泌尿器科前立腺がん

 昨今高齢化及びPSA測定が普及したこともあり、前立腺癌患者さんは増加の一途をたどっています。PSA高値などで前立腺癌の存在が疑われる患者様に対しては、原則前立腺MRIを実施し、生検での的中率を高め、さらに不要な生検を省くよう務めています。当院では原則一泊入院の上前立腺生検を行っています。
生検でがんの診断がくだされれば、ステージング検査としてCT検査や骨シンチグラフィーを行い病気の進行具合を確認します。 前立腺がんの治療は手術療法、放射線療法(強度変調放射線治療:IMRT)、ホルモン療法など多義にわたっています。患者さんの病態、希望を十分考慮し、適切な治療を相談の上、選択いたします。
また近隣には西日本唯一の重粒子線センターがあり、希望される患者様においては紹介も可能で、様々な選択肢があります。

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術は、次に挙げるような様々なメリットがあります。

術後回復が早い

まずは、従来の腹腔鏡下手術にも通じて言えることですが、開腹手術に比べ手術創が小さいため、術後の疼痛が軽減され、術後回復が早いのが長所の一つです。
現在のところ、術後一週間程度で退院されています。

出血が軽減できる

手術中気腹と言って腹腔内に炭酸ガスを注入し、おなかを膨らませて手術を行っています。そのため、気腹の圧力で静脈からの出血が抑えられ、出血が軽減されます。
さらに、従来の開腹手術や腹腔鏡手術に比べ、良い視野で繊細な操作が行えるので、小さい血管からの出血も丹念に止血することにより出血を軽減することができます。
現在のところ、いずれの症例においても100ml前後のわずかな出血のみで、輸血を要した症例は一例もありません。

より安全に繊細で正確な操作が可能

術者及び助手は、内視鏡から得られる情報を拡大された立体画像を見ながら手術をします。さらに手術操作を行う鉗子先端は多関節を有するため、人間の手と同じような細かな操作が可能になります。これらにより、あたかも術者の目と両手が患者さんのお腹の中に入っているがごとく手術操作を行うことができます。

手と同じような動きが可能な多関節を有する鉗子

また、手ぶれ防止機能も備わっており、より安全に繊細で正確な操作が可能となり、病巣のより確実な切除、繊細な膀胱尿道吻合、さらには尿道括約筋機能や勃起神経温存など機能温存の面でも威力を発揮します。

術者は立体拡大視野で術野を見ながら
コンソールのマスターを操作

逆にデメリットとしては、本術式では腸管を頭側に重力で引き上げることにより、視野の妨げにならないようにするため、25度から30度に頭低位をとる必要があります。
したがって眼圧の髙い緑内障を患っておられる患者さんは適応外と考えられます。
当科では、腸管が視野に入らない後腹膜アプローチも症例によって使い分け、その場合15度くらいの軽い頭低位でも施行可能で、眼圧の影響は少なくなるよう配慮もしています。

ERAS

ERASとはenhanced recovery after surgeryの頭文字をとったもので、術後回復能力強化プログラムと訳されています。術後早期の回復、退院を目標にエビデンスのある様々な周術期の管理を取り入れたプログラムを目指します。
たとえば、術前輸液は行わず、手術直前まで飲水可能にし、術後早期に食事や歩行を開始、さらには術後ドレーンなど不必要な管はなるべく挿入しないなど、患者さんの身体的、精神的負担を軽減させ、早期回復を促進させるプログラムです。
当院におけるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘においては、ERASを導入し、術後早期の回復、退院を目指しています。

チーム医療

手術は一定のトレーニングを経て、ライセンスを得た術者が行い、さらには経験を積んだ看護師、臨床工学技士などとともにチームを組んで手術に立ち会いますので、安心して手術を受けていただけます。

手術費用

本術式は、保険適用となっています。費用は健康保険の負担割合や、所得によっても異なりますので、費用が気になる方は病院の算定係にご相談ください。

IMRT 強度変調放射線治療

コンピューターを利用し、腫瘍の形態に合わせて放射線照射野や線量を調節する先端の放射線治療です。前立腺がん治療においては前立腺に集中的に照射し、周辺臓器である直腸や膀胱への照射を抑えることにより、放射線性直腸炎や膀胱炎といった副作用を増やすこと無く、治療効果を高めることが可能です。当院放射線科は播磨地域において前立腺癌放射線治療の中心的役割を果たしています。