三重病院 臨床研究部長 藤澤隆夫

はじめに:
「べにふうき」臨床研究のきっかけ

 栄養学を学ばれた方は、食品の機能が三つに分けられること、すなわち、栄養素としての一次機能、「おいしさ」の感覚にかかわる二次機能、そして疾病の予防と回復、生体防御、老化防止などにかかわる三次機能があることをよくご存じでしょう。これを人類の歴史に当てはめれば、原始のころ人類はまず空腹を満たすために活動しましたが、豊かになるにつれて、よりおいしい食物を求めるようになりました。

 しかし、それだけでは飽食から不健康状態に陥ることに気づいたため、現代は食べることによってよりよい健康を求めるようになってきたというわけです。昨今、世間を揺るがす「食の安全」問題は、「食による健康増進」の強い志向がベースにあるから、いっそう増幅されているといっても過言ではありません。

 現代の農業、食品産業もおいしいものだけをつくっていては売れないので、健康増進をキャッチフレーズとした食品の開発は今や熾烈な競争です。スリムになるとか、血糖が高めの人のよい、とかを売りにした食品群がコンビニ・スーパーの棚に溢れているのは、このトレンドの象徴ともいえるでしょう。

  前置きが長くなりましたが、私たち国立病院機構は、健康と疾病を左右するこのような食品の問題にも関わるべきことは言うまでもありません。とくに、インターネットなどで誤った情報が簡単に世にはびこる時代、食についてもひとつひとつ科学的な検証を行い、正しい情報を国民に伝えていくことが求められています。

そこで、私たち三重病院の臨床研究部は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所と2004年から共同研究を始めました。

 全国数カ所にある同機構の研究拠点のひとつがたまたま三重病院の近隣にあったことが縁でしたが、同研究所が「べにふうき」という緑茶の成分に強力な抗アレルギー作用を発見して、臨床への還元をすすめていたときに、アレルギーの臨床研究を続けてきた三重病院臨床研究部が絶好のマッチングとなったわけです。

「べにふうき」緑茶とは?
 野菜茶業研究所の山本万里博士の研究グループは茶の機能性を調べる過程で、抗アレルギー作用を評価する検定系を確立、多くの茶葉中の抗アレルギー物質探索の結果、1998年にメチル化カテキンという物質をみいだしました。メチル化カテキンとはカテキンの水酸基の一部がメチルエーテル化されたもので、肥満細胞や好酸球の脱顆粒・サイトカイン産生を抑制するなど強い抗アレルギー作用をもちます。この物質が「べにふうき」という品種に多く含まれていたわけです。


べにふうき茶畑

 「べにふうき」は1965年に国産の紅茶用品種として開発されましたが、輸入紅茶に押されて衰退の一途をたどり、紅茶輸入自由化に続いて1975年に日本での紅茶生産が中止されて以来、試験場の片隅にひっそりと栽培されるのみの存在となっていました。しかし、それが新しい研究によって、再び脚光を浴びることになったのです。ちなみに、私たちが日頃飲用する緑茶はほとんどが「やぶきた」という品種ですが、これにはメチル化カテキンは含まれません。
 山本博士らはその後、九州大学その他の研究施設と共同で、有効性の検証を始めました。通常の飲用量でメチル化カテキンの十分な血中濃度が得られることやアレルギー性鼻炎とスギ花粉症の症状を軽減するなど多くの研究成果の結果、「べにふうき」茶は商品化されることになり、今や3月の花粉症シーズンには飛ぶような売れ行きです。

「べにふうき」エキスクリームの開発とアトピー性皮膚炎への効果
 私たち三重病院では小児のアレルギー疾患を主要な専門領域のひとつとしていますが、アトピー性皮膚炎についても多くの患者が県内外から受診、外来診療のみならず、重症例には入院治療も行っています。
 筆者が山本博士と共同研究の打ち合わせをする中で、強い痒みと外見上の問題のために子どもたちのQOLを著しく低下させるアトピー性皮膚炎への効果はどうだろうかということになりました。
 この疾患は最新のガイドラインに準拠して治療しても、悪化・軽快を繰り返し、なかなか治癒には至りませんので、なんとかしたいという思いがありました。そこで、まず2,3人の患者さんに「べにふうき」緑茶を飲用してもらうことからはじめましたが、アレルギー性鼻炎と異なり、思わしい効果が見えませんでしたので、メチル化カテキンを含む「べにふうき」茶葉エキスを配合したクリームを作成、保湿剤として通常の治療の補助療法に用いる臨床試験を行うことにしました。
 
 早速、当院の倫理委員会での承認後、第一次の試験を開始、まずは9名の患者さんを対象に、「べにふうき」クリームと対照クリームを保湿剤として、左右に分けて外用してもらいました。その結果、「べにふうき」クリームでステロイド外用剤の必要量が減る(=症状が安定して、悪化が少なくなることを意味します)ことがわかりました。
 そこで、2005年11月1日に野菜茶業研究所とクリームをつくった中北薬品株式会社、三重病院の三者で「アトピー性皮膚炎用外用剤及びその製造方法」として特許も申請、2007年5月24日に公開されています。

 多施設共同研究の成果を発表へ
 続いて、この効果を検証するために、三重病院が中心となり、多施設共同研究を開始、富山大学、神戸大学、富山赤十字病院を入れて、さらに詳細な試験を行いました。この試験でも同様の結果が得られ、図のように、ステロイド外用剤の量は有意に減少しました。

 これらの結果は日本アレルギー学会や日本小児アレルギー学会などの専門学会で発表し、現在、論文投稿の準備中ですが、一般向けにも、平成19年1月20日に有楽町朝日ホールでの静岡県茶業会議所主催のシンポジウム「知って得する緑茶機能の最前線」、平成19年2月放映のBSジャパン特集番組、平成20年1月24日に東京国際フォーラムでの野菜茶業研究所主催の公開シンポジウム「新しいカテキンの力:高メチル化カテキン「べにふうき」緑茶の機能と新製品開発」などで公表しました。

 国際フォーラムでのシンポジウムでは「べにふうき」を様々な形で商品化した企業の製品展示もあり、報道関係者を含む250人以上の参加者がありました。その後も、全国ニュースで紹介されるだけでなく、週刊ポスト、静岡新聞などにも取り上げられ、筆者のところにも「いつから売り出すのか?」という問い合わせの電話があるなど対応に困ることも。

引き続く臨床研究
 私たちはさらに科学的な検証を進めるため、現在は保湿性能も含めて客観評価する「べにふうき」クリームの二重盲検試験を開始しています。一方、「べにふうき」緑茶飲用によるスギ花粉症への効果に関する二重盲検試験も、当院の増田佐和子耳鼻咽喉科医長(4月より臨床研究部アレルギー疾患治療開発研究室長併任)を中心に行っています(アサヒ飲料の受託研究)。この試験では、症状評価だけでなく、耳鼻科医による鼻粘膜の客観評価とマルチプレックスビーズアレイシステム(臨床研究部)による多種のサイトカイン測定も行うこととなっています。

おわりに
基礎研究の成果を臨床に応用して、実用化につなげる「トランスレーショナル・リサーチ」こそ私たち国立病院機構が担うべき臨床研究です。その中で治療薬の開発研究だけでなく、「べにふうき」のような機能食品の研究もたいせつな仕事のひとつとして、これからも発展させていきたいと考えています。

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(広報誌「NHOだより」平成20年3月号より)