悪性脳腫瘍を対象疾患とした活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK療法)の実施
大阪医療センター 臨床研究部 
政策医療基盤技術開発室 金村米博
脳神経外科 科長 森内秀祐


 大阪医療センター臨床研究部においては、政策医療基盤技術開発研究室が中心となって、再生医療分野などの臨床現場で使用される各種ヒト幹細胞の培養技術・品質管理技術の研究開発を行っています(http://www.onh.go.jp/cri/seisaku/index.html)。そこで蓄積された細胞培養技術・ノウハウと、臨床研究部に設置されている治療用ヒト細胞加工のための専用施設(セル・プロセッシングセンター:CPC)(写真上)を活用して、脳神経外科と共同で悪性脳腫瘍の治療成績の向上を目指して、活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK療法)を開始しました。

CD3-LAK療法は患者さんの血液から白血球の1種であるリンパ球を分離し、それを体の外で増殖・活性化させて、免疫力を高め、再び患者さんの体内に点滴で戻す、がん免疫細胞療法の1種です。

対象となる疾患

 悪性脳腫瘍(悪性グリオーマ、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍など)は、日本国内で年間、悪性グリオーマと悪性リンパ腫で人口10万人あたり約4人程度、転移性脳腫瘍で人口10万人あたり約5~10人程度の発生率の病気です。現在の標準的な治療では、まず外科的手術で可及的に摘出し、摘出した標本を用いて病理組織診断を確定させた後、その個々の腫瘍の組織型に最も適した補充的治療を追加実施します。

 治療には放射線治療、化学療法、インターフェロンβを用いる免疫療法などがあり、これらをうまく組み合わせて行う集学的療法が標準的な治療法として実施されます。しかし、初回治療が奏効してもその後の再発時は治療に対して抵抗性を示し、最善の治療法を実施しても最終的な予後としては、悪性グリオーマで中間生存期間が12~15ヶ月、悪性リンパ腫で1年、転移性脳腫瘍で6ヶ月と極めて不良な難治性疾患です。現在実施されているこれら標準的治療で見込まれる以上の生存期間の延長、あるいは闘病期間中の患者さんの生活の質の改善などを求める場合、これに加えて何らかの先進的治療の追加を検討せざるを得ないと考えられます。

化自己リンパ球療法(CD3-LAK療法)

 このような悪性脳腫瘍に対する補充的治療として、患者さん自身の細胞を使用した免疫療法である活性化自己リンパ球療法や樹状細胞療法などが実施されています。今回、私たちが開始した活性化自己リンパ球療法(CD3-LAK療法)は、静脈採血で得られた、約20~30mlの末梢血から分離したリンパ球を、体外でTリンパ球を活性化させる作用を有する抗CD3抗体とインターロイキン2(IL-2)を用いて刺激することで、14日間で約1000倍以上まで増殖させた後に、点滴で投与します。治療に使用するリンパ球の分離・培養作業は、十分なトレーニングを受けた専門スタッフが各種基準書および標準作業手順書(SOP)に従いCPC内において実施し(写真上)、高度な衛生管理、製造管理が施されています。また、最終的に患者さんに投与する細胞は、無菌試験、エンドトキシン試験、マイコプラズマ否定試験、フローサイトメーターを用いたリンパ球分画評価試験(写真下)、等を行い、その品質および安全性を確保しています。


 今回のCD3-LAK療法の実施に際しては、同様の治療の実施に関してこれまでに累計6,000人以上の患者に対する約50,000件(2007年6月末現在)におよぶ世界最大の治療支援実績があり、海外では資本及び同技術の供与先である企業が既に医薬品としてCD3-LAK療法の製造販売承認を取得した実績を有するなど、豊富な経験と知見を持つメディネット社(神奈川県横浜市)から技術供与を受けております。

実施体制
 この治療は、大阪医療センター医学倫理委員会の承認を受けて、健康保険で認められている一般的な治療法ではなく、あくまでも可能性を追求したいと望まれる患者さんの希望に応じて、個別に実施される自由診療として行うものです。また、対象疾患は悪性脳腫瘍に限定され、他の悪性腫瘍に対しては治療効果のエビデンスが十分になるまでは治療対象とはしません。今後、有効な治療法に乏しい悪性脳腫瘍の患者さんの治療成績の更なる向上を目指していきたいと考えています。


写真上:治療用ヒト細胞加工のための専用施設(セル・プロセッシングセンター)での細胞培養作業
写真下:フローサイトメーターを用いた細胞品質試験