小骨盤腔内への1個のリンパ節転移あり
N2 小骨盤内の多発性のリンパ節転移あり
N3 総腸骨動脈リンパ節転移あり

M 遠隔転移

M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

上記のTNMの表を組み合わせて病期を決定します。数字の多い方が、癌が進行していることを表します。

膀胱癌の病期分類

病期0a Ta N0 M0
病期0is Tis N0 M0
病期I T1 N0 M0
病期II T2a N0 M0
T2b N0 M0
病期III T3a N0 M0
T3b N0 M0
T4a N0 M0
病期IV T4b N0 M0
Tに関係なく N1、N2、N3 M0
Tに関係なく Nに関係なく M1

6)膀胱癌の治療

膀胱癌の治療は画像診断の結果と、TUR-BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)による組織検査の結果を基に、患者さんの希望、年齢、合併症などを考慮して決定されます。

①TUR-BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)

 全身麻酔あるいは腰椎麻酔を行って、専用の内視鏡を用いて癌を電気メスで切除する方法です。診断をかねて実施されます。筋層非浸潤癌の場合、TURBTで癌を完全に切除できることもあります。しかし、筋層非浸潤癌でも膀胱内に再発しやすいという特徴があり、再発のリスクが高いと判断された場合には、予防的に膀胱内注入療法が実施されることがあります。  手術時間は1時間程度です。手術後、尿を体外へ誘導するために、膀胱内に管(カテーテル)を留置します。1~5日で抜去しますが、出血の程度などの状況によって期間は変わります。病態によっては、手術当日に再発を予防する目的で、膀胱内に生理食塩水で溶解した抗癌剤を注入する膀胱内注入療法が併用されることがあります。組織検査の結果、ハイリスク筋層非浸潤性膀胱癌と判断された場合には、再度TURBT(2nd TUR)が行われることがあります。

 術後約1か月間はまれに(1-3%)、再出血により止血術が必要となる場合があります。手術後の突然の出血などがありましたら、病院にご連絡ください。

②膀胱全摘術

 筋層浸潤癌と一部の筋層非浸潤性癌の最も有効な治療法とされています。 全身麻酔を使用し、下腹部に切開を入れ、尿管の切断をしたあと、膀胱の摘出を行い、男性では前立腺と精嚢(せいのう)を摘出します。癌の状態によっては尿道も摘出することがあります。女性では子宮と腟壁の一部、尿道をひとかたまりとして摘出するのが一般的です。骨盤内のリンパの摘出を併せて行います。

 膀胱全摘術は尿路変向術と併用して行われ、手術時間も6-8時間と長く、出血量も多く輸血を要することがある手術です。腸閉塞や尿路感染症、創感染症などの合併症も起こりえますし、時としては命に係わる重大は合併症がおこることもあります。術前に担当医とよく相談し手術に関し理解した上で、十分な準備をして施行することになります。

③尿路変向術

 膀胱を摘出すると腎臓でつくられた尿を何らかの方法で体外に排出する必要があります。そのための手術が尿路変向術です。尿路変向術はQOL(生活の質)に大きく関わってきますので、事前に担当医や看護師の説明を繰り返し聞いて十分理解し、納得して選択することが大切です。現在、わが国では回腸導管が最も多く実施されていますが、尿管皮膚瘻(ろう)や自排尿型新膀胱なども行われています。

○尿管皮膚瘻造設術

 尿管断端を皮膚から体外にだし、尿管を利用したストーマ(出口)を作る方法 手術時間は短いが、集尿器を取り付ける必要があり、尿管にカテーテル留置が必要になる可能性があります。

○回腸導管造設術

 小腸(回腸)の一部を切り離し、その腸に左右の尿管をつなぎ、腸の先を皮膚の外に出し、尿の出口とする方法です。ストーマには尿をためる集尿器(パウチ袋)をつけ、袋に一定量の尿がたまったらトイレに流します。この方法は長い歴史があり、術後も機能が安定した方法で長期にわたり合併症が少ないことが特徴です。

○自排尿型新膀胱造設術

 小腸(回腸)を切り離したあと、縫い合わせて尿をためる袋(新膀胱)をつくり、左右の尿管を新膀胱につなぎ、さらにこれを尿道につなぐ方法です。この方法はストーマがなく、尿道から尿が出せることが大きな特徴です。しかし、尿道に癌が再発する危険性が高い場合は適応となりません。
 尿道から尿が出せますが術前と同じではありません。尿を強く押し出す筋力は腸管で作った新膀胱にはありませんので、手術後しばらくはカテーテルで新膀胱にたまった尿を自分で導尿して体外に出す必要があります。また、尿意は感じませんので、定時的に導尿する必要があります。夜間に導尿しないで寝ているとその間も尿は新膀胱にたまり続けます。そうなると新膀胱の腸管粘膜からで尿が再吸収されて、腎機能が悪くなる危険があります。また、夜間は定期的に起床しても尿が漏れていることが多いです。術後、長期間経過すると腹圧をかけて排尿することができるようになる事が一般的です。

 自排尿型新膀胱造設術は、他の尿路変向術と比べてストーマや集尿器が体につかないので、術後のQOLはよさそうです。しかし、自己導尿や夜間の定期時間排尿などの必要性を理解していただかなければ腎機能障害になる可能性が点などを考えると、比較的若い方で、手術前の腎機能に問題がない方が適応になると考えられます。

尿路変向の術式の比較

尿路変向 手術時間 腸管利用 カテーテル 集尿器 自己導尿 QOL
尿管皮膚ろう 短い なし 必要なことが多い 必要 不要
回腸導管 やや長い 15~20 不要 必要 不要
新膀胱 長い 60~80 不要 不要 数ヶ月必要 △~◯

④抗癌剤治療

 膀胱癌が、リンパ節や隣接臓器に転移のある場合、膀胱を全摘しても再発・転移する可能性が高いと判断された場合には、膀胱の摘出の前あるいは後に化学療法が行われます。
 GC療法(ゲムシタビン+シスプラチンの2剤組み合わせ)が、現在膀胱癌の治療に行われる化学療法です。GC療法が登場する前にはM-VAC療法(メソトレキセート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチンの4剤組み合わせ)が行われていました。GC療法とM-VAC療法では治療効果はどちらも同じ程度ですが、副作用についてはM-VAC療法の方が強いため、GC療法が行われるようになっています。しかし、GC療法で効果がない場合などには、M-VAC療法が行われることがあります。副作用として、吐き気、食欲不振、白血球減少、血小板減少、貧血、口内炎などが起きることがあります。
 通常、1コースのGC療法に3-4週間かかり、2-3コース施行することが一般的です。

⑤放射線治療

 放射線治療の適応となるのは、膀胱の摘出を望まない場合や、高齢もしくは全身状態がよくないため膀胱の摘出や抗癌剤治療が困難・危険と判断される筋層浸潤膀胱癌の場合です。また、骨転移などの痛みを和らげることや、摘出ができない進行した膀胱癌からの出血を軽減することを目的として、放射線治療が選択されることがあります。
 膀胱の摘出手術を望まない場合に、放射線治療に化学療法を併せて治療し、膀胱を温存することを目指す場合があります。しかしこのような方法により膀胱を5年間温存できた可能性は6割以下であり、温存した膀胱に再度癌が発生するなどの危険性もあります。これらの治療法は、その特徴や膀胱癌再発の危険性などをよく理解した上で、治療法を選択する必要があります。

⑥その他の治療

 膀胱癌に対して非常に重要な治療法として膀胱内注入療法があります。筋層非浸潤性がんに対して積極的に行われます。膀胱内注入療法は、抗癌剤あるいはBCG(ウシ型弱毒結核菌)を生理食塩水に溶解して、尿道から膀胱に挿入したカテーテルを通じて膀胱内に注入し、ある程度の時間排尿せずに薬剤を膀胱内に接触させる方法です。

ア)抗癌剤注入療法

 おとなしい(ハイリスクではない)タイプの筋層非浸潤膀胱癌に対して行われる治療法です。TUR-BT当日に抗癌剤を1回のみ注入する場合や、その後も外来で週一回程度注入する場合があります。抗癌剤注入療法は、全身抗癌剤治療と異なりほとんど副作用はありません。抗癌剤注入療法では、1時間程度膀胱に尿を貯留させる必要があるため、手術当日に注入する場合は出血や膀胱穿孔などのリスクがない場合に実施されます。前述のようなリスクがある場合は、膀胱に注入した抗癌剤が全身に吸収され合併症を引き起こす危険性があり、TUR-BT当日に抗癌剤注入療法を行うことはありません。

イ)BCG(ウシ型弱毒結核菌)注入療法

 ハイリスク筋層非浸潤膀胱癌や上皮内癌に対して行われる治療法です。毎週1回注入し、6~8回繰り返します。注入終了後も1~3年間は注入を維持した方がよいとの推奨もありますが、、膀胱刺激症状(頻尿、排尿痛)や発熱などの副作用も高頻度にみられるなどの問題点もあります。

前立腺癌

1)前立腺について

前立腺は男性だけにしかない臓器で精液の一部を作っています。骨盤内にあり尿道を取り巻いています。

2)前立腺癌とは

 前立腺癌は前立腺の細胞から発生する癌です。
 癌細胞はリンパ液や血液の流れに乗って他の場所に運ばれ、そこで増殖することがあります。これを転移といいますが、前立腺癌は骨やリンパ節に転移することの多い癌で、その他に肺や肝臓にも転移することがあります。

3)前立腺癌の症状

 早期の前立腺癌には特徴的な症状はありません。しかし、同時に存在することの多い前立腺肥大症の症状、たとえは夜間何度もトイレに起きる、尿の出始めに時間がかかる、尿の勢いが悪い、排尿後すっきりしないなどの排尿症状がみられることがあります。また、前立腺癌が進行してくると、上記のような排尿症状のほかに、血尿がみられたり、骨に転移すると転移による痛みやしびれがみられることがあります。

4)前立腺癌の疫学

 前立腺癌は比較的高齢の男性に発生する癌で60歳以降にその罹患率が上昇します。わが国の前立腺癌による死亡数は約1.2万人で、男性癌死亡全体の約5%を占めます。前立腺癌の罹患数は、約4.7万人で、男性癌罹患全体の約14%を占めます。年齢調整罹患率は1975年以降増加していますが、その理由の1つは、前立腺特異抗原(PSA)による診断方法の普及があげられます。早期癌では特有の自覚症状がみられないため、受診のきっかけがないという問題点がありました。しかし、PSA検査によって、気付くことが困難であった早期の癌が発見されるようになりました。

5)前立腺癌の診断

 前立腺癌を診断するための検査としては、PSA検査、直腸診、前立腺超音波検査があります。PSA検査は血液検査ですが当院では院内で測定をしていますので採血から約1時間で結果がわかります。PSA基準値は、全年齢で0〜4ng/mLと考えられています。PSA値が4〜10ng/mLをいわゆる「グレーゾーン」といい、25〜40%の割合で癌が発見されます。また、4ng/mL以下でも前立腺癌が発見されることもあります。100ng/mLを超える場合には前立腺癌が強く疑われ、さらには転移も疑われます。直腸診は医師が肛門から指を挿入して前立腺の状態を調べる検査です。また前立腺超音波検査は直腸に超音波プローブという機械を挿入して前立腺の大きさや状態を調べる検査です。これらの検査は数分で終了します。
 PSA検査、直腸診、前立腺超音波検査で異常が認められ、前立腺癌の疑いがある場合には、確定診断として前立腺の組織を採取して癌細胞の有無を確認する前立腺針生検が行われます。当院では前立腺に針を12か所刺して組織を採取する方法で前立腺針生検を行っていますが、患者様が苦痛を感じないように麻酔科と相談の上、麻酔をかけて検査を施行しています。通常は月、水の午前中に入院していただき、入院日の午後に検査を行い、翌日の朝退院するという日程の1泊2日の検査入院で前立腺生検を行っております。

6)前立腺癌の病期分類

 前立腺針生検で前立腺癌と診断された場合は病気の広がりを確認するためにCT検査や骨シンチグラフィーを行います。これらの検査で癌が前立腺内にとどまっているか、リンパ節や骨に転移しているかを確認することができます。 病期とは、癌の進行の程度を示す言葉で、英語を用いてステージともいいます。一般的に、病期分類にはTNM悪性腫瘍分類が用いられています。また臨床病期(画像などで得られた治療前の進行度)分類としてABCD分類もあります。前立腺癌のTNM分類では、次の3点に基づいて、その病期を判定します。
 T:癌が前立腺の中にとどまっているか、周辺の組織・臓器にまで及んでいるか。 N:前立腺の近くにあり、前立腺からのリンパ液が流れているリンパ節(所属リンパ節)やその他のリンパ節へ転移しているか。 M:離れた臓器への転移はないか。 T、N、Mはさらにいくつかに分けられます。

 病期は、触診所見、画像診断の結果などから決定されますが、前立腺癌の分類はほかの癌と比べて複雑になっています。これは前立腺肥大症として手術が行われ、その結果、前立腺癌が認められた場合も含めて分類するためです。またPSA検査の普及に伴い、触診あるいは画像検査などで特に癌を疑う所見がなかったにも関わらず、PSA値の異常から行った生検の結果癌を認めた場合を分類する必要が生じました。
現在の分類では、前立腺癌を疑って検査を受ける場合は、T1c以上の病期と分類され、前立腺癌を疑わずに行った検査の結果として前立腺癌が発見された場合にはT1a、T1bと分類されます。例えば、PSA値の異常のみで生検を行い、癌が検出された場合はT1cと分類されることになります。
 T2以上は触診、あるいは画像で異常があった場合の分類となります。T2は前立腺の中でとどまっている場合であり、T3は前立腺をおおっている膜(被膜)を越えて癌が広がっている場合です。例えば、前立腺被膜内への浸潤がみられる場合は、被膜を越えていないので、T2に分類されます。また、隣接している臓器である膀胱の頸部への浸潤は、画像診断により確認された場合はT4ですが、顕微鏡的浸潤はT3aに分類されます。癌が前立腺内にとどまっている場合を限局癌、癌が前立腺被膜を越えて進展している場合を局所進行癌といいます。
ABCD分類による臨床病期分類も複雑です。ステージAとは前立腺癌を疑わず、前立腺肥大症の手術の結果、癌が発見された場合であり(T1a、T1b)、「早期癌」であるという意味ではありません。前立腺癌を疑って検査を行った結果、前立腺癌であると診断された場合、ステージはBからDとなります。ステージBは一般的な早期癌を意味し、前立腺内に癌がとどまっている場合です(T2)。ステージCは前立腺外への進展が認められる場合(T3とT4の一部)、ステージDはD1とD2に分類されており、骨盤内への進展・転移がある場合がD1(T4かN1)、遠隔転移がある場合がD2(M1)となります。前述のT1cは当初このABCD分類には想定されておらず、B0と表現されるようになりました。ただし現在では、ABCD病期分類が多分に曖昧さを含んでいることから、可能な限りTNM分類に従って分類することが推奨されています。

7)前立腺癌の病期分類

T1 直腸診、超音波検査などの画像検査で不明で、偶然発見されたもの
T1a 前立腺肥大症などの手術で切除した組織の5%以下に癌が存在
T1b 前立腺肥大症などの手術で切除した組織の5%を超えて癌が存在
T1c PSAの上昇のため、針生検で癌が確認
T2 前立腺の中にとどまっている癌
T2a 左右どちらかの1/2にとどまっている
T2b 左右どちらかだけに1/2を超える癌が存在
T2c 左右両方に癌がある
T3 前立腺の被膜をこえて癌が広がっている
T3a 被膜外に及んでいる
T3b 精のうに癌が及んでいる
T4 前立腺に隣接する組織(膀胱、直腸、骨盤壁)に癌が及んでいる
N0 所属リンパ節への転移がない
N1 所属リンパ節への転移がある
M0 遠隔転移がない
M1 遠隔転移がある

日本泌尿器学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「前立腺癌取扱い規約 2010年12月(第4版)」(金原出版)より作成

8)前立腺癌の治療

 前立腺癌の治療法には、外科治療、放射線療法、内分泌療法(ホルモン療法)、PSA監視療法(待機療法)があります。前立腺癌の治療は、診断時のPSA値、腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、病期分類に基づくリスク分類、患者さんの年齢と期待余命、患者さんの病気に関する考え方などを総合的に判断して決めていくことになります。

転移のない前立腺癌に対するリスク分類(NCCNリスク分類)

超低リスク T1c、グリーソンスコア6以下、PSA10ng/ml未満、前立腺生検の癌陽性本数3未満、陽性生検での癌占拠率が50%以下、PSA密度が0.15ng/ml/g未満
低リスク T1~T2a、グリーソンスコア6以下、PSA10ng/ml未満
中間リスク T2b~T2cまたはグリーソンスコアが7またはPSA10-20mg/ml
高リスク T3aまたはグリーソンスコア8-10またはPSA>20ng/ml
超高リスク T3b~T4

日本泌尿器科学会編「前立腺癌診療ガイドライン 2012年版」(金原出版)より

①PSA監視療法(待機療法)

 前立腺生検の結果、比較的おとなしい癌がごく少量のみ認められ、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に選択される方法です。特に高齢者の場合には、なるべく体への負担の少ない治療法を選択していくことが大切になるため、PSAの数値などをみながら経過観察をするPSA監視療法は治療法の選択肢の1つとされています。
 具体的にはグリーソンスコアが6以下で、PSAが10ng/mL以下、病期T1-T2までの低リスク群に対して、PSA値を3カ月から6カ月ごとに測定して、その上昇率を確認します。特に積極的な治療を行わないため、当然、治療による副作用はありませんが、癌と診断されていながら「特に何もしない」ことに対して、精神的な負担を感じる人もおり、そのような人にはこの方法は向いていません。
 PSA監視療法とは「この先、前立腺癌に対する治療をまったく行わない」ということではありません。PSAの数値の確認や症状の変化、ときには再び針生検などを行い、その都度「経過観察を続けるのか」それとも「根治的治療あるいはホルモン療法などへの治療に切り替えるのか」について、判断していくものです。

②手術療法

 手術では、前立腺と精のうを摘出し、その後、膀胱と尿道をつなぐ処置がなされます。癌が前立腺内にとどまった状態にあり、期待余命が10年以上であるとされる場合には、最も高い生存率が保障できる治療法であると認識されています。
 手術の方法には、下腹部を切開して前立腺を摘出する方法(恥骨後式前立腺全摘除術)と、内視鏡下に切除する方法、さらにはロボットを使用する方法があります。手術の入院期間は通常約10日です。問題点としては出血、術後の尿失禁、術後の勃起障害などがあります。当院では開腹手術による前立腺摘除術を施行していますが、ある程度の出血が見込まれる場合には手術の前に自分の血液を採っておいて手術の時に使用する自己血輸血を行っています。術後の尿失禁は多くの場合は一過性で、術後3-6か月で70-90%の方で改善します。術後の勃起障害は陰茎に向かう神経を温存する方法である程度予防可能ですが、癌の存在部位によっては神経温存ができない場合があります。2012年に、精密な鉗子を持つ操作用手術ロボットを遠隔操作して行う、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術が保険適応となりました。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術は、開腹手術と同等の制癌効果があり、出血量が開腹手術に比べ少ないとされています。経験を積んだ術者が行うと術後の尿失禁の軽減につながる可能性があります。当院には設置されていませんが、ご希望があれば札幌市内の設置済みの施設にご紹介しますので、担当医にご相談ください。

③放射線療法

 前立腺癌に対しては、体の外から放射線をあてる外照射療法と、体の中から放射線をあてる組織内照射療法があります。外照射療法では一般的に1日1回、週5日で7~8週間の照射を行いますが、通常は通院による治療が可能です。経直腸的前立腺超音波検査で確認しながら、前立腺の中に小さな放射線を出す物質(線源)を挿入することで行う組織内照射療法は、外照射療法と組み合わせて行われることもあります。
 癌が骨へ転移したことで起こる痛みの治療や、骨折予防のために放射線療法を行う場合は、場所や痛みの程度などによって照射の方法が異なります。
 放射線治療には、急性期の副作用がいくつかありますが、5年、10年と時間が経過してからあらわれる副作用(晩期合併症)もあります。外照射療法の副作用として、前立腺のまわりの直腸、膀胱の障害に伴う症状があらわれます。さまざまな要因による直腸への刺激で、下痢や頻回の便通、排便のときの痛みや出血が起こります。また、尿がたまるなどの要因で膀胱が刺激され、頻尿、急に尿意を催して我慢できなくなる、排尿のときの痛み、といった症状が起こる場合があります。通常は外来通院で対処可能な程度であり、治療終了後、時間がたつと次第に落ち着いてきますが、時に長引くことや悪化することがあります。組織内照射療法は、小さな粒状の容器に放射線を出す物質を密封した線源を、前立腺へ埋め込む治療法です。半日で治療が終了し、前立腺に高濃度の放射線を照射することが可能であり、外照射療法と比較して副作用も軽度です。ただし、線源が尿中に排せつされる可能性があるため、手術後、最低一晩は入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は、半年程度で効力を失うため、取り出す必要はありません。体の中に放射線が残っていますが、周囲の人に対する影響に関しては問題ありません。
 当院には放射線照射装置がありませんが、放射線治療の適応の患者さんや希望される方は札幌市内の放射線照射が可能な施設をご紹介します。

④内分泌療法(ホルモン療法)

 前立腺癌は、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンの刺激で病気が進行するという性質があります。したがって、男性ホルモンの分泌(ぶんぴつ)や働きを妨げれば、前立腺癌の勢いを抑えることができます。これを利用したのが内分泌療法(ホルモン療法)です。
 内分泌療法(ホルモン療法)は主に転移のある前立腺癌に対して行われます。転移した癌細胞も、もともとの前立腺癌の性質をもっているため、内分泌療法(ホルモン療法)が効力を発揮します。また、転移のない前立腺癌で、年齢、合併症などのために手術や放射線治療を行うことが難しい患者さんに対しても内分泌療法(ホルモン療法)が行われます。さらに、放射線治療の前あるいは後に短期間の内分泌療法(ホルモン療法)が併用されることもあります。
 方法としては精巣を手術的に除去する除睾術を行うか、それと全く効果の等しい注射剤を注射します。この注射剤は脳にある下垂体が出すホルモンを抑制し、精巣での男性ホルモンの産生を低下させます。注射剤の場合は、1カ月あるいは3カ月または6か月に一度注射することで精巣からの男性ホルモンの分泌を抑えます。また、男性ホルモン(アンドロゲン)が癌に作用しないように働く、抗アンドロゲン剤という飲み薬を服用することもあります。抗アンドロゲン剤は副腎から分泌される男性ホルモンの働きも遮断します。現在、内分泌療法(ホルモン療法)の初期段階では注射剤あるいは飲み薬が一般的に併用されたり、病態によっては単独で使用されたりすることがあります。
 内分泌療法(ホルモン療法)の問題点は、長く治療を続けていると、反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返すことがある点です。この状態を「再燃」といいます。再燃状態となると新規抗アンドロゲン剤や女性ホルモン剤あるいは副腎皮質ホルモン剤などが使用されます。内分泌療法(ホルモン療法)は前立腺癌に対して有効な治療法ですが、この治療のみで完治する治療ではなく、病勢を抑える治療になります。

⑤化学療法(抗がん剤治療)

 内分泌療法(ホルモン療法)が有効でない症例や、内分泌療法(ホルモン療法)の効果がなくなったときに行う治療です。現在では、ドセタキセルによる化学療法が標準化されています。また、2014年9月に、カバジタキセル(商品名:ジェブタナ)という新しい抗がん剤が発売となりました。ドセタキセルの有効性が認められない場合でも、カバジタキセルを使用することにより、生存期間の延長が期待できます。