骨の欠損、注射薬で再生~宇都宮病院が開発~
骨の欠損、注射薬で再生 ~宇都宮病院が開発~
(吸収置換性人工骨の開発から最新骨折治療まで)
宇都宮病院 臨床研究部長 田中孝昭
本年1月28日付けの日経産業新聞1面に当院臨床研究部で開発した骨折治療法が掲載されたのを機に、人工骨の最新状況を紹介する機会を与えていただいたので、ここに紹介します。
骨腫瘍、骨髄炎、骨折、人工関節のゆるみなど、様々な原因により骨欠損が生じる。こうした骨欠損の修復に欧米ではドナーから採取した同種骨が主に使われてきたが、ウィルス感染などの問題がある。一方、我が国では同種骨の入手は困難で、主に自家骨移植が行われてきた。しかし、自家骨は採取量に限界があり、さらに採骨部痛が高率に発生する。そこで自家骨・同種骨の代替として骨補填材、いわゆる人工骨が開発され、その使用頻度は年々高まっている。現在国内で使用されている骨補填材はハイドロキシアパタイト(HAP)、リン酸カルシウムセメント(CPC)、β-リン酸3カルシウム(β- TCP)の3種類である。それぞれに利点と欠点があるが、吸収という点からみると前2者はわずかに吸収されるのに対し、β-TCPは殆どが吸収され骨に置換される。1989年以降、我々はオリンパス㈱と共同開発した気孔率75%β-TCP多孔体を1000例以上に用いてきたが、骨形成が得られなかったものは感染と骨腫瘍の再発であった。
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図1 13歳、女児。腓骨18cm採取部に移植したβ-TCPブロックの経時的変化 |
図1は13歳女児の腓骨18cmを採取後、温存した骨膜上にβ-TCPブロックを移植したもので、術後1年半で腓骨は再生され骨髄までも最構築されており、再び移植に用いることも可能である。このように気孔率75%β-TCPブロックは良好な骨伝導能を有し,吸収性に優れた骨補填材であることがわかったが、圧縮強度が3MPaと物理的強度が低いため荷重肢に用いた場合には長期間の免荷が必要であった1,2)。そこで基礎実験結果を基に、吸収される性質を維持し物理的強度を増加させたβ-TCPブロックの開発を行った。その結果できたものが気孔率60%ブロックで、圧縮強度は22MPaと従来の気孔率75%ブロックの約7倍の強度を有する。
近年の高齢化により変形性膝関節症例は増加し、数千万人が膝痛で苦しんでいると推定されている。変形性膝関節症の多くは内側型で、いわゆるO脚を呈する。代表的な治療法として高位脛骨骨切り術(HTO)があるが、これまで行われてきたHTOは外側から楔状の骨を切除してX脚にするclosed wedge法が一般的であった。しかし、骨切除による将来の問題や腓骨切離に伴う腓骨神経麻痺などいくつかの欠点があった。こうした問題を解決するため、2001年10月よりopening-wedge HTOを行ってきた。同法はclosed-wedge法とは逆に、内側から開大してX脚に矯正する手技である。初期の症例には骨欠損の充填に自家骨を用いたが、気孔率60%β-TCPブロック開発し、2003年5月当院倫理委員会承認後は、承諾の得られた症例には自家骨の代わりに移植している。このことにより骨採取が不要となり手術時間の短縮が可能となった。
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図2 78歳、男性。気孔率60%,75% β-TCPブロックを用いたopening-wedge HTO |
図2は78歳男性に対して行ったopening-wedge HTOであるが、術後1年でβ-TCPは殆ど吸収され骨に置換されている。これまで70例以上に同法を行い良好な成績を得ている3,4)。すでに気孔率60%β-TCPブロックの申請を厚労省に行っているがまだ認可は下りていない。しかし、FDAの認可は昨年8月に得られ、米国ではすでに使用されている。
もう1つの改良点は、ブロック状のβ-TCPでは複雑な形状をした骨欠損部への充填が困難で、顆粒状では欠損部から漏出する問題点があった。そこで欠損部への補填方法の工夫として、顆粒状のβ-TCPと骨・骨髄成分であるⅠ型コラーゲン5)、もしくはヒアルロン酸6)を混合したペースト状でinjectableな骨補填材を開発し(図3)、
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図3 injectableなβ-TCP |
さらに骨形成促進を目的として線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor-2;FGF-2)を加えた複合体を用いて骨欠損の修復を試みた。
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図4 ウサギ脛骨骨欠損の修復 |
図4はウサギ脛骨に5mmの皮質骨欠損を作製し、同部にⅠ型コラーゲン、β-TCP顆粒を充填したもの(A群)、A群にさらにFGF-2を加えたもの(B群),何も充填しないC群を作製した。その結果、複合体を充填したB群のみ、術後12週で皮質骨が再生された(図5)。
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図5 図4の術後12週。B群のみ皮質骨と骨髄が再生 |
こうした結果を基に臨床応用を検討する場合、重要な点は安全性と医療経済性である。そこで、すでに医薬品として認可されているヒアルロン酸のなかで最も粘性の高いスベニールを選択した。同剤は変形性膝関節症の治療薬として広く使われているものである。FGF-2は皮膚潰瘍治療薬として認可されているフィブラストスプレーの凍結乾燥したものを使用した。これらをβ-TCP顆粒に混合することによりinjectableで骨形成促進作用を有する骨補填材を開発した(図6)。
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図6 臨床例に用いる注入可能な複合体の組み合わせ |
昨年5月、当院倫理委員会承認後、承諾が得られた症例に臨床応用している。
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図7 大腿骨転子部骨折に対する使用例。顆粒状にみえるのが複合体。 |
図7は、小転子が大きく転位した大腿骨転子部骨折における実際の使用例であるが、顆粒状に見える複合体が小転子と大腿骨骨幹部間に注入され留まっていることがわかる。現在は手技上の容易さから大腿骨転子部骨折に使用しているが、鎖骨骨折など、様々な骨折や骨欠損の治療に応用可能である。さらに成長因子や投与時期の改良により、将来、注射で骨折を治せる時代が来るであろう。
参考文献
1) 田中孝昭ほか. 日整会誌:80,2006.
2) Tanaka T. et al. Tissue Eng:11,2005.
3) 田中孝昭ほか. 医療:58,2004.
4) Tanaka T, et al. J Biomed Mater Res-B in press
5) Chazono M, Tanaka T. et al. J Biomed Mater Res-A:15,2004.
6) Komaki H, Tanaka T. et al. Biomaterials:27,2006.










