京都医療センター「ER京都」
“北米型ER”始動について
京都医療センター
救命救急科医師 笹橋 望
京都医療センター救命救急センターは1984年12月の開設以来、地域救急医療の中核として様々な患者に応需すべく活動してきました。
最近の患者受け入れは2004年度10,401名(うち救急搬送3,097名)2005年度11,167名(うち救急搬送2,616名)、2006年度11,409名(同2,642名)となっております。
現在は石倉宏恭部長を始めとする6名の専任スタッフと2名のレジデントの計8名からなるメンバーで救急外来ならびにICU入院患者の治療を中心とした日常業務を実施していますが、救急部マンパワーは年々減少傾向であり、既存のマンパワーで如何に救急患者に応需するかが大きな課題でした。
近年わが国でも救急部門における、いわゆる“ER体制”が注目され、さまざまな施設においてその導入が試みられています。当センターにおいても本年5月より病院の全面的協力下に、“ER体制”による救急診療への新たな試みに取り組みを始めましたので、その経緯と現状を紹介します。
従来からの当センター救急外来の体制は比較的軽症である1、2次救急(いわゆる“Walk-in患者”)と重症の救急搬送症例である3次救急に分けて対応する運用形態を実施してきました。この形態は一般的に救命救急センター併設型救急告知病院で実施されている救急体制であると思われます。
しかし以前より搬送手段と患者重症度が必ずしも一致せず、このような体制での救急対応は現実的ではなく、初療室での患者トリアージによる重症度評価が本来あるべきスタイルであると認識し、救急初療室の運用面における改革の必要性が生じていました。
たとえばWalk-inで来院された頭痛患者さんが、検査の結果クモ膜下出血と診断され、実は緊急手術を要する重症例であったり、逆に救急車で搬送された患者さんの何割かは独歩で帰宅可能な軽症例であるという現実に遭遇していたからです。
さらに『1,2,3次救急』のような病院側本意の診療区分では患者さんが理解し難く、患者側にも多少の混乱を生じさせることになっていました。自分の疾患はどの医療機関を受診すればよいのか判断に悩んだはずですし、疾患の重症度に関係なく単に『救急車を利用する』『しない』の違いによって行き先の医療機関が決められてしまうこともあったかもしれません。さらに病院間による“たらい回し”の問題を解消し、周辺医療機関の要請にも応える必要がありました。
こういった様々な課題に対する解決策として1,2次と3次の垣根を取り払い、重症度や診療科に関係なく全ての時間外受診患者に対して適切な対応が可能な環境を整備し、いわゆる“北米型ER”体制を構築すべく病院全体で検討を重ね、より効率の良いかつ本来の救急診療を目指す事になった訳です。

新しいER型救急では、救急車搬送患者のトリアージをER担当医が担当し、Walk-in患者のトリアージをERナースが対応して初期の重症度を評価します。
Walk-in患者でも緊急性が高いと判断した場合は重症患者に準じた優先的診療を受けることになります。
当院においては若手医師を中心とした5名のER担当医が救命救急部スタッフの指導,監督のもとWalk-inから救急搬送まで、全ての患者をカバーしています。
初期評価後、専門医の治療が必要と判断された場合や入院治療の適応と判断した場合は、各専門科をコールし、以降の診療を依頼することになります。つまり、ER担当医師は初期診療に専念し、その後のフォローアップは入院治療を含めて専門診療科へバトンタッチします。
当院では夜間も内科,外科,脳卒中,循環器科,小児科,産婦人科の各科当直医が待機しており、ER体制開始以降、患者の引継ぎはスムーズに行なわれています。この診療体制はER診療を効率良く運用する上で重要な点の1つであり、さらに医療ミス回避にも寄与していると思われます。
加えてER体制の効率的運用には検査科、放射線科、薬剤科のコメディカル部門の協力は不可欠です。当院における各科のER診療に対する対応は非常に協力的で、24時間体制での診療バックアップが実現可能となっています。これにより夜間であっても多くの患者情報が得られ、迅速な処置,治療が可能となっています。昼夜の別なく通常と殆ど変わらない体制での患者診療がER体制の円滑な運用に大きく寄与していると思われます。
さらにER診療の大きなメリットとして若手新人医師の教育が挙げられます。旧体制では若手医師は1,2次救急の対応が主で、3次救急に関与するチャンスは限られており、この点に対する不満もあったようです。しかしER体制下ではこの壁はなくなり、新人医師は軽症から重症までより多くの症例を経験することが可能となり、彼らの不満解消にもなりました。
毎朝行われるカンファレンスでは各自が対応した症例をプレゼンテーションすることが義務付けられており、上級医による詳細を極めた厳しい“教育的”議論が交わされますが、重症患者に接する機会が増えることにより、ますます充実したトレーニングの場となっています。このカンファレンスで得られる知識は非常に多く、研修医のみならず各科の若手専門医教育の一翼を担っているとも思われます。
なお、ER体制の稼動にあたっては患者診療ならびに教育において総合内科医の存在は不可欠と考えます。ERではCommon diseaseに対する診療機会が増える事は自明であり、これら疾患に対するEBMに立脚した診療手順の教育は総合内科医が最適者であると考えます。つまり、救急医と総合内科医のコラボレーションこそがER体制にとって重要な点のもう1つであると思われます。
当院での試みはまだまだ始まったばかりです。ER体制で患者受け入れの敷居が低くなった反面、どの医師が誰を診るかなどの役割分担がスムーズに行かない場面もあるようです。また、ERナースへのさらなる教育や院内外でのERの啓蒙活動は急務と考えています。始まったばかりのERではありますが、院内各部署をはじめ、周辺病院や開業医の先生方あるいは消防行政からは一定の評価が得られ、滑り出しは上々と考えています。当面は試行錯誤を繰り返しつつ、患者さん本位の理想的なER体制を構築していきたいと考えています。
(広報誌「NHOだより」平成19年4月号より)
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