治験は次世代への贈り物
「治験は次世代への贈り物」
弘前病院受託研究管理室
泉井 亮1)、齋藤美穂子2)、吉田和美3)、漆田 斉4)、寺谷弘二5)、齋藤侯智6)
1) 受託研究管理室長、臨床研究部長、2) CRC、副看護師長、3) CRC、薬剤部治験主任、4) 副薬剤科長、5) 薬剤科長、6) 企画課長
1.はじめに
「治験は次世代への贈り物」を合言葉に当院では治験の推進を図っています。先日「国立弘前病院 総合力の高さ証明 治験実績 道・東北3位」という見出しで青森県の地方紙「東奥日報」(平成20年1月5日)に取り上げられました。これは昨年11月までの治験契約状況で当院が好成績をあげており、請求額で東北・北海道ブロックで第3位になっていることを報じてくれたものです。実は昨年度も同ブロック内で北海道がんセンター、仙台医療センターに次いで請求額は第3位の成績でしたが、ここ1,2年の当院の治験実績の伸びが著しいということで記者の関心を引いたようです。この実績を総合力の高さという視点で評価してくれたことを病院あげて喜んでいます。
2.当院が治験を推進する目的
治験についての当院の捉え方は他の国立病院機構の病院と違いはないと思いますが、治験の推進に私たちは以下の3つの意義を置いております。
1) 国立病院機構の一病院として、機構が担う臨床研究・臨床試験(治験)の発展に寄与する。
2) 治験は社会貢献である。
3) 外部資金が獲得できる。
この中で、1)は2)と3)の目標で治験を進めることで達成することができます。
3.当院の治験実績
当院の治験契約額は昨年12月までで8,000万円を超えています。請求額は5,028万円です(12月現在)。昨年度の請求額の総計が4,236万円でしたので、請求額ではすでに昨年度の総計を800万円超過したことになります。国立病院機構全体の契約金額も伸びていますので、当院だけが際立っているわけではありませんが、機構全体の請求額の中で当院の占める割合は昨年度0.89%でしたが、12月現在では1.13%となっています。一方、当院の治験症例数は平成17年度10症例、平成18年度39症例、平成19年度(12月現在)40症例であり、これも順調に伸びています。なお、1治験当たりの依頼者の治験薬を設置してからの来院回数は、治験によって異なりますが6-29回です。
4.治験推進のための当院の取り組み
当院に他院と異なる独自の活動があるとは思いませんが、当院は治験研修会に力を入れています。その理由は、当院の治験推進には職員の治験に対する意識が重要であると考えるからです。当院の治験を進める推進力は、まず、治験による社会貢献を職員が如何に理解するか、にあります。次に、当院は県民所得が全国で2番目に低い青森県(平成16年度内閣府資料)にあるため、患者さんには可能な限り経済的負担の小さい医療を進める必要があります。この場合、治験による外部資金の導入が如何に医師をはじめ当院職員の医療レベルや研究環境の向上に役立つかを職員が認識するか、にあります。そこでこれらを啓発する目的で当院では毎年、治験研修会を開催し、そこでは治験を行うことのメリットや治験に選ばれる病院であることの誇りを強調しています。それと同時に、治験コーディネーター(CRC)の活動を詳しく紹介し、CRCがどこまで手伝えるか、実施者は何をすればよいかを説明します。ちなみに今年度の治験説明会(平成19年12月13日実施)の内容は、病院長による弘前病院における治験の意義、から始まり、治験の概要(臨床研究部長)、治験の依頼される病院とは(薬剤科長)、治験の研究費について(企画課長)、治験事務局業務について(CRC、薬剤部治験主任)、CRC業務について(CRC、副看護師長)でした。
また、実際の治験の実施に当たっては、スタートアップミーティングを開催し、具体的な実施内容について勉強し合い、知識や情報を共有します(写真1)。さらにスタッフの個々の仕事内容についてCRCが説明します(写真2)。
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写真1 スタートアップミーティング風景 |
写真2 CRCによる業務の説明 |
5.治験に選ばれる病院であるために
治験はやりたいからといってすぐにできるものではありません。まず治験の実施病院として依頼者から選ばれなければなりません。選ばれるにはその診療科が相当数の患者さんを有しており、これからもその科で診療を信頼して患者さんが集まって来る病院である必要があります。国立病院機構本部が契約し、各病院に参加を呼びかけてくれる場合も(当院の治験も多くはこれに応じているものです)、症例が少なければ治験に参加することはできません。
治験の実施病院として選ばれるためにもう一つ重要なことは信頼できる治験結果を提出できる医療レベルがあることです。一つの治験の実施には一つの診療科に限らず、検査や放射線科など、ほとんどの病院内職種が横断的に関係します。それゆえ、治験には病院としての総合力が問われます。
治験に選ばれる病院であることを目指すということは、結局、各職種の有機的連携が密で医療レベルの高い病院を目指すことに他なりません。医療レベルの向上を目指す日々の努力が患者さんからの信頼を呼びます。契約通りに症例を重ね、信頼性の高い結果を提出することで、依頼者からの信頼が得られます。信頼が得られれば依頼者は何度でも必要なだけ来てくれるはずです。嬉しいことに、当院は地理的には決して便利なところとは言えませんが、リピーターの依頼者も出始めています。
6.おわりに
治験の実績が伸びている直接の原因は、おそらく当院CRCが業務に精通してきて、きめ細かい活動ができるようになって来ていることにあると思います。問題が発生したらすぐにこれに対応し、二度と同じ問題が生じないように対策を練っている姿に感心します。
しかしもう一つ理由があるかもしれません。昨年10月に開催されたある治験のスタートアップミーティングで、参加したスタッフに最後に話した責任医師の言葉が忘れられません。「もしこの薬が承認されるということになれば、これまで一日食後3回飲んでいた薬が一日1回でよいことになる。これは患者さんにとって嬉しいことだね。さあ、しっかりと気合を入れて取組もう。」これだと思います。このように、患者さんのため頑張ろうとする医療者の志とその意気込みが治験を支えています。だから治験は患者さんに尽くす私たちの誠意でもあるのです。
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