朝のカンファレンス

名古屋医療センター小児科 前田尚子

このたび国立病院機構の専修医留学制度により約3ヵ月間の米国研修の機会をいただきました。

この制度は今年発足2年目で、全米に156病院を有するVeterans Affairs(VA)のFellowship Programに参加するという形で、米国の医療や医学教育について見聞を広めるというものです。

今年も昨年と同じく7名が全米各地で研修に参加しました。私の研修先は、米国南部のアラバマ州バーミンハムにあるBirmingham VA Medical CenterとAlabama大学Birmingham校(UAB)及びその関連施設でした。


1) アラバマ州バーミンハム

 アラバマ州は米国南部に位置しており、州の人口は約450万人、州都はモンゴメリー市です。バーミンハムは州最大の都市で、周辺地区を合わせると約100万人が居住しています。この地域は歴史的には、1950年から60年代の黒人の公民権獲得と差別撤廃運動の中心地として知られており、市内には公民権運動の歴史を展示する博物館があります。バーミンハム最大の雇用主はUABであり、ダウンタウン南方に多くの医療関連施設を有しています。

 私は研修中にVA病院の他、UAB大学病院、小児病院、County hospital 等の見学をさせていただきましたが、全ての施設が近接していました。アラバマ州の住民の人種の比率は、白人71.1%、アフリカ系アメリカ人26.0%、アジア系0.7%(2000年国勢調査)となっています。 私の専門は小児血液腫瘍性疾患ですが、教科書の中でしか知らなかった鎌状赤血球貧血の患者さんを多数みせていただいたこと、日本と違って常に患者さんの人種を意識して診療にあたることは得難い経験となりました。

集合写真


2) 小児病院での研修

 VA病院を受診する患者は退役軍人のみですから、大半が高齢の男性です。

私は小児科医ですので、UAB付属の小児病院でも研修をさせていただきました。外来は8時半から診療開始ですが、完全予約制で、医師一人当たりの患者数は5人から15人程度とゆったりと時間をかけて診療できる人数に設定されていました。病棟では午前5時頃から看護師が採血を開始し、レジデントが出勤する7時前には全ての検査結果が出揃っています。

 レジデントは検査結果を確認するとともに一通り回診し、これをもとに8時半からattending physician、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーを交えて症例検討会が行われます。その後指導医とともに入院患者(10-20名程度)を回診します。

 毎日12時から1、2時間は昼食付きの講義が行われ、レジデントや医学生は時間がある限り出席し、午後からは新規の入院患者の対応、夕方には再び指導医とともに重症患者の回診を行います。午後5時になると当直医(主にフェローがその業務にあたります)は、申し送りを受けて当直業務につき、その他のフェロー、レジデントも勉強や、発表の準備など夜遅くまで病院に残っていました。

 診療レベルについては、日本と大差ないと思いましたが、医学生、若手医師に対する教育は、質、量ともに充実していると感じました。日本の臨床医が忙しすぎること、米国では医学生、研修医教育への熱意や指導力が昇進における評価項目になっているという側面もありますが、指導方法については大変参考になりました。また、接遇教育に力をいれていたこと、コスト意識を高めるため医療費についての講義も行われていたことが印象に残りました。


3)VAにおける電子カルテシステムを利用した医療の測定、医療安全管理対策

 VAでは、眼科関連の領域ごく一部を除いて、ほぼ全てが電子カルテ化されており、全米156のVA病院がひとつのネットワークで結ばれています。このため、患者さんが米国内のどのVA病院を受診しても、そのカルテにアクセスすることが可能です。

 VAではこのシステムを利用して医療の質の評価、医療安全管理対策を行うとともに、Quality Improvement in Health Care分野の研究や研究者の養成にも力を入れています。
 今回Vermont州で4日間に渡って開催されたNational Quality Scholars Fellowship Program Summer Instituteに参加する機会を得ました。VAの電子カルテシステム導入は1980年代末のことだそうですが、この優れたシステムを利用して、罹患率、死亡率、合併症、患者満足度やコスト等の指標を用いた医療の質の評価を行い、臨床現場で提供する医療の質の改善につなげることで、その評価を向上させてきたそうです。
 

 従来通りの方法で漫然と診療するのではなく、常に改善の余地がないかどうか科学的な視点で診療を見直すという取り組みは、考えてみれば当たり前のことなのですが、客観的でわかりやすい評価システムを構築し、実行するのは難しいことです。初めてこうした分野について学びましたが、よい経験をさせていただきました。

謝辞
最後になりましたが、研修の機会を与えてくださいました機構本部の矢崎理事長、留学にあたり色々とご高配いただいた柏木先生、情報提供くださいました前年留学生の先生方、一緒に留学された先生方、そして留守中、多大なご迷惑をおかけした名古屋医療センターの皆様、米国滞在中お世話になりましたStuart Gilman先生、Carlos Estrada先生、Roger Berkow教授をはじめ多くの皆様にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

(広報誌「NHOだより」平成19年11月号より)

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