第46回 日本臨床細胞学会秋期大会を開催して
仙台医療センター 臨床研究部長 手塚文明
去る平成19年11月30日(金)・12月1日(土)の両日仙台国際センターで「第46回日本臨床細胞学会秋期大会」を主催しましたが、穏やかな小春日和に恵まれ、学術集会に3000名(会員)および公開フォーラムに1000名(一般市民)が参加し、盛会裏に終了することができました。
本大会の開催に対して厚生労働省および国立病院機構からはご後援をいただき、仙台医療センターの職員有志には長い準備の過程を支えていただきました。また、全国ネットの国立病院機構内施設には本学会の会員も多く、多くの方々が応援に駆けつけてくださいました。この紙面をお借りして厚く感謝申し上げます。
日本臨床細胞学会は日本医学会加盟学会の一つで、1万人超の会員を擁し、全身臓器の細胞診断をカバーし、社会的に「がん検診事業」とも深く関わりながら発展してきました。その診断精度は、本学会が1968年に創り上げた専門医および細胞検査士の養成・認定制度に基づく精度管理によって維持されるもので、今や世界最高のレベルを誇っていると言っても過言ではありません。
大会ポスター
さて、第46回日本臨床細胞学会秋期大会を開催するに当たって、まず大会ポスターを作成しました。これは、昨年の初めに国立病院機構内のすべての施設に送り掲示をお願いしたものですが、その由来を説明しましょう。
1613年10月、仙台藩主・伊達政宗の命を受けた支倉六右衛門の一行は月の浦(宮城県石巻市)から太平洋横断の旅に出ました。この航海については公式記録は徳川幕府の手によって完全に抹消され、わずかな資料がメキシコ、スペイン、ローマに残されているだけ、今なお多くの謎に包まれたままですが、ローマ教皇への謁見とイスパニアとの貿易交渉を目指していたと推測されています。この時に支倉一行を運んだ船が、日本で最初に建造された大型帆船サン・ファン・ バウチスタ号です。重量500トン、全長55m、幅11m、140人の日本人と40人のイスパニア人が乗り込んだと言われています。それから400年の歳月が流れ、その復元船が月の浦に完成しました。それを見ると、あの昔に大型帆船を建造した高い技術、太平洋横断を可能にした確かな航海術と壮大な気宇に感慨を覚えずにはいられません。
これが本大会ポスターのモチーフとなりました。明るく、温かく、そして上品に描いてみたつもりです。日本臨床細胞学会はまもなく創設50周年を迎えようとしていますので、それに相応しく、朝陽に照らされ新たな出航の時を待っているイメージを描いてみたわけです。
次いで、大会テーマの設定です。それを“細胞診断の科学と社会”としました。私たちの学会が長い伝統に立ち未来に向かって発展するために、「科学性」と「社会性」という2つの軸足をしっかり固めていかなければならないとの思いからです。
そして、この軸足に沿って、「がんの細胞異型」と「がん検診」というキーワードを掲げてプログラムを編成し、特別講演3題、教育講演4題、シンポジウム5題、ワークショップ9題、タスクフォース7題、国際フォーラム、バーチャルスライドセミナー、一般演題381題という構成になりました。
がんの細胞異型に迫る
「細胞異型」と言えば、私たちが悪性(がん)を判定する形態学的な根拠としているものです。これは日常的な概念ですが、その成り立ちや本態を改めて問われると殆ど分かっておりません。確かに、「癌は遺伝子の病気である」と言い、癌細胞の遺伝子変化だけで癌の診断が可能であると主張する人も少なくありません。
しかし、実際の診断で「細胞異型」を顕微鏡で把握する方法に勝るものはありません。遺伝子変化は一次元的であり、細胞異型は三次元的であり、両者の隔たりが容易には繋がらないのです。そこで、本大会でこの隔たりを埋めることを試みてみました。まず古典的な立場から「細胞異型の形態学」を総括し、次いで分子生物学の立場から中尾光善先生(熊本大学発生医学研究センター教授)に特別講演「細胞異型の成り立ちを探る、がんのエピジェネテイクスと核内構造」をお願いし、これらを受けた形で「シンポジウム:細胞異型に迫る」をセットし、活発な討論を行いました。「細胞異型」は古くて新しい課題ですが、正面から取り上げて検討されたことがありませんでした。本大会から細胞形態学と分子生物学との協調が生まれたことを喜んでいます。
がん対策基本法とがん検診
わが国のがん医療は、平成19年4月に「がん対策基本法」が施行され、大きな転換点を迎えました。この基本法に基づいて、これから10年の間に癌による死亡数を20%減少させ、また癌の早期発見を促すため検診受診率を50%まで引き上げる方針も打ち出されています。私たちの学会はがん検診事業と深く関わり合いながら発展してきましたので、本大会では、こうした情勢を踏まえて肺がん検診、子宮がん検診、乳がん検診の課題を教育講演とワークショップで取り上げ、それぞれの現状と将来について熱のこもった討論を行いました。
また、垣添忠生先生(国立がんセンター名誉総長)に「日本のがん医療、老健法からがん対策基本法へ」と題した特別講演をお願いしましたが、わが国におけるがん医療が、基礎研究の成果を踏まえて、国と医療機関と国民のそれぞれが果たすべき責務を明確にした協調の中で、到達目標を掲げて進んでゆくという新しい時代に入ったことを示され、満席の聴衆に深い感銘と希望を与えてくださいました。
市民公開フォーラム、新たな若者との出会い
「がん検診」は、今から50年前、宮城県で世界に先駆けて開始された事業ですが、わが国における検診受診率は依然として低迷を続けています。子宮頸がんを例に挙げれば、受診率は20%以下に留まり、欧米の70-80%に比べて、まさに検診後進国と言わざるを得ません。
この状況を踏まえ、本大会では「なぜ受けないの?子宮がん検診」と題した市民公開フォーラムを開催しました。
この企画のユニークさは、半年前から、このフォーラムを目指して、仙台市内ほぼすべての女子高校と専門学校を巡り「出前講義」をやらせていただいてきた点にあります。若い生徒や学生に対して、子宮がんについて正しい知識を普及し、併せて検診の重要性を訴えてきました。「がん対策基本法」は今後10年間に検診受診率を50%まで引き上げることを掲げています。この目標達成のためには、未だがん年齢に達していない若者の意識を啓発しておくことが大切であると考えたからです。そして、この試みは多くの学校教育の関係者に歓迎され、マスコミにも取り上げられました。
果たせるかな、当日の市民公開フォーラムには、その前段に川島隆太先生(東北大学加齢医学研究所教授)の特別講演「脳を知り、脳を鍛える」をセットしたこともあり、多くの高校生を含む1000人の一般市民が集まってくださいました。 学会は、勿論、会員によって成り立っているものですが、一般市民に支えられてこそ発展できるのだと実感したしだいです。

毎年の医学関連学会開催一覧表をみると、ほとんどの学会は大学関係者による主催となっていますが、最近国立病院機構職員の健闘が目に付きます。これは国立病院機構の中にいろいろな学会をリードする人材が育っていることの証左で、喜ばしいことと思います。ただ、今回の学会主催を経験してみて、大学以外の者が大きな国際学会や全国学会を主催する負担や苦労を知りました。今後、国立病院機構として、こうした活動に対する評価と支援を期待したいところです。
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■会期:平成19年11月30日(金)~12月1日(土) ■大会テーマ:“細胞診断の科学と社会” 1)特別講演 2)教育講演 3)公開シンポジウム 4)シンポジウム 5)細胞検査士会要望教育シンポジウム: 6)ワークショップ 7)国際フォーラム:「Present status of respiratory cytology in Asian countries」 8)スライドセミナー 9)タスクフォース 10)一般演題(示説) 11)班研究報告(平成17年度採択課題) |



